防御こそが最大のチャンス
アイアン・ハーツの北壁、その断崖に位置する外郭。そこでは、物理法則を置き去りにした「重さ」と「速さ」が激突していた。
ドォォォォォォォォォンッ!!!!!
「ガハハハ! どうした盾持ち! 踏ん張るのが精一杯かぁッ!? 俺の右足はな、一蹴りで一国の王都を更地にするんだよ!」
伝説の右足・ビャックが、空中で独楽のように回転し、その遠心力を全て乗せた超振動の回し蹴りを叩き込む。
グオオオオオン……
ガン・シールダーの巨大な銀盾に接触した瞬間、衝撃波が同心円状に広がり、周囲の石畳が耐えきれず粉々に爆ぜた。
「……っ。さすがは伝説の四肢、重いい。……だが、勘違いするな」
ガン・シールダーは盾の裏で歯を食いしばり、機械の駆動音を響かせて踏み止まる。彼の足は、アイアン・ハーツの岩盤を数メートル抉りながらも、決して後ろには倒れない。
「俺は、守るだけの『案山子』ではないと言ったはずだ……!」
「あぁん!? 減らず口を! だったらその鉄板ごと、ひき肉にしてやるわぁッ!」
ビャックがさらに加速する。残像すら置き去りにした連撃。右足から放たれる真空の刃が、ガン・シールダーの全身を切り裂こうと襲いかかる。
だが、ガン・シールダーの瞳に宿ったのは、冷徹な勝利への計算だった。
「鉄壁のガン・シールダー……。世間は俺を、籠城専門の臆病者だと笑うがね。……教えてやろう。『鉄壁』とは、敵が絶望して戦意を喪失するまで、一分の隙もなく叩き潰す力のことだ」
「なんだと……っ!?」
ガン・シールダーが盾のグリップを逆に握り替えた。それと同時に、銀盾の表面が幾何学的に展開し、内蔵されていた数百の小型魔導バーニアが一斉に火を吹く。
「盾でこの名を名乗っているわけではない……。防衛システム、攻撃態勢へ移行。――『衝壁乱舞』!!」
ズガァァァァァァァンッ!!!!!
驚愕すべきことに、最強の防御を誇る男が、あえて自ら盾を突き出した。ビャックの必殺の蹴りを真っ向から「盾の角」で迎撃したのだ。
「ぐ、ふっ……!? 衝撃を、押し返しただと……!?」
「攻撃は最大の防御、などという言葉は生温い。
俺にとっては、**『防御こそが最大の攻撃』**だ」
盾の表面に蓄積されたビャック自身の攻撃エネルギーが、一気に臨界点を超えて逆流する。
ガン・シールダーはバーニアの推進力を借りて肉薄し、盾の縁を重断頭台のように振り下ろした。
「喰らえ。……これが俺の、全力の『拒絶』だ!」
盾の隙間から引き抜かれた魔砲ガンが、零距離でビャックの腹部に押し当てられる。
「魔導炉、過負荷! ゼロ距離、最大出力……放てッ!!」
ズドォォォォォォォォォンッ!!!!!
盾による強打と、魔砲の至近距離射撃。その複合攻撃がビャックの巨躯を飲み込んだ。伝説の右足と呼ばれた男が、隕石のような速度でアイアン・ハーツの壁面まで吹き飛ばされ、幾層もの鋼鉄の装甲を貫通していく。
「ガハッ……、あがっ……馬鹿な、盾使いに、押し負け……る……っ」
壁に深々と埋まったビャックの瞳から光が消えかかる。
だが、ガン・シールダーは追撃の手を緩めない。彼は再び盾を構え、冷酷に告げた。
「まだ終わらん。貴様のその足が二度と動かぬよう、俺の盾で永遠に封じてやる。……」
静かなる重圧。
鉄壁の男が見せた、あまりにも攻撃的な「守護」。その咆哮は、分断された他の戦場にいるサヤカやキーラたちの耳にも、希望の轟音として届いた。




