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君のカンパニュラ  作者: 9どう?亜依


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11/52

編集された真実

 記録とは、歪むものだ。


 レンズは現実をそのまま写す。

 だが、編集された瞬間に真実は消える。

 その事実を知っている者だけが、本当に人間を“扱える”。


 モニターの中で、女が笑っていた。

 会議室。レンズは彼女の表情にズームし、口元にゆっくりとピントを合わせる。


 #05:智子。分類=安定型。想定内。

 解析済み。映像の一部は切り取られ、次の分析者に渡される。


 俺は録画ソフトのウィンドウを閉じ、ファイルの一部を圧縮したZIPに変換する。

 送信先のアドレスは、固定の中継サーバ。

 そこから先は知らないし、知る必要もない。


 俺の役目は、観察者であり、フィルターだ。

 撮る。記録する。選ぶ。そして、一部だけを“渡す”。


 それが、Bellflowerシリーズの原則。


 デスクの上に、#01〜#05のDVDコピーが並んでいる。

 映像の中で何人かは“反応”を起こした。

 自分が撮られていると気づく者。

 その視線をカメラ越しに感じる者。


 だが、問題は——#02の対象者だった。


 彼/彼女の反応は、想定を超えた。

 記録が進行中に手を加えようとした。

 その瞬間から、#02は非公開扱いになった。


 削除ではない。あれは“保留”だ。

 何かが起きたときのための“トリガー”。



 USBに保存したコピーは一部だけ。

 そのファイルを社内で「落とす」のも、もちろん計算済みだ。


 拾わせる。気づかせる。

 その過程に“誰が反応するか”を見ることが、

 このプロジェクトの第2フェーズ。


 そして今、その反応が現れ始めた。



---



 夕方、〇△駅の改札前。

 喫茶店のガラス越しに、俺は一組の男女を見る。


 男は、情報を繋ぐ“演算装置”。

 女は、いまだ対象を理解していない“未分類”。


 その間に座るもうひとりの女——芦沢美咲。

 これは想定外だった。


 兄の記録には、“妹に本件を知らせないこと”が明記されていた。

 そのタガが外れた今、予測は一段階上のステージに進む。


 つまり、観察対象が自ら動き出したということ。


 俺はバッグからポケットWi-Fiを取り出し、タブレットを開く。

 社内サーバーへのアクセスログ。

 不審な接続履歴。

 そして——削除済みファイルへの復元試行。


 やはり大輔が動き始めた。


 俺が操作する前に、彼のIPアドレスが#04フォルダに接触していた。

 ギリギリで止めたが、次は完全に入られる。


 彼は面倒くさがりだが、やると決めたら止まらないタイプだ。


 ……予測通りだ。


 でも問題はそこじゃない。

 俺が背筋を冷たくするのは、別のアラートだった。


 #01のログイン通知。


 このフォルダは、誰にも公開されていない。

 なのに、誰かが中身を見ようとしている。


 ――誰だ?


 美咲でもない。大輔でもない。

 社内ネット経由ではない不審ルート。

 つまり、第三の存在。


 Bellflowerは“観察”のプロジェクトではない。

 もっと本質的には、“選別”だ。


 対象がどんな“反応”を示すか。

 無自覚に見過ごすのか、立ち止まるのか、踏み込むのか。


 それによって、次の段階へ進む人間が決まる。

 だからこそ、#02と#04は封印された。

 あの対象者たちは、“踏み込んでしまった側”だから。


 そして今、あの男とあの女もまた、

 踏み込もうとしている。


 俺はタブレットを閉じ、立ち上がる。

 近くの監視カメラに視線を向け、

 その先にいる誰かへ向けて、無言で口を動かす。


 「次を、始めろ」


 それが合図だった。


 観察から選別へ。

 選別から——実行へ。

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