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レジデント・サーガ   作者: サンダル先生
21/24

21 一食即発


夕方になりかけたところ、日曜日でありながらユウキは落ち着かない。研修医生活でやっとの日曜日だが、暇ができると、妙にその時間が貴重に感じて・・・特別だと思うから、考えるうちに時間が過ぎていく。


いや、気にかかるのは・・腸閉塞の患者のことだ。病態はまだ改善したわけではない。教授の根回しとはいえ、自分の手からは離れるわけだ。自分は医者らしきことをしたんだろうか。それも一生懸命と言えたか・・・


自分の声でないだろうが、繰り返し訴えかけてくるものがある。ただ、昨日ノナキーにこっそり呼ばれ「サマリーに連名させてほしい」と言われたのを思い出した。連名、って。主治医でもないのに名前だけって、なんのための打算なのか・・・。


ただ、聞いたことはある。医学論文に連名してもらって、しまいにはその論文をまで乗っ取って教授に昇格とか。


自宅のテレビも面白くなく、リモコンで消した。


「ま・・・行ってはみるか。たぶん、みんな来てんだろうなあ・・・!」

病院行くのに、準備は要らない。すべて、向こうに置きっぱなし。だいいち、医学書はクソ重い。


留守電が点滅しているが・・・あえて聞かず、リセット。

靴を片足ずつ履きながら、効率悪くスキップ。眼下には、大学病院の構内が大きく拡がる。


野中は、<家庭教師>芦原に、カルテのチェックなどを受けていた。

「そうだね。病変としてはそこが考えられるね」

「宮川オーベンは、検査全部そろってから見せに来いって」


「うん。まあ彼は推測しながら、というのは嫌いだからね。エビデンス、って最近医学界でも言うようになったようにね」

「?」

「客観的な事実をもとに、主観を加えるっていう。ちがうかな・・」

「でも、客観的な事実がすべてじゃないでしょうし」


親戚のお兄さんと思うくらい、野中は芦原にフレンドリーだった。芦原は指導医や解剖などの資格も併せ持っており、開業先は2件目を準備している。


「ま、君のお父さんには頭が上がらないしね・・」

「なんでも言ってやってくださいよ!資金援助なんて!先生ならいくらでもお金あるでしょう!」

「いやいや。金はね。銀行がどんどん貸してくるから、手持ちはないんだ」


研修医に、金の話なんて分かるはずもないし興味もない。

すると、キイ・・と近くのドアがゆっくり開いた。院生の1人。


「あのう」

「待て!いま野中くんと大事な話をしてるんだ!」かなり威圧的に変貌する芦原。

「す、すぐすみます。芦原先生、いま、カンファルームに」

「杉さんが?」


カンファレンスルームの外から、コソ泥のようにゆっくりスライドドア。


「うむ・・・」芦原は、同僚の姿を確認。

後ろでは、診療目的で脱出した研修医ら。ユウキ以外はそろっている。

いや、そのユウキがいま来た。


「おは、いや。ばんは」ユウキは処置室のほうへ向かった。いつもそこで着替えるので。


田宮は汗垂らした。

「ユウキくん・・・コベンなのに。まだ何も知らないんだよね」

「かわいそう・・」グッチが両手を口に。


芦原が奥を確認し終わったようだ。こっちに振り向く。

「寝てる」

みな、ずっこけた。


「あいつは獣だから、怒らさなければ大丈夫。今の先生が、コベン?なんだね。まあ誰でも通る洗礼だから。彼もいろいろと学ぶでしょう。まあでもね、ああいう飄々とした先生ほどうまくいったりするものさ」


なんて適当な・・・またミッチーみたいにひきつり笑い。<同僚>と言いながら、彼も杉山との間には距離がありそうだ。猛獣使いは、いないのか・・・。大学にはアドリブ上手なドクターが多い。どんな攻撃があっても、まともに弾が当たらない。とにかく交わすのが得意だ。何かしたようで、実はしていない。でも、何かはしたでしょう。そういう体質だ。


「ちわっ!」食堂のおじさんが、配達のカゴをさげている。

「あ、ありがとーう。いくらですか」間宮がウサギの耳型財布を開ける。


「うわ!ウサギ。マジか!うさぎって・・・」田宮が目を手で覆う。


「ああ、あの部屋で料金はいただきましたんで!」

「えっ?そうなんですか?でも誰が?」

「定食置いたら、無我夢中でおいしい、おいしって」

「ええっ!」


間宮は大声を上げ、失踪した。

「あれな院の先生の!」


田宮はあきれつつ、投げかけた。

「食い物くらいで、ムキになんなよマミー!」


バアン!と開けたら・・


「ふぐ。ふぐ。うまいこれ」

「ちょっと!」

「ラーメン伸びとるわあっち!」

「どうしてくれんのよ!」

「みんな食べて、俺のだけ遅れてきたのと、ち?」


机に、バーンと資料を叩きつけられた。近くの内線をビヨーン、と伸ばし・・


「院の先生に、説明して!」


ユウキの口から落ちたチャーシュウが、スープに勢いよく王冠現象し・・・間宮の両眼鏡にパチッと散った。



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