シノンの提案
「いい加減にしないかシノン……。
ここは私の管轄だ。
あんたの出る幕じゃないよ!」
シェリーが一歩前へ踏み出す。
その瞬間、彼女を中心に張り詰めた空気が一変し、絶対的な「格」の差が空間を支配した。
「これは失礼いたしました。四天王が一人、東の守護者シェリーさん」
シノンは恭しく頭を下げるが、その口元には余裕の笑みが消えない。
「えっ……何? 東の守護者って……。師匠、魔王の四天王じゃなかったの!?」
サヤカが素っ頓狂な声を上げる。
その横で、先ほどまで息巻いていたティン・ガロが、ガタガタと膝を震わせ始めていた。
「まさか……そんな、ありえない……。この女、いや、そんなはずは……」
「ちょっとティン・ガロ、しっかりしなよ! うちの師匠のこと、何か知ってるの?」
サヤカの問いに、ティン・ガロは絶望に染まった瞳で絞り出すように答えた。
「守護者とは……その名の通り東西南北を守護する者たちをさし 彼らはただ守護するだけではなく 大魔王を任命し、その力を承認する権限を持ってい……。
そんな存在が、なぜこんなところで隠居を……」
シノンは、ティン・ガロのその怯えぶりを見て、愉しげに肩を揺らした。
「さすがは野心家、よくご存じです。
実に面白いですですが、残念ながら君のような野良の魔王は、私の管轄にはいない……。だからこそ、このサバイバルを生き残ってみせてくださいね」
「「「「「「「サバイバル………………!!!!!!!!」」」」」」」
その場にいた全員の声が重なった。シノンは目隠しの奥で目を細めるように、冷徹な宣言を下す。
「そうです。東西南北、それぞれの管轄から代表五人を選出。最後まで残った五人が、大魔王や現・守護者と直接戦う権利を得ます」
「……つまり、入れ替え戦ってわけかい?」
シェリーが吐き捨てるように言うと、シノンは深く頷いた。
「その通りですよ、シェリー。我々も数千年、同じ顔ぶれでマンネリ化しているでしょう? だから……総入れ替えです」
シノンは美しく、そして残酷に口角を上げて笑う。
「私をふくめ、他の三方の守護者は、既に五人の選出を終えています。シェリー、ミレニアムイヤーが始まるその刻限までに、あなたの東の管轄からも最強の五人を選びなさい……」
それだけを言い残すと、シノンは現れた時と同じように、バリバリと空間を裂き、何事もなかったかのように虚空へと消えていった。
あまりに規格外な展開。アイアン・ハーツのテラスに残されたサヤカ、キーラ、ガン・シールダー、そして打ちのめされたティン・ガロは、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
「……師匠、これって……」
サヤカの問いに、シェリーは苛立たしげに髪をかき上げた。
「ちっ……。あの盲目女、とんでもないことをしでかしてくれたね。……おい、お前ら! ぼーっとしてるんじゃないよ!」
シェリーの怒声が、静まり返ったテラスに響く。
「これからは早い者勝ちだ。あたしの『五人』に選ばれたいなら、死ぬ気で自分を磨きな! じゃないと、ミレニアムイヤー本戦すら拝めずに終わるよ!」
大魔王を目指す戦いは、守護者をも巻き込む前代未聞の「代表選抜サバイバル」へと姿を変えた。




