嘆きの魔王たち
アイアン・ハーツの夜が更けていく。
試験開始から半分の時間が経過したが、誰一人としてシェリーの髪の毛一本すら見つけることができなかった。最強の機巧スキャンも、陰陽術の占術も、魔獣の嗅覚も、シェリーという「世界の例外」の前には無力だった。
当のシェリーはといえば、アイアン・ハーツを遠く離れ、ムーン・サウンドの片隅にある静かなカフェにいた。
「ふぅ……。やっぱり、この店のアールグレイと特大パフェは絶品だねぇ」
カウンターで山盛りの生クリームと格闘しながら、彼女は退屈そうに窓の外の太陽を見上げる。
「……にしても、いきなりレベルが高すぎたかね。守護者の隠形を、今のあの子たちに探せというのは酷だったか。隠れている間に、アイアン・ハーツが居眠り都市になっちまう」
シェリーはパフェの最後の一口を飲み込むと、伝票にチップを置いて店を出た。彼女はムーン・サウンドの霊的な境界線、生と死が混じり合う「世界の裂け目」に立つ。
「……なら、あたしは好きじゃないが、自分たちの手で『資格』を証明してもらうか。少し、焚きつけてあげようじゃないか」
彼女がその膨大な魔力を解放し、大地を軽く踏みしめる。
「この地で魔王戦に敗れ、行き場を失い彷徨う魂たちよ……。我が名において命ずる。肉体なき怨嗟を形に変え、我が剣となってかの者たちを試せ……! 散っていった恨み、ここで晴らしてごらん!」
ゴゴゴゴゴ……!!
地鳴りが響き、アイアン・ハーツの街路の隙間から、ドロドロとした黒い霧が噴き出した。かつて歴史の闇に葬られ、争いに敗れて死んでいった数多の「旧世代の魔王」たち。彼らがシェリーの魔力によって一時的な肉体を与えられ、悍ましい魔圧を放つ亡者軍勢として蘇ったのだ。
シェリーの声が、アイアン・ハーツで途方に暮れていたサヤカたちの脳内に直接響き渡る。
『いいかい、お前たち。あたしはお前たちの不甲斐なさに心底失望したよ。……だから、探しごっこは中止だ。
あたしはこの地を、この亡者どもを使って破壊することに決めた』
「えええっ!? 師匠、何言ってんの!? 意味わかんない、超メンヘラ展開なんだけどー!」
サヤカが空に向かって叫ぶ。
『冗談じゃないよ。守護者が本気で壊す気になれば、国の一つや二つ、砂場のアヒルを潰すより簡単さ。そうなれば、大魔王の夢も、ミレニアムイヤーも全ておしまい。……そうしたくなければ、今から差し向ける亡者どもを叩き潰し、自力であたしの元まで這って来な! 一番多く首を獲った奴を、優先的に選んであげるよ!』
アイアン・ハーツの空が、不気味な紫色に染まり、街の至る所から、蘇った「敗北魔王」たちの咆哮が上がり始めた。
「……なるほど。見つける試験から、生き残る試験に変更というわけですか。シェリー殿、どこまでも厳しい」
清兵衛が冷汗を拭い、数千の形代を乱舞させる。
「真雄くん、桜花ちゃん! 防衛陣形です。この街を壊させるわけにはいきません!」
「ハッ! 面白ぇ。隠れてる奴を探すより、向かってくる敵をブチのめす方が俺には合ってるぜ! 亡者だろうが何だろうが、俺の爪で二度目の死を与えてやる!」
魔獣王雷音が牙を剥き出し、迫り来る巨大な亡者の群れに向けて爆進した。
「……あちきの美しい都を、そんな薄汚い連中に汚させるわけにはいかないよッ!」
キーラが『魔竜ガントレット』のリミッターを解除し、街中の防衛砲台とリンクする。
「全砲門、開放! 鉄屑の分際で、あちきの歯車に触れるんじゃないよ!」
そして、街の屋根を銀光が駆ける。
「……不謹慎だが、死人との手合わせとは興が乗るな。拙者の刀が、浄化の刃か、ただのなまくら(・・・・)か……。試させてもらうぞ」
浪人・琥珀が、押し寄せる亡者魔王の一団を視界に捉え、鬼神丸の鯉口を切る。
「いざ――参る!!」
絶望的な物量の「過去の魔王」たちを突破し、シェリーの元へ辿り着けるのは果たして誰か。代表五人の椅子を懸けた、血みどろの「選抜・防衛戦」が、今ここに火蓋を切った!




