② 戦闘開始
じいさん風の医局長、橋口がぶっきらぼうに仕切る。医局員らは、さきほどのザワツキが嘘のように・・・後ろを振り向いている。
「はいはい!新入医局員!ささ!自己紹介!そのはい・・のな・・野中くん?君から!いやー彼はですな。GW前からいや国家試験合格後すぐにですな。大学院の手伝いに来ていただいて・・ん?」
誰かから、何かヒソヒソ指摘。
「ん?長い?話が?そうですな。わしが自己紹介してどうすんや。ははは。あ、わし?医局長の橋口!」
名指しされた野中・・・間宮のもと同級。色黒で、将来の安定さえ感じさせる優等生タイプだ。
「野中です!死ぬ気でやりますので、よろしくお願いいたします!」
「(一同)おおおおおおおお!」パラパラと拍手も。
あ~あ、いいのかな。こんなこと言っちゃって・・・。間宮は無表情だが心は汗だった。
引き続き、長身の日本女性が・・いや、地味でない。傾くたびに揺れる長髪、屈託ない笑顔は、医局員らの瞳孔をくぎ付けにしていた。
「川口といいます!ふつつか者ですが、よろしくお願いしまーす!お手柔らかに!」
一瞬、何人かの医局員の眉がしかめたような・・・だがそれもすぐに戻った。さっきのノッポは、まだ外の景色を見ている。
「あ、俺、俺ですよね」
ちょっと背の低い、しかしスポーツ系スタイルっぽい好青年が、二重でどこか眠そうな話し方で。
「加納です。よろ・・しくお願いします。え?以上・・・」
童顔が、間宮に「ちょっとごめん」、と手を小さく差し出す。お先にどうぞ、と間宮。
「あ、あの・・ユウキといいます。いろいろご迷惑をおかけすると思いますが、その・・よろしくお願いいたします」
すかさず、間宮は台本通りにしゃべる体制。
「間宮です。よろしくお願いいたします。呼吸器科志望です。でも循環器科の専門資格も併せて取得したいと思います!みなさま、よろしくお願いいたします!」
場は一瞬引き締まったかに見えたが、どこかしらけていた。女医への男性群衆抵抗心か。いや、医局員らは、何かタイミングをカンづいたようだ。それは・・・
バン!というドアへの反応で理解した。
「開きにくいな。おい!摩擦係数高いんとちゃう?」
入ってきたのは、オールバックの助教授だった。
「これ。直しとけ」
「はっ」医局員の1人がドアに駆け寄り、何度も開け閉め。やがて大きく開けられ・・・入ってきたのは。
「あれ・・教授ですよね?」他大学からのユウキが、間宮に聞いた。
「う、うん。そう」
禿げ上がった老教授が、よちよちと入ってドアそばの隅に座る。
「・・・・・やや、新入医局員の方々ですね・・・ようこそ!」
「あっ・・・」間宮は遅れて礼を深く下げた。医局員らは、みな教授の視線を追いかけている。
「最初はね。まあよく見ててください。先輩方の真似をして。自分1人でやらなくていいですよ。はは・・・すべて、聞けばいいんです」
何度も頷き、医局長に手振りする。
「オーベン(指導医)は・・」
「はっ。大丈夫でございます。すでに割り当てを」
「ハタケくんもか・・まあ人がねえ。いないから」
メモを見て、どこか不満そうな教授。間宮は知ってる。ハタケ先生は、以前ポリクリで教わったときの先生だ。正直、この先生の子分、いやコベンにだけは・・・。
「あ~・・・」
教授がメモを見下ろしつつ、研修医を指さす。
「野中君。君、よくやってくれとるね。休みまで返上とはね。さてオーベンは・・・」
「はい!ありがとうございます!」思わず野中が反応。
「いやいや。名前はこれから。君のオーベンは・・・宮川・・これ、宮川くんよ?」
「はい」さすがに、ノッポの宮川は窓から振り向いた。今でいう、西島秀俊ふうの好青年だ。
「きみ、野中君な。彼は優秀だから」
「・・・・よし。やろか」
「はい!」
どうもこの野中には、特別な配慮が感じられる・・と感じたのは、よそ大学から来たユウキだけだった。だが、ユウキは宮川をずっと凝視している。知っているのか?彼を。有名人だからかな・・・
「川口くん・・はーべっぴんさんやねえ君は」
「いえ!そん」
「(無視)オーベンは・・・松田」
ヌボ~ッと、巨体が立ち上がる。目つきが悪い。
「はい。よろしく」
「立たんでいい」と教授。みな笑う。
「すんません」
「立たんでいいって!おい松田!松田松田」大げさな助教授の、太鼓持ち。
「加納君・・・も、松田」
「よろしく」また松田が立とうとした。
「立つなって松田!松田やなぁ~はは」助教授がまた大げさに。どうやら、入れ込みがあるらしい。しかしこういったのは現場でそうとは・・限るのだ。不思議と。こういう無条件好かれキャラは得だと思った。あたしは、いつも石・・・。
「ユウキくん・・・ああ、隣の大学からね。ようこそ。さてオーベンは・・・」
助教授が耳打ち。
「あ、そうなのか。杉山くんは、あそう、3か月後・・・」
どうやら、オーベンは決まってるが海外のようだ。杉山という名前だけで、外のカラスまで鳴かなくなったような。
「じゃ、それまではハタケくん」
「あ、はい」目の前にいる、モグラのような男が赤面して頷いていた。間宮は覚悟した。どうやら・・・
「間宮先生のオーベンが、ハタケくん。じゃ、ハタケくん、ユウキ先生の杉山オーベンが来るまでのつなぎもいっしょに」
「がんばれよ!ハタケ!」助教授の掛け声で、一同はどっと盛り上がった。間宮はポリクリで知っていたが、一番出来の悪いドクターだった。学生らの回すノートにも、そうあった。
「じゃが、ハタケ君ではなあ・・宮川君」
「はい」
「フォローしてくださいや」
「わっかりました」
ハタケ先生は、よほど信用されてないのか。ここでの地位は低そうだ。間宮の女性本能が、自然と男をランキンしていく。
(前奏)
そうだ。大学病院。こここそが、ランキングを日々争う医師たちの戦場なのだ。教授を目指すとか、そんなドラマではない。実際は・・・
今はとっとと我慢して、次第に俺が決める側に立つ。そのための進級戦争だ。
(以下、「夏が来る」)
(長い階段を降りる日傘の女性)
近頃 周りが騒がしい 結婚するとかしないとか
社会の常識・親類関係 心配されるほど意地になる
(横切る、医局員らのイメージ)
私が好きになるぐらいの
男には当然 目ざとい誰かいて
お見合い相手の付録に一瞬グラッとするけど
One More Chance!!
本気の愛が欲しい
(床で手を伸ばす研修医ら)
夏が来る きっと夏は来る 頑張ってるんだから絶対来る
恐がられても 煙たがられても
諦めない 悔しいじゃない もう後には引けない
「何が足りない・・・。どこが良くない・・・。」
どんなに努力し続けても
残されるのは あぁ結局
何でも知ってる女王様
それでも夏はきっと来る
(大学病院に向けて、撃つ仕草)
私の夏はきっと来る!




