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レジデント・サーガ   作者: サンダル先生
17/24

⑰ 点滴と宿敵

点滴当番・・・


定食くらいの銀のトレイを持ち、まるでランチ運ぶみたいに・・


「失礼しまーす!」

余った片手でノック、ゆっくりスライド。


個室に入る。もう1人の研修医が続く。トレイを持っている野中は、点滴をつるす。

「それでは、始めますねー!」

「テレビ、消しまーす!」田宮がリモコンをピッ、と作動。いきなり静かになる。


酸素吸入中の60代の、肺炎患者。点滴はすでに本体が何本もつってある。


「ハーハ―。ああ、ありがとう・・・」

「・・・・・」横には、奥さんとおばしき人がサッと新聞紙をしまう。眼光がまっすぐ。


野中は三方活栓を開き、点滴の長いコード先をくっつける。

「では、ゆっくり落とします・・気分悪かったら、言ってくださいねー」

「ハーハ―・・・はい」


点滴を指でクルクルとダイアル調整。奥さんも、野中の視線を追う。そうだ。家族は研修医の手先より、その視線の先を追う。そのように、研修医らは感じていた。


「オーケー」田宮はグッドのサインをした。野中は出ていき・・


「あの。いつまで」

「?」田宮は立ち止まり、ドアがまたスライドして止まった。

「いつまでこの治療が続くんでしょうか」


外は真っ暗。20時くらいか。


「え、あの、主治医の先生とは」プレカードには、主治医は「小川」と。

「ええ。小川先生は本当に、よく診てらっしゃいます。主人も私も、非常に感謝しております」

「はい・・」

「ただ、あの先生循環器がご専門でしょう?今回、心不全で入院したのですが、水は減って心臓は元通りなのに、今度は肺炎、それからまた水がたまって・・」

「水と言いましても、必ずしも心臓からの水とは限らないし」

「はあはあ。肺炎からの水!」

「いやでも、データを見ないと」

「おたく、ご専門は?まだお若いですね?あ?」


奥さんは、何やら悟ったようだ。なんせ、彼のポケットからはみ出している冊子は・・・


<研修医>ポケットマニュアル


「はい、ではよろしくお願いいたします。ごめんねー!」

田宮はもう、穴があったから入るつもりで部屋を出た。廊下では野中が黒い顔で二やついている。


「おい!自分だけ行くんじゃねーよ!」

「くっくっ・・いやあ、気分はもう指導医だねー!」


ガラガラ、と台車が暗い廊下を通る。

田宮は小さくあくびした。


「患者さんらも、もう寝る時間だなー。俺たちも、寝れるときに寝とかなきゃねー」

「研修医が寝るって言ったらだめって、上の先生たちは言ってたよ」

「なんだそれ。ノナキーもそう思うのか?」

「そりゃ寝たいときもあるけど、診療への時間が最優先だよ」

「俺はそー思わねーな。だって睡眠不足だったら、判断ミスしそうじゃん?」

「そうならないために、オーベンたちが守ってくれてるんじゃない?」

「オーベンねえ・・うっとうしいよ。あいつら」

「だめだよ、そんな言い方」

「言わせろよ。親身になるなら、俺たちより遅く来て、早く帰るなってーの!」


次の部屋。ここも個室。


「すみませーん」コンコン、と野中が叩く。真っ暗な部屋。小さい明りをつける田宮。彼は口では乱暴なことをいう癖があるが、やるときはやる男だった。

ただ、ナイーブなのが彼の最大の弱点だった。それについては、いずれ・・・


駆血帯ゴムで、しばる野中。高齢女性はやせ細っている。気管切開しており、呼吸器がついている。シュー・・パー・・シュー・・と暗闇の中に吸い込まれる音。時計が刻むように、しかるべきタイミングで医師らの心拍に訴えかける。


彼女は細いが優しい目で頷いた。田宮もやや笑顔で頷く。


「つなぎます」

ノナキーが調節、ポトポト落ちる点滴。彼女はその一滴一滴をまぶしく見つめていた。

「大丈夫ですよ。あとで来ます」


回収はノナキーの当番、田宮は解放された。

「じゃ、おれ帰るわ。血痰の患者はもう休んだし」

パン、とカンファレンスルームを開けると・・・


静かだ。いや、ぼそぼそ声は聞こえる。そして会話が途絶える。間宮、川口、ユウキ・・・ノナキー以外の研修医らは、みなここでカルテ・資料を拡げていた。今日の反省や、明日への計画。これは当然、毎日だ。夕方以降、マイオーベンのいる部屋へ赴き、また病室へ訪問し。しかし患者も食事中であったり都合が合わないこともあったりで、特に18時~21時などあっという間に過ぎていく。


これからだった。しかし・・・


「すまないね、みんな。おれ・・帰るわ」田宮は荷物を詰めだした。

「えー!」メガネの間宮が大きく目を見開いた。両腕を背中に回している。


「いや、用事あんだよ」

「おこってんの?」

「いいだろ別に」

「あたし、何かした?」

「なんかおかしいぞ、マミー最近。一言多いというか」


童顔のユウキはすぐに察した。衝突寸前・・・


「田宮くん、気を付けて」

「おう。はらへったわー」


「ま、田宮君にしては遅く帰る方かな」間宮はチクチク、それでも続ける。

「・・・・・」


間宮は再び、資料読みにふけようとしたが・・・


ドン!と目の前に手が叩きつけられた。


(前奏)


「何ちょっと?」

「だまれ・・・オバン!」田宮は渾身の力で、その3語を言い放った。

ユウキは驚いた。


「(オバンって・・・)」


グッチが田宮の尻をパーン!と叩き、まるでそれで噴射するように田宮は帰っていった。ユウキはまだ首をひねっている。グッチがこっちを心配そうに見ている。汚いものを見るような目。いや違うか・・・。


「なんだ・・・僕の知らないことが…何かある?」

このユウキも、鋭かった。


(以下、夏が来る)



夏が来る きっと夏は来る

真っ白な馬に乗った王子様が

磨きをかけて 今年こそ

妥協しない アセらない 淋しさに負けない


「何が足りない…。どこが良くない…。」

どんなに努力し続けても

残されるのは あぁ結局

何でも知ってる女王様


それでも夏はきっと来る!


私の夏はあああきっと、来るうううう!


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