奇妙な共闘
「 それで……あんたたちは自分の国に帰らなくていいのかい?」
アイアン・ハーツの防衛ライン。
亡者の先遣隊を退けたばかりの瓦礫が山積みとなった広場で、キーラは不機嫌そうに、噛み締めていた銀のキセルを加え直した。
その冷ややかな視線の先には、帰る気配を微塵も見せず、むしろ当然のように居座っているサヤカと、巨大な盾を背負ったガン・シールダー 、そして琥珀の姿がある。
「拙僧は行く宛てもない……。それに、ここで貴殿の美しき機巧が泥にまみれて壊れるのを見届けるのも、少々寝覚めが悪い。微力ながら助太刀いたす」
ガン・シールダーは淡々と、揺るぎない意志を持って告げた。その盾には、先ほどの戦闘でついた亡者の黒い返り血が、雨のように付着している。
「拙者は気まぐれゆえ」
琥珀は 柄に手を添えながら言っ。
「同じく! ってかさ、ホント意味わかんないんだけど! なんで亡者どもは、ムーン・サウンドやメテオばっかり狙うわけ!?」
サヤカは爆発寸前の不満をぶちまけるように腕を組み、ぷいっと横を向いた。
「蛾次郎からの魔導通信じゃ、スターダストには亡者の一匹も現れてないっていうじゃない。……ねぇ、なんで誰も私のところに来ないわけ!? ほんっと、どいつもこいつも『弱い奴ら』の方ばかりに行っちゃってさぁ。舐められたもんよね、マジで!」
「ちょっと待ちなよ、サヤカ。今の言葉、あちきに対して聞き捨てならないんだけど……」
キーラの額にピキリと青筋が浮かぶ。彼女にとって、このアイアン・ハーツは誇り高き絶対の要塞である。
「つまり何かえ? このアイアン・ハーツが、その『弱い奴らの方』だって言いたいのかい?」
「何が……!? だって事実じゃん。私に真っ先に挑んでこないことが、何よりの真実でしょ。本当の強者は、常に真っ先に狙われる運命なんだから! 亡者たち、トレンド読めてなさすぎ!」
「あぁ……そうだよねぇ。確かにあんたの『小粒な魔力』じゃあ、亡者たちの腐った眼じゃ見つけることすらできないもんねぇ。地味すぎて、背景の砂粒と区別がついてないんじゃない?」
キーラの冷ややかな、突き刺すような皮肉に、サヤカの顔が沸騰したように真っ赤に染まる。
「地味!? 誰が地味よ! 私の魔力は常に『映え』の頂点、宇宙一のキラキラなんだからね! あんたのその、油臭い古臭い歯車と一緒にしないでよ!」
「なんだって……? いいよ、なら今すぐ壊してあげようか。その安っぽいメッキの自信ごと、あちきのガントレットで粉々にしてあげるよッ!」
バチバチと二人の魔王の間に物理的な火花が散り、あわや亡者を放置しての同士討ちが始まろうとしたその時――。
それまで彫像のように静かに空を凝視していたガン・シールダーが、重厚な金属音を立てて盾を地面に叩きつけた。
「……お二人とも、お遊びはそこまでだ。元・魔王様たちのお出ましだぞ。……地響きが、死者の歌を歌っている」
その言葉と同時に、街を覆う不気味な紫の霧が、生き物のように渦を巻いた。地面の石畳が弾け飛び、そこから悍ましい、肺が潰れるような魔圧が立ち昇る。
現れたのは、かつて別の時代で一国を数日で地図から消し去り、歴史の彼方に禁忌として封印されたはずの、「暴虐魔王」と「幻惑魔王」。
シェリーの魔力でゾンビの如く、しかし生前以上の怨嗟を纏って蘇った彼らの瞳には、現役の魔王に対する剥き出しの嫉妬と、全てを喰らい尽くそうとする殺意が宿っていた。
「……ハッ、ようやく来たね。待ちくたびれて、ネジが緩むところだったよ」
キーラが右腕の『魔竜ガントレット』の出力レバーを一気に引き上げる。機械の咆哮が、街の地下から響く魔導炉の唸りと共鳴する。
「サヤカ、あんたの魔力が『映える』かどうか……その腐った連中相手に、言葉じゃなくて力で証明してみなよ」
「言われなくても! 師匠に不甲斐ないなんて言わせないんだから! 全力で……全方位に『映える』一撃、叩き込んでやるよーーーーっ!!」
サヤカの手のひらに、銀河を凝縮したような眩い魔法陣が展開される。
「ふっ……熱いねぇ、あんたは……」
キーラは口からキセルを離すと、ゆっくりと紫煙を吐き出した。その煙が霧散するより早く、彼女たちは死の軍勢へと飛び込んだ。




