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レジデント・サーガ   作者: サンダル先生
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⑦ 仕切るオンナ

 5人の研修医の中で、一番冷めている田宮少年はポケットマニュアルらしきものを読んでいた。

「心電図は異常なし・・・でも心窩部痛。これ国試だったら」


「だから国試違うって!」野中が患者の横で叫んだ。「すみません。大声で」

「お腹のレントゲンも撮れば良かったのに」


と田宮がつぶやいた時には、レントゲン技師はウィーン、とポータブルをバックさせていた。

「は~い、終わりですよ終わり・・・」


PC画面を見ている小川指導医。彼は・・・別患者のデータを見ているようだ。

「きょ、胸部痛の患者なんだろが!」

「ですから、それは」

「な、なにぃ」

「ですからあ。それは早朝に断られた急患のことでして」


ガバッ、と小川の図体が立ち上がった。粘る汗。循環器医師は、なぜもこうアドレナリンが・・・


「じゃ、じゃあこのかか、患者さんは何だ?」


「高橋といいます・・あたた」患者が手を挙げた。川口が、ウケそうな顔を長髪でズル隠した。


「ああ?誰だってんだ!」

「知りません!」


誰もが田宮の側だった。放射線技師は、まだそこにいた。ガスマスク顔。

「あの~・・ほんとに、もうこれで終わりなんでしょうね?」


「おお、終わり終わりって!患者の前で言うな!」

ドア手前の足レバーを踏み、技師の顔はそのまま消えた。


「つまり・・・どっかの科が診るはずの患者を、わし、いいや、お前ら。お前らだ」

小川先生は、臨床は正直ほとんどしたことがない。と学生の間では知れわたっている。インターネットがないこの時代でも、出回るノートの緻密性ったらなかった。

「さ、採血や!採血!」


「もう持っていきました」

間宮が答えた。

「るる、ルートは!」

「とってます」

「しし、診断は」

「結果を見ないと」

「け、結果を見たらわかるんか?かか、鑑別!鑑別は!」


それこそが、間宮の見せ所だった。小川は壁時計を見ながら武士のように腰かけた。


「心窩部痛ですので、多岐にわたります」

「あ~、こしいた・・・」

「狭心症心筋梗塞の他、膵炎肝炎肺炎胆管炎動脈瘤」

「しぼって言え!いや、いいなさい・・・」


小川は、非常に頼りないところを見せてしまった。彼の考えていることは何となくわかる。


<専門外だったら、いやだなあ・・・>


グイーン、とドアが開いた。さっきのガスマスクが、大角フィルムをプラプラさせながら。

「にゅういーんかな」


小川が走り寄った。

「ちょっかし」

「あらら」うまく取れず。

「かっ・・・せ!」


やっと奪った。天井にかざす。

「肺の透過性が・・・」


技師は彼の後ろで、一文字ずつ口パク。

「い・れ・う・す」

しかし、小川はついでに映った消化管ガスは見ようとせず・・・


「心拡大・・・CTR・・いや臥位か。心臓肥大は臥位の影響だ!」

技師は、両手でお手上げのポーズをして、また消えていった。


同時に、大マスクをした2人の医師が入ってきた。壮年ベテランっぽい。先頭の小太りはシャツをだらしくなく出している。

「おーなんやなんや!」

すると後ろのやせも続く。

「なんやなんや!」


ちょうど戻ってきた採血データも、そいつらに取られた。

「おう?あん?うーん。はい?」

「はい?」子分が続く。


「はいはいはい・・・!」

「ふんふん!」子分が研修医らを威嚇する。


「いやま、診ててくれたんおたくらね。ま、ええけど」

「消化器内科の担当患者さんちゅうの知らんかったんか?」

「もええ。お前のけ」

「はっ!はい!」


天ぷら顔の上級医師が、うっとうしいマスクを外した。

「イレウスやね。分かりやすく言うたろか。ちょうへいそく。ちょうがつまって、ちょうへいそく」

「わ、わかります・・・」

野中がターゲットにされていた。彼は強面だから、目をつけられたのか。


「いいですよ。おたくらが、診ます、ちゅうんやったらね」

子分が入ってきた。

「病棟に聞いたらですね。ちょうどGFした人が入院になって満床に」


「あーまんしょうかー!しゃあねーなーおーい!」


小川は知らんふりをしている。こういうtき、上司が出ないといけないのに。


「まんしょうですよーまんしょー!さーどうするー!痛いですか」いきなり患者へ。

「あ、あんたらうるさい。さっきから。痛いのこれ、なんとかくっ。できんのか!たた」

「おこらないおこらない」


彼はなだめているのか、見下しているのか・・・研修医らは固まったまま。

やっと小川が立ち上がった。

「すみませんが、消化器の分野ですから」

「あきませーん!マーゲン(鼻→胃へのチューブ)入れて輸液でしばらく休養なら、やること大きく変わらんし!」


「ですね」部下がしゃくれる。

「ま、またカンファレンスで合同いっちゃってくださーい。おい!」

「ははっ」


「あの!」小川は圧倒もできなかった。いや、大勢なら彼は・・強かったと思う。これもまた、循環器科らしいというか。


川口がどっかと話してて、やっと電話を切った。

「循環器・呼吸器病棟。ちょうど空いたそうです。ひとりなくな・・あっ」また手を口に。


間宮は表情を変えず、たださきほどの興奮で蒸気ぎみ。

「では、運びましょう。疼痛処置は病棟へ上がってから。ユウキくん、ご家族の方探して。野中くんは、オーベンらに連絡して残りは手伝って。小川先生、ありがとうございました!」


見事に仕切り、ベッドは出て行った。静かになり、小川だけが取り残された。


「・・・・・・・・」


で、少しふっと微笑んだ。


「モチは、モチ屋か。さて、今日は何食うか」カラーン!という注射器の落下音にびびった。

「ふぐっ!」



「・・・・・・」(以下、「夏が来る」)




夏が来る きっと夏は来る 頑張ってるんだから絶対来る

恐がられても 煙たがられても

諦めない 悔しいじゃない もう後には引けない

「何が足りない・・・。どこが良くない・・・。」

どんなに努力し続けても

残されるのは あぁ結局

何でも知ってる女王様

それでも夏はきっと来る


(大学病院に向けて、撃つ仕草)

私の夏はきっと来る!









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