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レジデント・サーガ   作者: サンダル先生
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⑨ 怒り

 「申し訳ありません!」間宮は、ベッドの患者とともに引き上げる医師らを見送った。患者を送っていったのも同期の研修医らだ。指導医は後ろで足踏みしている。


「うーん、ま!心臓外科で診ますけど!早急にオペでしょう!」眼鏡の優しそうな講師だった。

「途中で、まさか気づかずに」

「心電図の検査だったからなあ。ましてや教授先生からの」


結果をパラパラマンガのごとく、往復させている。もちろん読んでない。


「教授さんもさ、まあ症状から狭心症だけっていう予想したんだろうけど。でもねえ検査するほうも検査するほうで。ほかの検査を優先させるとかさあ・・・指導医の先生は、そのときどうしてたの?」


居なかった、と言ってしまうと・・・あの人だ。仕返しがこわい。


出入りする循環器内科医らが、ドンマイと肩を叩いていく。でもそんなのは要らない。


「やれやれ。こんなのが多いんだ。これだって、最近は診断名を決めてしまって、その検査で当たりつけようとする。スクリーニングって知らんのかねえ。おおっと言っちゃだめだよ?」


間宮が呼ばれたとき、廊下で見せられたのは胸部CTの造影写真だった。解離している。胸部大動脈解離。心臓の一部に及んだのか、心臓付近から外へ拡がったのか・・・


『肩にまだあるような』


そうか。解離が・・・解離が拡がっていたんだ・・・。あたしは、自分の仕事を仕事の範囲に入れてしまったために・・・。しかも気が散ってた。あの切れやすい小川に。小川のバカに!役立たずが!間宮は感情がやや高ぶるのが止められなかった。


午後、カンファレンスルームでは野中が1人、いたずらっ気な表情で見据えていた。


「やっちゃったなーマミー!」

「あたしじゃない」

「ダイセク当てたとはね」


「だからアタシじゃない!」

しかし、野中が黙るほど圧倒的ではなかった。


「そうは言ってないよ。冷静にならないと」

「・・・・・」


間宮は出て行った。ちょうど、田宮が入る。

「おっかねー・・・あれ、どしたん」

「僕は悪くない。なんかプンプンしてる」

「検査中に、急変するとはなあ」


ドカッと座る。野中は本を手前に寄せた。


「でもあれでしょ?教授の検査の出し方がまずいって」

「聞こえるよ?」

「いーだろ。誰も教授に言えないのかな。なんの悪気のない顔してたって」


野中はワープロ画面を見て打ち続けていた。


「教授だからね・・・」


次々と、医局員が入ってくる。ユウキは、汗びっしょりで隅のソファーに座り込んだ。


「どーですか?ゆきちは?」野中がキー打ちつつ語りかける。

「ゆきち?ああ、この前のイレウス入院」

「腹は、痛がってない?」

「腹は・・うん今はね。でも、つらいな。胸部内科での一例目がイレウスなんて」


田宮と野中は顔を合わせた。実は、ユウキ以外の4人は集まる機会があり、そこで密かに話し合っていた。主治医のことも、自然とそこにいない人間に決まるよう、雰囲気的に持っていった。


この4人が集まるのは・・・入局前から決めていた飲み屋。といっても、おしゃれなバーだ。バーテンは高齢女性だが、バブルでひと財産築きあげた。この飲み屋はふだんは研修医、イベント時にうちの医局員で繁盛している。どこにでも、その医局員らの集まるアイコンというのがある。


ハタケ指導医が、喋りながら入ってきた。

「サマリー作って。また相談して。おう!」他科のドクターが廊下に消え、ユウキの横に座る。


「へへへ。どや?ユウ」

「ごはん、いつ食べれるかと」

「お前が?ケエッヘヘ!」

「・・・・・・・」

「腹痛時の指示、出せってナースがうるせえんだよなあ。ったくあいつら!大学のナースは、薬数えてるのしか見たことねえ!」


キイ、とドアが少し開いたが、みな見やるとすぐ閉まる。


「杉ちゃんが・・・ユウの本命オーベンが戻ってくるまでなんとかせんとなあ」

「そんなに怖い人なんですか?」野中がキーを止めて聞いた。


「いつだっけかなあ。以前、何度か研修医のオーベン担当してさ。みんな鬱になった。ワハハ!」

「そんなあ・・」ユウは少しうなだれた。


 間宮は、大学図書館で文献検索。端末は今のようなものではないが、検索用であり動作に不満はない。ここで検索して印刷し、一冊ずつ直接自分で探しに行く。


「くそっ・・くそっ」

涙が、いや決してこぼすことはせず・・・表面張力で耐えた。


「んでよぉ・・んでよぉ」


キリキリ、キリキリ、と印刷の音。


だが、まだ自分の病棟患者すら当たってない、このもどかしさ。しかし、後になればわかる。今という時が、人生のうちで最大の踊り場であることを。

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