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宣戦布告

アイアン・ハーツの月下、最果ての屋根の上。

琥珀は絶体絶命の淵に立っていた。左足のシセンが放つ光速の蹴撃は、もはや「残像」すら残さない。琥珀の身体は、受けに回った鬼神丸の刀身を通して伝わる衝撃だけで、内臓が軋み、袴は鮮血に染まっていた。

「……終わりだ。現世の侍ごときが、伝説の速度スピードを越えられるはずもない。死して己の無力を呪うがいい」

シセンの脚が、大気をプラズマ化させながら琥珀の頸動脈へと吸い込まれる。

だが――その瞬間、街の各所から三つの巨大な勝利の咆哮が響き渡った。

ガン・シールダーの衝壁。

サヤカの銀河一文字。

そして、キーラの断罪の鎌。

「……ふむ。あやつら、やりおったか」

琥珀の口角が、不敵に吊り上がった。

彼女の瞳から「迷い」が消え、代わりに見たこともない純白の魔圧が、全身から陽炎のように立ち昇る。

「……くくっ、ははははは! 面白い。実におもしろいぞ、サヤカ、キーラ、そして盾の漢よ! おぬしらの『覚醒』、この拙者のこころにも火を灯しおったわ!」

「何だと……!? この土壇場で魔力が膨れ上がるだと!?」

シセンが驚愕に目を見開く。琥珀が鬼神丸の柄に手をかけた瞬間、アイアン・ハーツの全域が、まるで時間が停止したかのような静寂に包まれた。

「……シセンと言ったか。おぬしに一つ、教え忘れていたことがある。拙者がなぜ、この刀一振りで世界を渡り歩いているのかをな」

琥珀の背後に、巨大な目隠しをした女性――守護者シノンの幻影が、一瞬だけ重なった。

「拙者の名は琥珀。西の守護者シノンが選ばれし、『西の管轄・第一代表』。……そして、おぬしらと同じく、この世を統べる魔王の一人よ!!」

ゴォォォォォォォォォンッ!!!!!

「なっ……守護者シノンの……刺客だと!?」

「刺客ではない。……『ライバル』よ! ――抜刀奥義・無間神速むげんしんそく・零ノ型!!」

ザンッ!!

音がない。光もない。ただ、世界が「一筋の線」によって両断された。

光速を誇ったシセンの左足が、付け根から音もなく滑り落ちる。琥珀はすでにシセンの背後に立ち、静かに刀を鞘へと納めていた。

「……馬鹿な。……速すぎて、斬られたことさえ……感知……でき……」

シセンの巨躯が、正方形のサイコロ状に細切れとなり、夜風にさらわれて消滅した。

伝説の四肢、全滅。

静寂が戻ったアイアン・ハーツのテラスに、サヤカ、キーラ、ガン・シールダーが合流する。そこへ、屋根から音もなく琥珀が舞い降りた。

「……琥珀、あんた。今の魔力、ただの浪人じゃないねぇ?」

キーラはキセルを咥えながら鋭い視線を向ける。

「あはは……。琥珀ちゃん、もしかして、うちらを監視してた感じ?

なんか仲良くなれると思ったのに…超ショックなんだけどー!」

サヤカが頬を膨らませるが、琥珀の表情はかつてないほど晴れやかだった。

「謝罪しよう、サヤカ殿。拙者はシノン様より、『東の候補者の実力を見定めよ』との命を受けておった。

……だが、今決めた。拙者は、おぬしらを『調査対象』とはもう見ぬ」

琥珀は鬼神丸を腰に差し直し、三人の魔王を真っ向から見据えて、堂々と宣戦布告した。

「サヤカ! キーラ! 盾の漢よ! おぬしらは、拙者が大魔王になるために超えねばならぬ、最強の『壁』だ! ミレニアムイヤー本戦……拙者は西の代表として、おぬしらを全力で叩き斬る! 覚悟しておけッ!!」

「……へぇ。面白いじゃないか。西の代表が、あちきに喧嘩を売るなんてねぇ」

「いいよ! 受けて立つし! 琥珀ちゃん相手でも、私は絶対に負けないからね!」

サヤカは笑顔で言った。

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