最凶の刺客
アイアン・ハーツの地下から、大気をひび割れさせるような重圧が噴き出した。
現れたのは、かつて「史上最凶」と謳われた先々代大魔王の四肢を担った伝説の将たち。
右腕のカイエン、左腕のミマリ、右足のビャック、左足のシセン。
彼らの放つ魔力は、先ほどまでの亡者とは「質」が違った。存在そのものが災厄そのものである。
「……ッ、何だい、この重苦しいプレッシャーは。あちきの魔導炉が、恐怖で軋んでるよ!」
キーラが叫ぶ間もなく、伝説の四肢たちは獲物を引き裂くように四方へ散った。
「雑魚どもと群れるのは、大魔王の誇りが許さん……。貴様ら、我らの領域で死ね」
「何をするつもり……」
カイエンの号令と共に、空間が歪む。
サヤカ、キーラ、ガン・シールダー、そして加勢に現れた琥珀は、それぞれの「得意」を逆手に取った絶望の戦場へと強制的に分断された。
【第一の戦場:重力崩壊の街路】
サヤカ vs 右腕のカイエン
「あはは……なにこれ、身体が重すぎて映えどころじゃないんだけど!」
サヤカは地面に叩きつけられそうな重力に抗いながら叫ぶ。
対峙するカイエンは、巨大な紅蓮の剣を軽々と振り回した。
「我が右腕は『力』の象徴。貴様のような軟弱な魔法、力で叩き潰してくれるわ!」
「力押しとか、一番嫌いなのよねーっ! でも……私をただのギャル魔王だと思ったら大間違いだよ!」
サヤカは歯を食いしばり、重力魔法に抗うための超高密度魔力粒子を展開する。だが、カイエンの一撃が振り下ろされるたび、アイアン・ハーツの石畳がクレーターのように爆ぜていく。
【第二の戦場:歯車と影の迷宮】
キーラ vs 左腕のミマリ
「あちきの街で、あちき以上の精密操作をしようってのかい?」
キーラは数千の魔導ビットを全方位に展開するが、ミマリはそのビットの隙間を、まるで実体のない「情報」のようにすり抜けてくる。
ミマリの指先から放たれる細い魔力糸が、キーラの制御ネットを侵食し、街の砲台をキーラ自身に向けさせる。
「……左腕は『技術』の象徴。機巧の女王よ、お前の道具はすべて私の指先に跪く」
「っ、ハッキングだと!? 面白いじゃないか。あちきの脳が焼き切れるか、あんたの指がもげるか……我慢比べといこうじゃないかえ!」
【第三の戦場:鉄壁の断崖】
ガン・シールダー vs 右足のビャック
ビャックの脚から放たれるのは、一撃で城門を消し飛ばす超振動の蹴撃。
「ガハハ! 俺の『右足』を耐えきれる盾など存在せん! 砕けろ、盾持ち!」
「……無駄だ。我が盾に、破壊という概念は通用せぬ」
ガン・シールダーは盾を地面に固定し、ビャックの猛攻を真っ向から受け止める。だが、一撃ごとにアイアン・ハーツの防壁が地盤沈中を起こすほどの衝撃。盾の表面に微かな、「亀裂」が走り始めていた。
【第四の戦場:月下の真剣勝負】
琥珀 vs 左足のシセン
「……速いな。拙者の眼でも、残像すら捉えきれんとは」
琥珀の鬼神丸と、シセンの超高速の回し蹴りが交錯する。キィィィィィィンと、鋼鉄同士がぶつかるような金属音が響く。
シセンの左足は『速度』の象徴。その動きはもはや光速の領域に踏み込み、琥珀の袴を次々と切り裂いていく。
「抜刀の暇も与えん。……死人の足跡さえ追えぬ男が、剣客を名乗るな」
「……やれやれ。ならば、眼で追うのはやめるとしよう。拙者の剣は、風と一つになる」
琥珀は静かに目を閉じ、一閃の機会を待つ。
「ひっ、ひぃ……!? マジで死ぬ! 今のままだと、代表選出される前に全員お葬式行きだよー!」
サヤカの絶叫がアイアン・ハーツに響き渡る。




