シュパースの新たなリゾートゾーンは闇の香り(前編)
「ジェドさん、まーた遠方に出かけているんですか? いよいよ陛下の婚礼が決まったんじゃなかったんですか」
「いよいよ陛下の婚礼が決まったのには変わりないんだが……実際に行うのは先の話だし、トラブルの種は俺を休ませてはくれないらしい」
「本当、大変ですねー」
慣れたように手続きをしながら軽口を叩くいつものゲート職員。なんといつもの地下牢は先日陛下にバレてしまったため意味もなく使用するのは不可になってしまい、普通にシュパース行きのゲートのカウンターで行っている。が、普通はゲート毎に職員が違うはずなんだけど……
周りにいるチャラチャラしたシュパース行きゲートの職員達も一緒に話を聞きながら軽くサボっている。俺が来ると話が長くなる=サボりの口実になる事は変わり無いみたいで、通常の職員もサボりがてら対応しているし、いつもの職員もサボりがてら対応に来ている。お前ら、この間陛下が視察に来たばかりだよね……?
シュパースの職員はもともとそういう気質ではあったが、他の職員も適度にサボり、仕事は滞らないようにちゃんとする緩い空気がゲート都市全体に蔓延している。
「まぁまぁ、こういう空気も一見駄目そうではあるけど仕事が長続きする秘訣でもあるんだよ
駄目なものは駄目だけど、真面目過ぎるのも害だよ。過労死、心の病、思いつめた人って話聞かないからねー。適度に休憩、助け合い、話きこか? こういう雰囲気を作っていくのが一番だって」
「ナスカさんってチャラそうに見えて結構真面目に考えているんですね」
「……いや、騙されるな。こいつは真面目に考えている訳じゃない。どうやって楽しようか、どうやって遊ぼうかと日常のすべてをこじつけているだけだ」
「酷くない? 本当に面白い事を見たいんだったら悪い事に手を染めそうだけど、真反対を行っているんだからそこは褒められるべきっしょー」
いや、俺はナスカの心情がよく分かる。こいつはそういう表面的な事を考えている訳ではない。悪い事で楽しんでも一時の快楽でしかなく、永遠に楽しむならば平和を維持する方向のが崩壊しない。ゲート都市だって前はもっとちゃんとしていたはずなんだけど……いつの間にかこんな雰囲気になっているし。
じわじわとゆるい空気を毒のように注入していく……そう考えた時にナスカにナーガの姿が被った。
俺の心境が読めてかニコッと笑うナスカ。その感じはきっとからかっているだけだろう……本当に人類の堕落を企んでいるのであればもっと狡猾に分かり辛く浸透させるはずだ。多分。
「まぁ確かに、闇ギルドだか何だか、得体の知れない組織については俺達も困っていたんですよねー。やっと調査に乗り出してくれて本当助かります」
「やはりまだゲート都市にも出入りしているのか」
「ええ。あの闇バイト令嬢一斉検挙の時に一瞬勢いは収まったんですけどねー。あれから少し経つとやはり軽度の違反でで捕まる人がまた増え始めて、聞けば闇ギルドに頼まれたって言うし。その度にシュパースに送るって手も考えたんですけど、聞けばシュパースでも闇ギルド関連の問題が結構深刻で、それにそれ目当てで犯罪を犯すつもりもないのにこれ幸いにとシュパースに行ける口実にしようとする奴まで現れ始めるというか……」
「闇ギルド側も『捕まってもシュパースに送られるだけで刑は軽いしなんならおいしい』とか言って騙しの手口に使っているとか何とかみたいで」
「ふざけんなだよな。俺達が遊ぶ金を稼ぐ為にどんだけ苦労していると思ってるんだよー」
うんうんと頷くチャラチャラシュパース職員達。いや、君たちはちゃんとサボってますよね?
「この通り、シュパースやその近辺に変な輩が出入りしてるんだよねー。だからジェドっち達にシュパースで新しく出来たリゾートゾーンを楽しみつつ観想を聞かせてもらいたいって訳」
「そうか、分かった。いやちょっと待て、闇ギルドをどうにかしろって話だよな?」
「うん、だから新しく出来たリゾートゾーンの観想を聞かせてもらいたいって」
「……お前は本当に闇ギルドを何とかしようとしているか……?」
「うーん……どちらかというと新しいリゾートゾーンの観想が聞きたい」
いややっぱり困ってないし闇ギルドの事無くなってるじゃないか。
「まぁまぁ騎士団長、ナスカさんの要望はこの際置いておいて、実際にシュパースで被害が出ている訳ですし、新しい場所でしたら人もそれだけ多くなるって事はそれだけ暗躍者も集まりやすいんじゃないですか? それに、そこまでしつこく言うって事は何か思う所があるのでしょう」
シアンの仲裁にナスカはパァっと顔を明るくして、ニコニコと話を続ける。
「さーっすがシアシア、察しの悪いジェドっちと違ってちゃんと考えてくれる、やさしい」
「俺が何も考えてないしやさしくないみたいな言い方しないでくれる?」
「それで、その新しいリゾートゾーンがどうされたんですか?」
「うーん、実はさぁ……シュパースのリゾートゾーンって、俺が実際に作っているのもあるんだけど、多くはやる気のあるやつというか案のある奴にプロデュースを任せてるんだよね。1人が考えるよりもより多くの発想があった方がいいからねー。ピンと来なければ流行らないから早期終了すればいいだけだし、まぁそもそも普通に流行る奴だってそのうち飽きちゃうからね」
「まぁ、確かに流行りって奴は足が速いからな」
そういう言い方をするとオッサンみたいで嫌なんだけど、帝国でも何でそんなもんが流行っているんだと首を捻らざるを得ない服装や食べ物が出回っていたりする。前までは他国から入ってくる面白いものには飛びついて楽しんでいたのに……あーやだやだ。
「ジェドっちの老化はともかくとして」
「当たり前のように考えている事を読むな」
「俺も今までは流行る流行らない、面白いつまらないの感覚には自信があったんだけど、今はこれじゃん?」
ナスカは片目が義眼である。前にスノーマンでナーガと戦った時に片目を失ったのだが、元々の目は見えすぎる程に見えてしまうので、片目が無い位が丁度いいと言っていた。良し悪しが見えすぎてしまうのも、確かにつまらないとは思うが、やはり見えないと困るものもあるにはあるのだろうか。
「率直な感想を聞きたいというか、流行ってはいるんだけど何かピンと来てないのもあるんだけど……」
「……けど?」
「どうも、その流行りも作為的というか、人の流れがおかしいんだよねー」
「なるほど、それが闇ギルドに繋がるかも、という訳なのですね」
「そうそう」
つまり、ナスカが首を捻るほど微妙な新リゾート地ではあるのだが、何故か想像より流行っていて、それが最近の流れから闇ギルドの介入に繋がっているのではないかと思っているらしい。
「単純に面白いものを作る分には、島の住人だろうが住人じゃなかろうが闇ギルドだろうが構わないんだけど、それが楽しむとは別の方向ってんなら話は違うじゃん?」
「まぁ、確かに」
「頼みます、ジェドさん、ナスカさん! 何とか闇ギルドの奴らがこれ以上シュパースに入るのを止めてください!」
「このままじゃシュパースが崩壊してしまいますし、俺達の仕事も無駄に増えてしまう……」
「余分に働いた所で給料が増える訳じゃないなら、これ以上無駄な事で煩わせないでほしい!」
「ナスカさんが面白いか首を捻るくらいなら絶対そうでもないもんじゃないですかー、何とかしてください!」
「このままじゃ安心して働けません」
と、話を横で聞いていたシュパースの職員が口々に文句やら懇願やらを述べる。お前ら、真面目なのか真面目じゃないのかどっちだよ。いや、全然真面目な所は無いか。これだから遊び人は……
懇願するシュパース職員やサボるのが名残惜しいいつもの職員に見送られ(心なしか手続きも遅かった。全然、前回の陛下に怒られたのが響いてない)、俺達はシュパースの門を潜り抜けた。
★★★
「……そうか、これが新しいリゾートゾーンか」
「こんなものがあるのですねー。全然知りませんでした」
「でしょ、発想は新しくていいんだけどさぁ」
腕を組み首を捻る赤髪の縛乳セクシー美女。興味津々に辺りを見回すセクシー魔法使い美女。そして……壁に掛かる姿見に映る金髪バニーガールのセクシー剣士が……俺だった。




