第7話 美少女に打ちのめされて、満身創痍な件
「ただいま…。」
家に到着。下校する時も倉瀬にしつこく誘われたが、何とか回避する事に成功した。
「おかえり〜。早かったね。せっかく高校生になったんだし寄り道でもして来れば良かったのに…。」
先に帰宅していたのか呑気にそんな事を呟く美波。こいつには俺が初日からどんな窮地に立たされたのかを教えてやらねばならないようだ。
「いいか妹よ。まずは観てくれこの満身創痍な兄の姿を。俺がどんな仕打ちをされたと思う?お前には理解が出来まい。」
「ふーん。あっそ、ではどんな事が兄様の身に遭ったのですか。この愚妹にもご教示下さいませ。」
スマホをいじりながらの適当な対応。基本的にどんな事にも積極的な美波がこの雰囲気を出しているなら、本当に興味が無いと理解出来る。
「そんなにぶっきらぼうにしないでよ。お兄ちゃん泣いちゃうよ。」
「いいから早くしてよ。」
感情に訴えかけても態度は変わらず、俺は今日身に起きた事を包み隠さず、誇張無しに語った。
「それって…本当にお兄ちゃんに起きた事なの?妄想じゃなくて?」
「なんて事を言うんだ美波。流石に今のは堪えるぞ。」
「ごめんごめん。ちょっと信じられなくて。そんなギャルゲーの主人公みたいな事が本当にあったなんて…。」
「ギャルゲーなんて言葉何処で覚えてきたんだ。はしたないですよ。」
「五月蝿いな…というか、本当の話なら脈アリじゃん!良かったね。」
「何を言ってんだよ。たまたま登校途中で助けただけじゃん。そんな事で好きになっていたら、この日本は恋人だらけでもっと温暖化が進んでしまうだろ…。」
「そうよ…。だから最近はこんなにも暑いの。お兄ちゃんもその片棒を担ごうとしてるって訳。」
「茶化すな茶化すな。ただたんに今のお前みたいに誂かっているだけに決まっている。相手は超絶美人なんだぞ?引く手あまただ。俺なんか眼中にもない。」
そうに決まっている…。人はそんなに直ぐに誰かを愛するなんて事ある筈がない。勝手に浮かれて、勘違いだと気付ずかず、取り返しのつかない事までしてしまう。
俺はそれを中学時代に嫌というほどに思い知った。だからこそ、ボッチ生活をする事を決断したのだから。
「そんな事ばかり言ってるとね、肝心なところでチャンスを逃す事になるよ。せっかく彼女が出来るかもしれないんだから…。」
「お節介どうも…。それじゃ、自分の部屋に戻ってるから…。」
そう言い残すと俺はリビングから階段を登り、自室へと向かい始めた。
「ふー。」
部屋に戻ると、ドアを背にもたれ掛かる。息継ぎする間もない激流の中を泳いだ様な、正確には流されただけだが…。疲労感が身体には溢れていた。しかし、少しの不快感は無かった。それは相手が倉瀬美鈴だからだろうか…。
「どうしたもんかね…。」
床の木目を引っ掛かく。カリカリとする音が頭にすっ、と入ってくる感じだ。
正直なところ、嬉しくない訳が無かった。あんな美少女とお近づきになれたのだ。嬉しさの余り感涙してもいいのだろう。
しかし、やはり俺の頭の中には過去の事、中学時代の事が過る。
身の丈に合わない恋なんてしない…。分不相応な青春なんて望まない…。この状況になって尚の事、自分の中に岩石の様な決意を建てよう。
「俺は負けないぞ!!幾ら相手が可愛すぎるからって!!」
所信表明。口に出す事で明日からの学校生活が頑張れる。
「お兄ちゃん、五月蝿い!!」
「あっ、御免なさい…。」
朝日に急かされ、目が覚めた。設定しているより15分ばかり早く起きたのか…。この時間では二度寝は厳しい。
なんだか損をした気になってベッドから腰を下ろした。
ぼーと、部屋を見つめて頭を起こす。油断をしたら、寝てしまいそうになる。眠い目を擦りながら洗面台へと向かった。
「あれ、早いねお兄ちゃん。珍しい事もあるもんだ。」
途中、寝起きの美波とすれ違う。
「ああ、お早う妹よ。なんとなく目が覚めてな…。」
顔を洗い、髪を整えようとしたが、整髪料がもうなくなっている事に気がついた。
「あ〜、そう言えば切れてたっけ…。しゃーない帰りに買ってくるか…。」
身嗜みはエチケットだと心得ているが、ないのならしょうがない。今日は梳かすだけに留めるとしょう。
「う〜ん。こやつは中々、頑固だな〜。まぁ〜でも、隠れて目立た無いし…これでいいか。」
正直、寝癖なんかより遅刻の方がまずい…。俺は鏡での格闘は程々に、洗面所をあとにした。
食卓には既に朝ご飯が彩られており、高貴な香りがリビングを包んでいた。
「もう、私も洗面所使いたいんだから早くしてよね〜。」
作り終えた美波は文句を言いながら、足早に身嗜みを整えに行く。
家の料理は美波が作っている。両親は共に夜勤が多く、帰ってくるのが遅い。俺は…少し…ちょっとばかし料理のセンスが無く、作った卵焼きは焦がし、食べた美波は「私が全部作る」とだけ言われた。
妹の料理は兄としての贔屓はあるのだろうが、店レベルで美味い。
その代わり、他の家事は俺の領分だ。そうやって今まで二人で分担してきた。
だが、最近は他の家事までやりだして俺の立つ瀬が無い。肩身が狭い思いはするが、それを責める事も無い。なんて出来た妹だろう。
そんな妹の料理を食べれる事に感謝しつつ、皿を平らげる。早く起きたお陰て若干の余裕があるが、あまりうかうかしてられない。
「御馳走様。美波、俺もう出るから。」
自らの食器を急いで洗い、美波に声を掛ける。
「え、少し早くない?もう少しゆっくりすれば良いのに。」
結んでいる最中だったのか、中途半端な髪を携えて、玄関まで顔を出してきた。
「うーんと…そうだ、学級委員の仕事でな。ちょっと早く行かないといけないんだ。まったくメンドくさいよな。」
嘘100%というわけではないだろう…。実際、クラスの代表なのだから遅刻ギリギリは心象が良くない。せいぜい50%くらい本当の事だ。
「ふーん。目が泳いでいるところはかな〜り怪しいけど、遅刻しない事は真っ当だし。まぁーいいでしょう。」
妹に疑惑の目が向けられたが、何とか許可を得た。
「それじゃ行ってきます。」
返事を待たず、俺は玄関を飛び出し、駅へと駆けて行った。
「朝の7時15分…これなら相当早く学校に行けそうだ…。」
昨日よりも早い時間に駅に到着。まだ、学生の人数も疎らだ。これなら満員電車に乗る事もあいつと乗り合わせる事もないだろう…。
「は〜。」
一息つく。少し早すぎたかな…。でも遅いよりは良いだろう…。
「だ〜れだ♪」




