① 夏が来る
メガネっ子の冴えない女医は、車の中でずっと待ってた。自分が出るのを。引っ込み思案だから、いやしかし、今度こそ自分を変えないといけないのに。でも、あたしはアタシだ・・・。
エンジンを止めてカチャ、と出たらもう春じゃなかった。GWはとっくに終わってた。長期休暇は、おそらくもうない。ふと、目の前を童顔の白衣が横切った。
「真っ白な白衣・・・あれは同類よね。たぶん」
ついていくのは嫌だったが・・・彼?とは同じ方向でもあり、吸われるように後ろに従った。自ずと、いろんな数の白衣が入り口に吸い寄せられていく。
「始まるのね・・・始まるんだ」
建物の中に入って暗くなったとたん、はっと気づきやっと白衣を羽織った。目の前の童顔がいきなり立ち止まった。
「うっ」「あっ」
ぶつかりはしないが、エレベーターの前だった。しかし、他の新人医師らはためらうことなく非常階段を駆け上っていく。有り余るパワーが、2段3段と駆け飛ばしていく。
「う・・・」前の童顔の男性は、ちょこっとそっちにつられた。が、何度か振動し結局止まっている。
「・・・・」女医は、この間宮という女医は・・・
そうだ。これは彼女がまだ生きていた時の話だ。しかし、この小説の主役は彼女ではない。ただ、どうしても欠かせない人物だ。小説によくあるように、なるべく客観性のある人物の視点で描くべきだ。少なくとも導入部に関しては。
内科医、特にこの呼吸器・循環器科の合併した「胸部内科」。まだ平成始まって間もない、平成6年。
間宮は病棟のカンファレンスルームを開けようとしたが・・いや、開けないのではない。
「(だだって、だってこの医者が・・・)」
「童顔」が、緊張して開けられないのだった。いや、押してるようだ。スライドなのに。
「(フーン・・・この研修医。同じ医局だったんだ。1人、よそ者が来るって話だったけど)」
間宮は楽になった。自分のようなもじもじ君が嫌いで、同じかそれ以下っぽいレベルであると安堵した。いや、受験では痛手を食らったこともある。いかにもできない素振りをして、実力テストで上位を取るやる。そもそも、彼女がそういう噂だったのだが。
彼女はぬっと手を出し、横へスライドした。
「うっ」童顔・・・ユウキは、びくっと萎縮してそっと・・いや、例も言わずいきなり入っていった。ざわめく室内。タバコの匂い。誰もこっちを見てもない大勢。きれいな白衣が3人ほど待ってる。知ってるもと同級生たち。童顔だけが、自分には<よそ者>だ。ともあれ、研修医らが5人、揃ったわけだ。
乱雑な椅子つき机が多数。いろんな方向に身をよじらせた医局員20余りが、ガハハワハハと笑う。隅に、窓を見やっているノッポがいる。この人だけ何か違う。転校生のような雰囲気。彼女は、自分の心の重箱隅の、王子様願望の引き出しを少しだが、開けておいた。
何か、何か歌っている・・・?
「んが、くるぅ~、つがくるぅ~」
「はいはい!」突然、一瞬の沈黙。医局長の橋口、一見じいさんのような40代医師が黒板の位置へ。
「はいはい!静かに!」
「(一同)ガヤガヤ」
「揃いましたよ!こりゃこりゃ!静かにせな、やめられてまうでーこっち向かんかい!」
しゅん、と静まった。みなの視線が、後方の5人に集まった。




