サヤカ登場
「ふふふふ……。闇の魔王たちも、随分と必死だねぇ……」
砂漠の国スターダスト。熱を帯びた夜風がサヤカの金髪を揺らす。彼女は遠く、機械の鼓動が空を震わせるアイアン・ハーツの方角を眺めて呟いた。その瞳には、かつてのライバルたちが放つ強大な魔力の衝突が、極彩色の花火のように映っている。
「『闇』だしね。必死にもなるだろうさ……。光が強ければ強いほど、奴らは影の中で焦るのさ」
隣で、紫光のシェリーが心底面倒くさそうに爪を研ぎながら鼻で笑った。
「戦いってのは、より確実で、より楽な道を選ぶのが定石なんだよ。あんたのような『規格外の面倒くさい奴』をわざわざ正面から相手にするより、先に他を潰そうって魂胆さ。特にあのフードの男みたいな、計算高いタイプはね」
「でもさぁ……。みんな私を無視して、最強だの鉄壁だの盛り上がっちゃってさ。それってズルくない? 私も混ぜてよー!」
サヤカが頬を膨らませて地団太を踏むと、シェリーは少しだけ目を細め、夜空に漂う歪な魔力の糸を見つめた。
「……少しなら、この国を離れてもいいのさ。元・闇の魔王もいるし、私の結界を置いていけば数時間はもつだろう。サヤカ、ついておいで。本物の『魔王の距離感』ってやつを教えてやるよ」
「えっ、マジ!? さすが師匠! 抱いて!」
「……よしてくれ。行くよ」
サヤカが威勢よく返事をした、その刹那だった。隣に立っていたシェリーの膨大な魔力が、最初から存在しなかったかのように、この空域から一瞬にして完全に消失した。隠密などというレベルではない。世界の断層に滑り込んだような、完璧な「消失」。
「えっ……マジ!? 師匠、消えるの早すぎ! ……でも、見つけたよ、あっちだね!」
サヤカは全魔力を解放し、一点に向けて空間を跳躍した。
キィィィィィィン!!
爆発的な音と共に、次元の壁を突き破ってサヤカがテレポートした先――。
そこは、魔導都市アイアン・ハーツの最上層テラス。
そこには、三つの絶大な魔力が絡み合い、誰かが瞬き一つした瞬間に街ごと吹き飛ぶような、極限の均衡状態が広がっていた。
「……あ、なんか超ピリついてるじゃん。お邪魔虫だったかなー?」
その一触即発の魔圧のド真ん中に、サヤカはピンクのフリルをなびかせ、平然とした顔で降り立った。
「……ッ!? サヤカ……! 貴様、なぜここに……!」
影を操るフードの男が、初めてその冷静な面を崩し、苦々しく舌打ちする。
「あら……。スターダストの小娘じゃないかえ」
キーラはキセルを咥えたまま、花魁下駄を鳴らしてサヤカを睨んだ。その瞳には、驚きと同時に、不敵な戦意が宿る。
「あちきと盾持ちさん、それに不粋な掃除屋の三つ巴……。ここにきて、さらに野暮な乱入者が増えるとはねぇ。アイアン・ハーツも随分と賑やかになったものだよ」
「サヤカだと……!? 砂漠の魔王が、この状況で割って入るというのか!」
ガン・シールダーが盾を構え直すが、その重圧さえもサヤカは鼻歌まじりに受け流す。
「え? だって、みんなの喧嘩の声がうるさくて、寝られなかったんだもん♪ それにさ……」
サヤカは不意に、フードの男を真っ直ぐに指差した。その瞳から軽薄さが消え、魔王としての鋭い光が宿る。
「フードあんた……。なぜ必要以上に私に対し敵意を見せるのか、ずっと不思議だったんだけどさ。今の距離で確信したよ。……あんたの正体、わかっちゃったもんね」
「……何を、馬鹿なことを」
「隠したって無駄だよ。あんたのその闇の底に、見覚えのある『未練』がへばりついてる。……ねぇ、あんた……本当は、私のこと『大好き』だった人じゃない?」
サヤカの爆弾発言に、場が凍りつく。キーラがキセルを落としそうになり、ガン・シールダーの盾がわずかに揺れた。
「……ククッ、ハハハハハ!! さすがはサヤカ。相変わらず、人を食ったような推察だ。だが、それがどうした?」
フードの男の周囲で、影が狂ったように逆立ち、テラスの床を粉砕していく。
「正体がバレたなら、もう『観客』を続ける必要もない。……まとめて、この鉄の都ごと塵に還してあげますよ!」
「あはは! 言ってくれるじゃないかえ!」
キーラが『魔竜ガントレット』を咆哮させる。
「サヤカ、あんたの痴話喧嘩に付き合うつもりはないけれど……この不粋な男をブチのめすのには賛成だよ。あちきの最新兵装、特別に見せてあげるッ!」
最強魔王キーラ、砂漠の魔王サヤカ、鉄壁のガン・シールダー、そして魔王を喰らった謎の男。
四つの絶大な力がアイアン・ハーツの頂上で激突し、夜空が黄金と紫、そして不浄の黒に染まり上がった。




