表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジデント・サーガ   作者: サンダル先生
8/24

⑧ クールダウン

 ダン!と一段高で動き出したトレッドミル。アスリート風の男性患者はやや小走りになる。


間宮の手前の黒・緑表示画面には、心電図の変化がオンタイムで表示。患者の胸の電極からのケーブルが、長く伸びている。


「先日は、あの・・・」間宮は声が震えていた。

「ちゃんと変化見て」珍しく顔を出してくれた、小川。いや、彼がここに来たのは・・・医局に教授が居座っているからだ。大学医局は、教授がいるかいないかで雰囲気がガラリと変わる。特に院生らは恐れている。新たな用事を思い出されたり、忘れたはずの悪材料を思い出してしまうかもしれないからだ。


「目標心拍数、達します。終了」

間宮はキーを押し、ウィーンとクールダウンが始まった。


「ST下がってます。2ミリ近く」

「ゆっくり横になってもらえ」命令形なのは当然だが、小川もとっくに落ち着きを取り戻している。


いろんな現場で医師らの化学反応が起こるのは珍しくない。刻一刻を争う場合、よかれという主張が異なりぶつかる。思うようにいかず手間取る。しかしそれを引きずってまた違う現場に行くと、手元がもう冷静ではない。本来の医療はできない。いまの運動負荷のように、クールダウンが重要だ。もちろん、そのときどれだけ自分を鑑みているかだが・・・。


患者は無症状で、横になっている。

間宮は外来カルテを見ているが・・・


「読めません」

「教授の字はな。文語体だから。いやいや、例えだよたとえ」

「労作性の狭心症で、早めのカテーテル検査を」

「それを決めるのは、俺たちじゃないから」


心電図・・いっこうに虚血所見の回復がみられない。


「あの、今動いてもらうのは」

「どして。次の症例!」

「STがさらに・・」下がるほど、虚血の程度は高い。

「うんまあ、いつかは戻るやろ。本人は大丈夫だと」


患者は起き上がって、少しうずくまっている。


「あっ!」間宮が駆け寄った。

「なんか、へん・・・」50代の筋肉質は、殴られたように苦しんでいる。

「まずは、まずは安静に!」

「ニトロ!ニトロニトロ!」


そのために置いてある台車、救急カートの引き出しを引っ張る。


「あった!これですよね?」

「はよやれはよれ」小川、やはりイラチである。ピピピ・・と彼のポケベル。

「これを舌の下に、含んで・・」間宮は冷静だった。


「ちょっと呼ばれたんで、行ってくる」小川、出る。

「あっ・・」


パタン・・・と閉まった。横では、また同僚による呼吸機能検査。


「はーい!いきすってー!」「ケケケ」

オーベンのハタケの笑い声。何が面白いのか・・・すべてはカーテンの向こう。わからない。


「どうです?一番痛かったのが10として。今は・・?」

患者は汗が多くなったようだが

「ましまし・・でも、まだここが」


左肩を指さした。

「肩ではなくて、胸は」

「いや、胸自体はなんとか」


ST変化・・虚血変化はそれ以上は進んではない。しかしまだ回復ではない。


ドオン、ドオンとドアをたたく音。

「ああの、さっきから待ってるんですけどー!」

次の患者の催促。無理もない、もう1時間待たされてる。


「お待ちくださーい!」

「はよせやボケ!」バアン!と大きな殴打で静まった。


「・・・・あ、あとは外来で」

「行けますから・・・」ゆらっと立ち上がる。

「待って!車椅子!」


たしか、廊下に常備して何台か・・・廊下へバン、と出た。


「な、ない!」

さきほどのクレーマーが舌打ち。60代くらいの太った女性。

「なんや女の先生か。だから遅いんや」


「・・・・・・」呆然とした間宮の背後、男性患者は歩いて行った。普通に歩いている。

「女医さんありがとう。外来行ってますから。持っていきますね結果の書類」


手を挙げたが、無理しているような・・・


「ではどうぞ」

「チッ!」と女性が舌打ち。


その女性が中で服を脱いでいると、美女医の川口がパニックで入ってきた。


「ちょっとごめーん!あ、すみません」

「?」

「循環器マニュアルもってない?指導医の先生が見せろって」

「今はごめん、ないの」

「えーいつも持ってたじゃん!でもそっかーひい!」


出て行ったのも気に留めず、間宮は淡々と作業。傾いたポケットからのぞく、循環器マニュアル。はみだした分、手で戻す。


(前奏)


内線がかかってきた。


「はい、間宮です」


『まみやか、まみややな』松田の声。相変わらずけだるい。

「いま、立て込んでまして」


『とんでもないことに、なっとりまっせ~』


「?」


「・・・・・・」(以下、「夏が来る」)


夏が来る きっと夏は来る 頑張ってるんだから絶対来る

恐がられても 煙たがられても

諦めない 悔しいじゃない もう後には引けない

「何が足りない・・・。どこが良くない・・・。」

どんなに努力し続けても

残されるのは あぁ結局

何でも知ってる女王様

それでも夏はきっと来る


(大学病院に向けて、撃つ仕草)

私の夏はきっと来る!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ