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君のカンパニュラ  作者: 9どう?亜依


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18/52

遅れて届く記録

 何かがおかしいと思ったのは、たぶん最初からだった。

 でも、面倒くさかった。

 確信に変えるほどの情報もなかったし、わざわざ誰かに話して深堀りする気もなかった。


 智子に言えば、たぶん本気で調べる。

 だから言わなかった。

 自分が「何かに気づいていた」と悟られないように。


 Bellflower_06の映像は、見覚えのあるシーンだった。

 というより、あの場にいたのは俺自身なんだから当然か。


 けど、そこに映っていた“青い紙片”は、記憶の中では存在していなかった。


 あの日のやりとりは、確かに覚えている。

 昼下がり、旧企画室の片付け名目で入った部屋。

 智子と何気ない話をしながら、部屋の隅に積まれていた書類箱を動かした。

 その時、彼女が足元をじっと見つめた瞬間、俺はとっさに椅子を軋ませた。


 「あ、ごめん、ちょっと動いた」


 そう言ってごまかしたのは、彼女の視線の先に、“見られたくないもの”があった気がしたからだ。


 けれど、実際に何があったかは覚えていない。

 その“紙片”は、映像の中にだけ存在していたようにも思える。


 Bellflowerのログファイルには、アクセス制限がかかっている。

 でも、仕組みを作ったのが“社内の人間”である以上、穴はある。


 俺は数週間前から、こっそり自分のアクセスログを複製し、

 “裏フォルダ”に別の名前で保存していた。


 表のフォルダ名は「資料整理_2021」「定例メモ_0428」など。

 実際には、その中に再生時間を加工したBellflower_01〜06のログが丸ごと入っている。


 俺が“何か”を探していたのは、単純な疑問じゃない。

 あの映像の中の俺が、俺じゃないように見えたからだ。


 Bellflower_06の映像に映っていた“自分”は、妙に無表情だった。

 口調も硬く、間の取り方もいつもの自分じゃない。

 智子がなにかを訊ねたとき、一拍遅れて笑って見せたあの瞬間——


 あれは、明らかに“作られた反応”だった。


 俺は“あのときの自分”が演じているように見えて、

 自分自身の記憶と食い違っているのを感じていた。


 そして、ある夜。

 保存しておいた複製ログのタイムスタンプを一つずつ確認していたとき、

 ふと、ひとつだけ異常なファイルを見つけた。


 名前は「___」

 拡張子も、日付も、存在しない。

 表示フォルダの中に埋もれていた“記録未分類”というセクション。


 開いてみると、1分弱の映像が再生された。

 音声はなく、画面は暗い。

 ただ、最後の2秒だけ、**“モニターをのぞき込むような男の顔”**が、ぼんやりと映っていた。


 それは、俺だった。

 ……はずだ。

 でも、どう見ても目の奥の色が違った。


 そして、映像の最後には一枚の紙片が映った。

 小さく、丸められていて、色褪せた青。


 それを映像の中の“俺”が拾い、開く。

 そこに書かれていたのは、たったひとつの単語。


 「RETRY」


 俺は即座に映像を停止し、ファイルを複製フォルダごと削除した。

 この映像がどこから流れてきたのか、誰が保存していたのかも不明。

 けれど、このファイル名が「Bellflower_07.enc」だと仮定すれば、すべてがつながる気がした。


 智子には、まだ何も言っていない。

 言うつもりも、今のところはない。


 あの映像の中の“俺”が、彼女に嘘をついていたなら、

 それは俺自身が、どこかで“再実行されていた”ということになる。


 Bellflower_07——

 すでに、開かれていた可能性がある。


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