シュパースの新たなリゾートゾーンは闇の香り(中編)
【女装】
ここまでの話を一生懸命追い続けてくれる読者は俺のそれを幾度と無く見ている事だろう。
イケメンが沢山登場する明らかな女性向けの話にして、主人公のイケメンが何度も女装させられる……そんな一見美味しそうな展開にありながら、この漆黒の騎士団長ジェド・クランバルの女装は、それはそれは似合わない。
似合わないなんてレベルじゃない……見たものが顔を顰めて酸っぱい表情をする。見るに耐えない……それが俺の女装の評価だ。
何故イケメンの女装がそんな惨状なのか……まぁ、実際にイケメンが女装をした所で似合う者はそう多くないという事実は置いておいて。
これはいつぞやに獣王アンバーが神から聞いた話なのだが、世界の理の1つに『存在が性別を強く固定している』というものがあるという。
世界に強く『男』として存在が固定されればされるほど、『女』に近づくことが出来にくくなるのだとか。そのせいでどんなに上手く化粧や女装をしようが、魔法を使おうが男たる存在として強い者は女に近づくことは難しい。
という謎の理から、アンバーや俺は女子になることは出来ない。従って女装が酸っぱい。
――はずだったのだが、その俺が……理想の女子になっている。何ならだいぶ理想通りでセクシーダイナマイトボンキュッボンだ。
「あははは、ジェドっち、趣味がすっごくわかり易いよねー」
「そういうお前もだろ」
大爆笑の赤髪の美女はいかにも軽そうで遊んでいそうだった。ナスカがよくナンパしているタイプの女性だし、なんならさっきここに来る前にいつの間にか一緒にいた女子もそんな感じだった。
『同じ女の子と2日目以上一緒にいるとヤンデレ化してしつこいし、しつこい分には全然いいんだけど、連絡が無いとか言って病むのは困るからさー、自然と軽い子を選んじゃうんだよね。そんなに1人1人覚えてらんないよー』などと言う真性のクズである。
「俺はお前と違って1日以上一緒にいてくれる女の子がいい。そりゃあどうせなら出るところがしっかりと出ていて、セクシーな格好も恥じらいながらしてくれる、そんな女の子がいいけれども」
「騎士団長って結構普通に気持ち悪いですよね」
「そういうお前もちゃんと可愛い子を選んでるだろう」
「僕は別に何でもいいです。そりゃあ、変わった魔法が使えるような女の子が好きですけど、見た目とは関係ありませんし。まぁ、ここまで見た目が変えられる事があまり無いので試してみたさはありましたけど」
つんつんと自分の胸を指すシアン。魔塔の魔法使いはこういうやつらばかりなのだ……
「感覚までは再現出来ないんですね。まぁ、そこまでの技術でしたら知らないはずは無いんですが」
「そそ。そこが残念だよねー」
ナスカが残念そうにわしわしと自身の胸を揉んでいた。俺もそれに倣って無駄にダイナマイトな自分の胸を掴んでみる――が、そこにあったのは見た目通りの柔らかな胸ではなく、岩のように硬い触り慣れた胸板の感覚だった。
ため息を吐きながら顔を触って魔術具の兜を取れば、同じように頭に兜を着けている2人の姿がある。
「……これが、新しい娯楽ゾーンか」
「『仮想視野』とは、娯楽というのはおかしな方向に向かうものですね。魔塔でも娯楽魔法、娯楽魔術具には力を入れて開発を進めてはいるのですが、どうしても役に立つ物を考えがちでして」
「あははは、魔塔から開発協力の要請はちょいちょい来るけどねー。何せアンデヴェロプト自体に娯楽が少ないから誰も行きたがらないんだよね。力を入れるならまずは足元から楽しくするよう努力したら?」
「魔法使いは魔法にしか興味が無いですからね……」
魔塔勤めの開発者は別に魔法にしか興味が無くて良いのでは……? まぁ、一般の人の役に立つものを開発したいならば一般の人の気持ちに立つ事は必要かもしれないが。
「で、ここは結局何なんだよ」
「『仮想体験エリア』は、こんな風に好きな姿で色んな非現実を味わえる新感覚娯楽です。エリア自体は実際に存在していますが、この様な仮の姿や未知の動物、あり得ない色の空、急に浮かび上がる映像などが非現実でして。『嘘』と『現実』がブレンドされた娯楽として味わえるのです」
と言いながら俺たちの前に現れたのはまるで魔族の様な出立ちにダイナマイトボディを見え隠れさせるセクシーサキュバス風女性であった。どちらのギャルの方でしょうか?
「このエリアを作ったオッサンだよ」
かぽり、と兜を外すナスカ。シアンも兜を外す素振りをして「ああ〜……」と納得した後に目を伏せていた。俺は外したくなかったけど外して説明を受ける流れだったので仕方なく兜を外した。
そこにはサキュバス風ダイナマイト美女の姿は無く、だるんだるんのわがままボディを普通の服に押し込めたただのオッサンしかいなかった。ダイナマイトではあった。
最初に美女を見てしまったばかりにがっかりが半端無い。これならただのオッサンの方から始めたかった……
「実は私は昔、異世界に住んでいたものでして。こういう仮想空間というかVRというかが流行っていたのですよね。流石にこのファンタジー世界では需要が無いかと思っていたのですが、プレリ大陸に行った際に『理想の自分になれる村』なる場所に行きまして、姿形だけでも非現実の需要はあると感じ思い立った訳です。近年映像魔術具の人気からその手の魔術具開発は進んでおりますし、それにエリア全体を開発するのでは無く、共通で同じ物を認識出来る兜を作れば良いのですからコスパが良いというか何と言いますか」
かぽりと兜をはめるオッサンに倣い、俺たちも再び被った。そこにはサキュバス風ダイナマイト美女。おかえり理想。
異世界の事は半分くらい何を言っているのかよくわからなかったが、ようは先日訪れた例のプレリ大陸の『なりたい自分になれの果て村』のような理想の自分を体験できるという事らしい。
「その村には俺達も行って来たのだが、理想と現実のギャップに落ち込み落胆し、それでも尚夢に向かって頑張るというそういうコンセプトで合っているのか?」
「嫌だなぁ、ここはあんな真面目な村とは違いますよ。理想とは言っても本気でそうなりたいとか、そういう話じゃないんです。ダイエットしたいというのと、一度でいいから超絶美女として名高い聖国の女王オペラ様になりたいでは違うじゃないですか」
「オペラになりたいかどうかはともかく……確かに、美少女に生まれていたら人生イージーモードだ、と言っても本気で美少女になりたいかはまた別の話だな」
「でしょう。ここはシュパースですからして、遊び半分で理想の自分になれる。そんなエリアなのですよ」
「なるほど……」
そう言われてみれば納得がいく。シュパースの娯楽としてはかなりいいとは思うのだが……ナスカはうーん、と眉を寄せて微妙な表情だった。
「そう言えばここについてピンと来てないと言っていたな。新しい娯楽としては良さそうなのに何が駄目なんだ」
「うーん……ジェドっち、この兜を半分外してみてよ」
「半分?」
俺はナスカに言われるがままに辛うじて片目が見える位に兜の半分を持ち上げた。景色はあまり見えているもとと現実とは変わらないにも関わらず、目の前に半分がわがままボディのおっさん、半分がダイナマイト美女サキュバスのキメラというおぞましいものを見てしまった。俺は無言で兜を戻す。
「……気分がすこぶる良くなくなるものが見えたんだが」
「それが俺の視界なんだよね」
「とんでもないな……」
ナスカは目が良すぎるせいで色んな真実が見えてしまう。以前は両目ともその様に見えていたが、ナーガとのいざこざの時に片目を失い、今はシルバーに作ってもらった魔術具の義眼を使っている。
精巧な義眼で視界としては問題が無いのだが、ナスカの元の視力を回復する事は出来ない。それがナスカとしては逆に良かったと言っていたのだが……今はその義眼の方ではなく、元の目の方に問題があるようだ。
「この目だとさぁ……この兜が全くの無意味なんだよね。片目を瞑れば楽しめるっちゃー楽しめるんだけど、片目を開けた瞬間に現実の人が見える訳で……可愛い女の子がことごとくおっさんだし、じゃあ現実の可愛い女の子を密かに見つければ良いんじゃないかって楽しみ方もあるかもしれないけど、そういう子に限ってイケメンとか変な動物とかおっさんとかになって遊んでいたりして、下手したらおっさんと美女のキメラと変わらないんだよね……」
「なるほど、そういう話ですとナスカさんとは相性がすこぶる悪い娯楽ですね」
「難儀なやつ……」
「それにさぁ、こういうシステムだと自分の素性とかを隠して悪さしようとしている奴の温床になりそうっていうかさー」
「そうなんです」
わがままおっさんサキュバスが残念そうに頷いた。
「私のいた世界ではこの手の娯楽は安全に楽しめたものです。ああいや、まぁ悪い事に利用しようとする人が居ないと言えば嘘になりますが、大多数は普通に非現実として楽しんでいました。この世界も比較的平和だったし、シュパースは遊び人がいたりカジノなどの賭博がある割に治安がいいのでそんな事は無く楽しめると確信していたのですが……まさか完成する頃に闇バイトの斡旋みたいなものが流行ってしまうなんて」
「通報によって強制的に利用が出来なくなる仕様にする事も出来るでしょうけど、実装には時間がかかりますしね」
「なんとかなりませんかね? 折角苦労して作ったのに少しも遊べないまま閉鎖は悲しいですぅ……」
くねくねとダイナマイトな胸を揺らしながら涙を流すサキュバス美女。ナスカは渋い顔をしていた。俺達もさっきのおっさんがまだちらついているのでセクシーなポーズを取らないでほしい……
この様に真実が見えてしまった後はあまり楽しめないのは重大な欠陥では? と思いつつ、真っ当に楽しんでみた末に飽きられたり廃れたりするのならばともかく余分な邪魔にぶち壊されてしまうというのも確かに気の毒ではある。
「まぁ俺自身は楽しめないとは言え、他のやつらはそうじゃない訳だし。これからの安全面とかは報告を元にシル……魔塔がなんとかしてくれるだろうし、変な奴ら探しとか対策とか、強力してくれないかなーって」
手を合わせてウインクする赤髪セクシー美女。目の前の美女がナスカだとわかっていると何とも言えない気持ちになるが……さっきのおっさん美女の事を思い出すと、元がイケメンなだけまだマシかもしれないと思えてきた。常識が崩れそう。
「分かった、対策を考える事は俺には出来ないが、怪しそうな奴を探してみよう」
そうして俺達は二手に分かれてエリアを探索し、闇バイトの影が無いか見回る事にした。
エリアについて詳しいやつとそれぞれ一緒がいいとの話になり……ナスカとシアン、そして俺とセクシーダイナマイト美女おっさんがペアとなった。仕方ないけど、なんでなの……
「私の元の見た目は気にせず、今はセクシー美女と認識してください。ナスカさんには常に真実の私が見えていたので難しそうですが、ジェドさんなら可能なはずでしょう。美女サキュバスと美女バニーの百合百合コンビで楽しく頑張りましょ?」
「微妙に気色悪い言い回しはやめてくれないか……それより、ぶいあーるだ仮想空間だなんだとか言っていたが、それって異世界のゲームなのか?」
エリアを見回りつつ、おっさん美女ことクリスティアからシステムなどの話を詳しく聞く。ちなみにクリスティアはサキュバスの仮の姿の名前であり、本名はゴンザブロウらしい。確かにあのわがままボディはごんざぶろうだったな。しっくりくる。
「はい、とは言えVRゲームにも色々ありますが、私がハマってプレイしていたのは『ダークギルドオンライン』略してDGOと呼ばれる仮想現実大規模多人数同時参加型オンライン、VRMMOゲームですね」
「……聞きなれない言葉が多すぎて半分以上分からない件」
「まぁ、こういう風に違う自分を仮想空間で作り、世界中の色んな人と協力しながら冒険するというゲームです。こちらは半仮想現実ですが、あちらは完全仮想空間で繋がれるゲームです」
「分からんがなるほど……」
「ははは、異世界の人に異世界の事を説明するのが難しいのは慣れています、ここを作るのにも苦労しましたし。システム的なものは話半分で聞いてもらって大丈夫です。DGOはダークギルドと呼ばれる世界の闇と戦うゲームでして、ダークギルドからは次々と新たな悪役が生み出されます。定期的に新規配信されるその悪い奴を討伐して勝利する、そういうゲームなんですよ」
「ふーん……なるほど」
『悪役』の言葉に俺は過敏になる。完全にアレルギー反応だ……大量摂取すると毒になるらしいけど正にそれです。
「その姿は巨大な竜の時もあれば、超強い幼女の時もありますし、あのように令嬢の姿を――はうあっ!!!!」
「どうした」
問いかけつつ、俺は嫌な予感をひしひしと感じていた。だって、その流れでいくと
「あ、あのご令嬢……DGOに登場する悪役にそっくりなんですよ!!」
クリスティア(仮名)が指差す先には、悪役のご令嬢の冠に相応しい禍々しいオーラと禍々しいドリルを携えた、悪役令嬢っぽい人が人ごみに紛れて居た。いや思い出したようにしれっと悪役令嬢を登場させるなし。




