第6話 いったい君に何のメリットがあるのか、俺には分からないんだが…。
「よーし、自己紹介も済んだ事だし、委員会を決めて行くぞ。」
怠そうに呟く。察するにいつも決まるのに時間が掛かるのだろう。
「大体このくらいかな…。」
先生は近くからチョークを持ってくると、慣れた手付きですらすらと書き上げる。ずらっと羅列されたのは委員会の数だ。
「一つの委員会辺り、2から3人ぐらいかな。立候補で決めたいところだが…。一つずつ聴いていくぞ。」
「まずは、学級委員。やる奴はいないか?委員会の花形だぞ!」
だから何だよと言わんばかりの沈黙。それはそうだ。誰だって面倒事は御免に決まっている。
「誰もいないのか。このクラスのリーダーになりたい奴は。みんなを引っ張っていきたい奴は。」
そんな簡単な口車に乗る人が居るわけがない…。それを裏付ける様に辺りには未だ沈黙が顔を見せていた。
「秋元さん。秋元さん。」
倉瀬が、俺の腕をちょんちょんと小突いてくる。ふいの仕草につい可愛いと思ってしまうが、にやにやした顔を見ると、何か面倒事を押し付けてくる予感がぷんぷんだ。
「一緒に立候補。しませんか?」
やっぱり、そんな事だろうと思ったぜ。会ってまだ数時間だが、こいつの考えそうな事だ。
「ぜっっったいに嫌だ!」
強調して断りを入れる。誰がそんな目立つ様な事をするか!
「えーいいじゃないですか!二人でこのクラスを引っ張って行きましょうよ。楽しいですよ!」
あいも変わらず強引だ。何処に楽しさを見出してるのだ。
「そんなにクラスの為に頑張りたいなら一人で立候補すれば良いだろう。きっとお前が挙手すれば、男子達がこぞって群がるぞ。」
意地悪く言うと、倉瀬は頬を膨らませて、むっとしていた。…ハムスターみたいだな…。
「そんなに私とやるの嫌ですか…。」
不貞腐れたのか、さっきと変わって露骨に落ち込んでいる。
「あのなぁ〜、論点が違うんだよ。俺はクラス委員はやりたくないの!」
「じゃあ、他の委員会なら一緒にやってくれます?どれにしますか?図書委員、生物委員、色々ありますよ。」
「だ・か・ら、そもそも委員会なんてしたくないの!」
「もう…、ワガママですね秋元さんは…。」
「お前が話を聞かないからだろう!」
堪らず声が大きくなる。はっと我に返る。が…気付くのは遅かった。クラスの皆が俺の、俺達の方を観ていたのだ。そして、目の前には先生が…。その顔は丸で怒りに満ちていた如来様だ。
「そうか、そうか、お前達二人で学級委員をご所望か。分かった、じゃ、宜しく頼むな!」
当てつけの様に言われてしまっては言い返す事も出来ない。反論を聴く前に教師は教壇へと帰って行った。
「よし、二人共前に来てくれ。続きの委員会決めをやって貰いたい。」
うぁ…、さっそくお仕事かよ。面倒くせー。でもゴネたところでどうしようも無い。
渋々席を立とうとした時、俺は確かに見たのだ。
そこには、倉瀬が口を手で覆い、必死に笑いを堪えている姿だ。
(こいつ…!これも作戦の内かよ…。)
心で聞こうにも伝わる訳もなく、二人でゆっくりと教壇へと向かっていった。
「えー、それでは…学級委員に選ばれました、倉瀬美鈴です。このクラスをより良くする為に粉骨砕身のつもりで頑張っていく所存であります。」
倉瀬はなんか政治家の政権放送の様な口上を述べている。襷を肩に掛ければよりそれっぽい。きっと、握手をする人が隊列を作る事だろう。
俺はというと……。
「同じく学級委員になりました。秋元です。…特に口上はありません。」
とてもやる気の無い挨拶。これでは、落選確定は見るまでもない。
「へいへーい。テンションが低いですよ!それじゃ、皆さん心配してしまいますよ。」
お前は何でそんなにテンション高いんだよ。
「御免なさいね。この人、恥ずかしがってるんですよ。悪い人じゃないんで気にしないで下さい。」
俺の何を知っているんだ…。凄く疲れる…。
「それじゃ、パッパッと決めちゃいますかね。先ずは生物委員、誰かやりたい人はいますかね。」
倉瀬の主導でどんどん委員会が決まっていく。俺は兎も角として、こいつを学級委員に据えたのは間違いでは無かったと言う事だ。
「という感じで…、これで全部決まりましたかね。」
「ありがとう倉瀬、助かったぞ。こんなに早く決まるなんてな!」
「いえいえ〜、それ程でも…ありますかね。」
倉瀬を褒めている教師が俺の方をチラりと見た。まぁ…言いたい事は分かる。俺は何もしていないからなぁ。正直なところ、此処にいる全員が思っただろう…。自分だってそう思うのだから。
「秋元もありがとうな…。助かったよ。」
心の籠もっていない感謝を受けてもちっとも嬉しくなんか無い。何もやっていないのだから、素直にそう言えばいいのに…。
「これで分かったでしょ先生。俺が学級委員なんて出来ないですよ。今からでも他の人に変わって貰いましょう。」
「うーん…そうだなぁ。でも今からじゃ…。」
「大丈夫です!秋元さんならやれますよ!」
倉瀬が割って入ってくる。
「秋元さんはやれば出来ますから。今はこんなですけど…私がカバーしますし…。」
「倉瀬がそう言うなら…。秋元、頑張れるか…?」
「まぁ…はい。大丈夫だと思います。」
…こいつはいったい俺の何を買っているんだ。意味が分からない。
席に戻る曖昧もその事で頭が一杯だった。
「すいません…。さっきはああ言いましたが本当にやりたくないのでしたら…。」
「いや、大丈夫だよ。少し強引だったけどね。苦手だけど…大丈夫。」
此処で無理と言えないのが、俺の弱さなのだろう。素直にやりたくないと、それだけで終わる事なのに…。人に弱みを見せられず、ずるずるとのらりくらりする…。中学の時だってそうだったんだから…。
「明日の予定だが…さっそく授業があるぞ。それに部活動の体験入部の方も始まるから考えておくように…。」
その日、俺は家に帰るまでに、その事を何度も何度も反芻していた。




