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シュパースの新たなリゾートゾーンは闇の香り(後編)

 


 リアルな町並みの中に作り物のような違和感が混ざり合う魔術具で見える町並み――仮想体験エリアの中にいる俺、漆黒の騎士団長ジェド・クランバル改め、セクシーダイナマイト美女ジェド・クランバルと、おっさん改めセクシーサキュバス美女クリスティア(仮)。

 その視線の先に居たのは仮想体験エリアにありながら見飽きるほど見覚えのある悪役令嬢の姿……


「あれは……この空間の発想元のVRゲーム『DGO』の配信悪役の1人、闇の悪役令嬢キャスカ!」


 わなわなと震えながら指差すおっさん。闇の悪役令嬢ってことは光の悪役令嬢もいるのか……?

 多種多様な見た目を持つ人並み(ダイナマイト美女多め)に紛れながら、『闇の悪役令嬢』と形容するに相応しく禍々しいオーラを放っていた。

 思わず身構えて剣に手をかける。視界に見えているバニーの腰には剣は無いが、感触だけあるのでちょっと気持ちが悪い。


「そのキャスカとやらは相当強いのか?」


「は、はい。ゲームバランスが悪すぎて多人数でも討伐不可能だったのですぐアプデ修正で違うキャラクターに変えられてしまいました。なので短い期間しか出てなかったのですが間違いありません。私も戦った事がありますし、あまりの鬼畜調整からいくつもの動画に纏められていましたので……」


「なるほど。だが、ここに見えている容姿はあくまで()()姿()()()()()()というだけの話だよな」


「確かに、ですがあの容姿は確かにその悪役そのもの。実際のそれかどうかはともかくとしても、その短期間しか配信されなかった悪役令嬢キャスカの容姿をああも再現しているのであれば……少なくとも私しか知らないはずのDGOを知っている、同じ世界の者には違いないのです。それも、廃ゲーマーの」


 偶然、と呼ぶにはあまりにも似すぎているのだとクリスティアは言う。自分で理想通りの姿がカスタマイズできるからこそ、そんな姿は元のゲームを知っていないとありえないのだ。それもクリスティアだけが知っているはずのゲームを……

 ……言うても、同じゲームを知っている同じ世界から転生してきた人なんて何人も見ているので有り得ない話ではない。なんなら同じゲームの登場人物全員転生してきたとかあったからなぁ……


「そういえば闇ギルド……この元のゲームと名前が似ている。何で気付かなかったんだろう、偶然にしては出来過ぎている……」


「言われてみれば確かに。まぁ、だからと言ってその悪役令嬢同様、そこにいる彼女(?)が関係しているとはまだ分からない。警戒するに越した事はないが……」


「ですね。とりあえず監視してみましょう」


 そう言いながらやたらに張り切って物陰に隠れて観察し始めるクリスティア。一般の人ほど張り込みや調査に憧れてノリノリで取り組むものである。が、こんなに人が居るんだから隠れる必要あんまり無いし、なんならコソコソしている方が余計怪しいから普通に買い物とかカフェに入ってお茶でもすればよいのでは無いだろうか。


「まぁ待て、そんなコソコソジロジロしていたら他の観光客にも変な目で見られるから、ここはそこの路上販売でも見ながら誤魔化して――」


 と、道端で売っている色とりどりのアクセサリー販売の商人を指差した瞬間、俺は固まった。見覚えのある立てロールに吊り目、そして禍々しいオーラ……

 クリスティアのおっさんもそちらを見て固まった後、慌てて振り返り先ほどの令嬢を振り返り交互に首を振って見た。


「あ、あれ、あれ? あれ? 何でキャスカが2人?! 確かにアバターデザインが被る事はあるにはありますが、あの見た目でしかも完全に被るなんて有り得ない!」


「知り合い……か?」


「かもしれ――はうあっ! ジェドさん、あ、あれ……」


「え――」


 クリスティアが震えながら指差す先、カフェでもりっもりにデコられている飲物を注文しながらキャッキャウフフと楽しむ2人組み……その2人共が悪役令嬢キャスカなのだ。

 というかよく見て見ると、このエリア内に沢山の悪役令嬢キャスカが居る。怪しいオーラが充満している。同じ顔がめちゃくちゃいて怖い。過去、何故か沢山の悪役令嬢に囲まれるという状況はあったが、同じ顔の悪役令嬢がこんなに現れるのは初めてだ。いや、沢山の悪役令嬢に囲まれる状況も何。


「どういう事だこれは……」


「あの、すみませんお嬢さん達、その同じ姿、流行っているのですか?」


 先ほどのカフェの2人に恐る恐るクリスティアが声をかけると、そのうちの1人が笑いながら答える。


「あー、これ面白いよね! めっちゃ同じ人いるし、でもこの格好でこのエリアに入ったら報酬が貰えるっていうからさー」


「あ、ちょっとそれ内緒のバイトだって」


「え、そうだったっけー」


 頭の悪そうなキャスカAが持つチラシを、キャスカBが慌てて隠そうとするも、俺はそのチラシを奪い取った。


「あっ、ヤバ」


「これは……」


 そこに書かれていたのは、悪役令嬢キャスカの人相と『この姿で新エリアを楽しもうキャンペーン』と題した案内であり、この格好でエリアを訪れた者に与えられる報酬と1番下に書かれていた『闇ギルド』と『この依頼は極秘事項であり、他言禁止。特にシュパース職員には知られる事の無いように』と書かれていた。いや、依頼の注意書きは最後までちゃんと読んで守れよ。

 闇ギルド関連だから良かったものの、普通の他言禁止の依頼であればギルド出禁である。こういうやつらが普通のギルドから締め出されてそういうギルドに行っちゃうんだよなぁ……


「やはり闇ギルド関連でしたか! 君たち、これを何処で手に入れたんですか」


「えー何処でって……」


「あれっていうかー」


 キャスカABが指差す先には、チラシを配るキャスカCの姿があった。

 ばちっと目が合った瞬間、何かやばいと感じたのかキャスカCは人ごみを掻き分け逃げ出す。


「あ! 待て!!!」


 俺も慌ててその後を追いかける。ダイナマイトボディが揺れて走りづらいような気がする。いや、見えているだけでそんなボディは持ってないはずなのに視覚でぶるんぶるん揺れているので脳がそう感じてしまう……この魔術具、合わないかも。

 クリスティアのおっさんは普通に足が遅かった。これは元のおっさんが普通に遅いからだ。置いていこう。



 ★★★



 一方その頃、シアンとナスカの2人も街中にやたらに現れる同じ顔の令嬢に違和感を抱いていた。


「これって、流行とかそういうものですかねー」


「あの顔が流行るかなぁ。それに、中身は悪人面のおっさんとか頭悪そうな女の子とか色々だよ。あー、あっちの子元の顔の方がタイプ」


「頭悪そうとか口に出さない方がいいと思いますけど……それにしてもこの数は異様ですよね」


 新エリアが流行っているせいか、街中を埋め尽くす人ごみ……その中にかなりの人数のその顔が紛れ込んでいた。


「前に同じ服を着た人が街中を埋め尽くして、そこから特定の人を探すゲームイベントをやった事もあったんだけどねー。ウオー……なんだっけ、を探すとかなんとか」


「ナスカさんが把握されてないのだとしたらイベントでは無いでしょうに……」


「まぁ、十中八九、営業妨害の方でしょ」


 慣れた手つきで同じ格好の令嬢が持っていたチラシを盗み取るナスカ。そのチラシは同じ頃にジェドが見たものと同様闇ギルドの案内だった。


「何の為にこれを……」


「まぁ、かく乱してその中で悪さをしようって事っしょ。闇ってやつはさ、紛れれば紛れるほどいいからねー。これ、闇ギルドって書いてる割に内容が悪い事じゃなさそうじゃん」


「まぁ、他言無用とは書いてありますが、これを行っている本人は単純に格好をこれに変えているだけですからね」


「こうやって、何かに加担しているって分からないように味方を作って悪い事をしようとするのが真の悪いやつって訳だ。それはちょっとだけ悪いくらいでいいんだよ、本当に悪い事を実行しようとする奴が動けるように、ただ手助けをしてくれればさ。ね?」


 ナスカがぽんと肩に手を置いた先の人物、それは悪役令嬢キャスカの見た目では無い、ただのチラシ配りの男だった。


「え?? え?? 何ですか?」


「上手く隠れたつもりだったんだろうけど、残念。俺は片目がよく見えるんだ。それを知らないよそ者の人、お疲れ様」


 ナスカの視界に写るその男性の半分は、悪役令嬢キャスカそのものであり、そしてその腕には闇ギルドのチラシに書かれているものと同じマークが入っていた。

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