表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/78

待ち人のため

「なぜ……君が……暗黒騎士魔王になんて……っ!」

リュウガの喉から、掠れた叫びが漏れる。目の前に座り込むのは、かつて共にこの国の平和を語り、時に剣を交えて笑い合った親友、勇者アラン。だが、今の彼は、崩れた漆黒の鎧の残骸に埋もれ、肌は青白く変色し、その血管にはどす黒い呪いの脈動が走っている。

「……殺してくれ、リュウガ。僕の……僕の意識が、またこの、底なしの闇に呑まれて……行く前に……っ」

リュウガの放った浄化の突きで一時的に剥がれ落ちた闇が、再びアランの足元から這い上がり、彼を侵食し始める。アランは溢れる血を吐き出し、震える手でリュウガの細剣の切っ先を掴むと、自らの心臓へと導こうとした。

「……君を、この国を……そして彼女を傷つける前に……! 早く、トドメを刺してくれ……っ!!」

かつての精悍な勇者の面影は、暗黒の呪いによって無残に蝕まれ、その瞳は絶望に染まっている。

「……黙れ」

リュウガの冷たく、氷の刃のような声が響いた。彼は震える手を強引に抑え込み、剣先を自らの胸に向けようとするアランの腕を、力任せに振り払う。

「何を……! 君まで殺されるぞ! 早く、僕を終わらせてくれッ! これが唯一の救いなんだ!」

「笑わせるな、アラン。……君は修行に出ると言って、この街を、あの店を出て行ったはずだ。それをこんな……薄汚い呪いの鎧に身を任せて、あきらめるだと? 君の正義はその程度のものだったのか!」

リュウガは一歩、また一歩と、膝をつくアランへと歩み寄る。その瞳に宿っているのは、恐怖ではない。かつてのライバルであり、親友である男の弱気に対する、激しい、燃えるような怒りだ。

「……思い出せ。修行から帰るお前の帰りを、毎日、毎日……誰が待っていると思っているんだ!」

アランの瞳が、その言葉に大きく揺れた。

「……亜美アミのことだ。彼女は、お前がいつかふらりと暖簾をくぐって、『腹が減った、何か食わせてくれ』と笑って帰ってくるのを……ただそれだけを信じて、あのカフェを守り続けているんだぞ! お前がいない間も、彼女は一度も笑顔を絶やさずにな!」

「亜美……。あぁ、彼女の……あのコーヒーの香りが……」

「僕がここで君を殺せば、僕は彼女に一生、顔向けができなくなる。美しい僕の経歴に、そんな消えない泥を塗るつもりか? 冗談ではない。僕はそんな不粋な真似、死んでもお断りだッ!!」

リュウガはアランの前に立ち、その首元を掴んで強引に顔を上げさせた。至近距離で、リュウガの放つ銀色の月の魔力が、アランの全身を覆う闇の霧と激突する。バリバリと火花が散り、光と闇が互いを削り合う。

「生きて帰れ、勇者アラン! 這ってでも、その忌々しい呪いをねじ伏せてでもだ! あの子の淹れるコーヒーを、もう一度お前が飲むまでは……たとえ地獄の王が迎えに来ようとも、僕が死んでも死なせない……!!」

リュウガの全身から、これまでにないほど清冽で強大な月の魔力が溢れ出した。それは「拒絶」の光。アランを侵食する闇を、一欠片も残さず浄化せんとする守護の光だ。

「……リュウガ……君は……本当に、お節介で……不器用な魔王だね……」

アランの瞳から、紅い狂気の光が完全に消え去った。代わりに、一筋の透き通った涙が頬を伝い、呪いの霧を消し去っていく。

「ふん……。お節介なのは、いつものことだろう?」

闇が晴れ、月光が二人を優しく照らし出す。二人の魔王と勇者の間に、かつての友情という名の絆が、今、再び強固に結ばれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ