④ 不本意
検査が終わり、学生のときと同じく学食。なんか、学生の延長みたい。間宮は、何か物足りなかった。もっと圧倒的な忙しさかと。
「なーに、そのうち嫌でも忙しくなるからさ!」先日、同僚女医の川口と話したときを思い出した。
病棟のカンファレンスルームに、その彼女はいた。相変わらず、男に囲まれている。
「でしょーっ?でしょーっ?」
口に手を当て、それでも声が大きく漏れている。向かいには、間宮のオーベンとなったモグラ、いやハタケ先生が赤面して笑っている。
「ケーッケっケッケ!」
ちやほやされてきた彼女に、いつか鉄槌を・・間宮にそんな願望がないわけではない。ひょっとしたら自分の出会いがなかったのも、この女のせいかもしれない。可能性が、なくはない。でも、これからは同僚。仲良くやっていきたい。あたしの邪魔にならないレンジで。
ふと正気に戻った川口は、色気づいたままコホンと落ち着いた。
「ん・・・みーんなお疲れ!」
「お疲れ」間宮も、機械的に応えた。
「すわれば?みなさん。あたしだけじゃ・・」
川口が立とうとしたので、周囲の研修医らも次々に座った。童顔のユウキもいる。研修医以外はハタケだけ。
「心エコーの介助がさー・・・あたし電気つけちゃっていきなり」
「え?いけない?」間宮が目を大きくした。
「だって暗室でしょー?となりは腹部エコーもやってんのー」
「怒られた?」
「ふふ・・・光ってた」
「え?」
ハタケはまた笑い始めた。
「ケエッケケケ!腹部エコーの担当だろ?消化器内科のあのハゲ・・・まだ40代だぜー!」
「だって、まぶしかったもーん」川口は、あまり配慮のない女子だった。ただ、学生の時もそうだが周囲が許してきた。
「そのうち」
「はっ?」みな突然の声に驚いた。いつの間にか、あのノッポの・・・宮川先生が立っている。また窓の外を見てる。
「そのうち、お前らもあまりの忙しさのせいで、ああなるかもよ。なーんてよ」
振り向き、コーヒーメーカーの中をのぞいた。
王子様が、しゃべった・・・!
「あ、あたし。入れます」川口が立ち上がった。
「入れる入れる?なにをなにを?」ハタケが突っ込んだが、無視された。
引き続き、ボーッとした巨体の松田が入ってきた。白衣のはちきれんさが、そのデブ性を物語る。
「腹、大丈夫か松田」宮川はコーヒーをゆっくり口に運んだ。細くて、綺麗な手・・・・間宮はついチェックを入れた。
「各オーベン、そろったわけか?」松田は、ズバンと椅子に腰かけた。いつか、その椅子は潰れるに違いない。
「ユウキ先生のオーベンが海外で・・・戻ってくるまでハタケ。頼むぞ」
「お?おう」
松田が座ったところに、加納少年(あだ名)と川口が、ハタケのところにユウキ、間宮が。宮川は、優秀イケメンの野中に対峙した。
病院でも、なぜか美しい同志、できる同志が集まるのよねー。分子みたいに。
ハタケは、慣れない口調にうって変わっていた。
「あーあのよ。おれ、病棟では患者持ってないから。ま、お前らの患者のサブ主治医になるんだけど・・・ああ、あんまり呼ぶなよな」
間宮は、何やら真剣にメモを取る。
「おいおい。聞いてんやろな」
「はい・・・どうぞ」
「ま、今度飲み行くか。親睦を深めるという意味で」
「あ、私はお酒、飲めません」
「ちょっとくらいはなあ、おい」
「今日の予定はなんでしょうか」
冷たい対応だった。評判の悪いドクターがオーベンになり、不本意が顔に出た。
「びょびょ、病棟を見て回ろ。教授回診は来週だから・・・カンファ見とけ。カンファ」
間宮がふと見ると、宮川・野中の充実王子様トークぶりが伺える。かたや、松田と川口・加納も・・・何やら建設的に思える。突然、ユウキがつぶやいた。
「あの、すみません。今日は夕方、帰るんで・・」
「?いいよ?患者も当たってないし。残るこたぁない」ハタケは余裕でみせた。
何、この空気を読まない研修医たち。あたしも・・・?間宮はガラスに映った自分のくせ毛を、ササっと直した。
(夏が来る)
近頃 周りが騒がしい 結婚するとかしないとか
社会の常識・親類関係 心配されるほど意地になる
私が好きになるぐらいの
男には当然 目ざとい誰かいて
お見合い相手の付録に一瞬グラッとするけど
One More チャチャチャ・・・・・・・
宮川が叫んだ。
「カンファはおい、ここじゃないぞ・・・(腕時計)医局棟の会議室で、もうやってる!」
「あっそ」松田が弱く答えた。
「あっそじゃねーよ松田!症例の演者、オメーだろ?」
「えっ?ああ・・・うそ?」
みな、バーンと一斉に会議室へ向かった。
(つづき)
夏が来る きっと夏は来る 頑張ってるんだから絶対来る
恐がられても 煙たがられても
諦めない 悔しいじゃない もう後には引けない
「何が足りない・・・。どこが良くない・・・。」
どんなに努力し続けても
残されるのは あぁ結局
何でも知ってる女王様
それでも夏はきっと来る
(大学病院に向けて、川口の指で撃つ仕草)
私の夏はきっと来る!




