第4話 美少女と特別な関係なんて、普通は嬉しいものなんだがな…。
「やったー♪秋元さんの連絡先を入手しましたよ!これで何時でも連絡が取れますね!」
俺とラインを交換して何が嬉しいんだか…。
はしゃぐ倉瀬を観ていると、自分が価値ある人間に見えてくるから不思議だ。
…その感情は中学時代に捨てたと思っていたから…。
「…それが君にとって、そんなに良い事なのか…?」
つい、口から漏れた。言い方が少しあたりが強かったかもしれない。自分の過去に泥を掛けられたように一方的に感じたてしまったのだ。
「…当たり前じゃないですか?…仲良くなりたいと思っている人なんですから。」
けろっと、倉瀬は俺に言ってみせた。あまりに自然でそれ以外のものなんてないと言わんばかりの…好きな食べ物を答えるように…。
「……そうか…御免。変な事を聞いたね。忘れてくれ。」
「……?」
顔を俯ける。何も言い返せなかった。この娘にとって、俺が親しくなりたいと思う程の人物だと…そう言われて、嬉しかった。有難かった。素直にそう感じてしまったのだ。
ピコン、とスマホが通知音を鳴らした。送り主は勿論、倉瀬。メッセージには……
「初ラインを送っちゃいました。by倉瀬」
顔を上げると、倉瀬が少し気恥ずかしさを覗かせながら、笑っていた。
それを観て、自然と俺にも笑みが溢れた。
キンコンと、始業のチャイムが未だ騒がしい教室を締め、各々を着席させる。
ガラガラと、無機質にドアを開いたのはこのクラスの担任教師だろう。
中年の、恐らく30代後半から40代前半の少し小太りの風体をしていた。生徒と違い、落ち着いた雰囲気が醸し出しているのは、新入生の担任を何回もこなしているからだろうか…。
彼は、希望に満ちてしょうがないといった生徒の顔を見渡すと、咳払いをして、逆にぶっきらぼうに口を開いた。
「このクラスの担任なった白山だ。これから一年間宜しく。」
定型文だけの挨拶を交わすと、そのまま口を閉ざす。疎らな拍手が飛び交った。
「…これから、君達は新生活を始める訳だが、まずは他のクラスメイトの事を知りたいだろう?そこで次のLHRは自己紹介をして貰おうと思っている。名前だけじゃなく、質問形式にしようかな?」
ざわざわと教室が揺れた。楽しみな者とそうじゃない者が、互いに何かを言っている。
…勿論、俺は後者だが…。
「はい、静かに。色々言いたい事もあるだろうが、クラスに早く馴染んでもらうためだ。それじゃ、暫し休憩。」
第一印象は、俺好みの先生だと思っていたのに…、まさかハズレなのか…?
活気が戻る教室とは反対に俺の心は酷く落ち込んでいた。
「お、どうしました?やけに暗くなって。」
隣の倉瀬にもその様子は感じ取れたらしい。
「いや…こういう雰囲気が苦手でな…。クラスの皆で仲良く〜とか、イマイチ出来なくて…。」
色々な人間がいるのだから、合う合わない人間だっているに決まっている。それを無理に団結させる必要なんてない筈だ…。
「私は好きですよ?共に何かを成し遂げるのは気持ちがいいですし。クラスの皆と友達になりたいと思ってます。」
「うへ〜。マジでいってる?…凄いなお前。」
「もっと褒めてもいいですよ!」
別に褒めてはいないが、そういうところは素直に尊敬するわ…。
「倉瀬さん…ちょっといいかな…?」
二人の会話を中断させたのは、短髪で筋肉質な如何にも運動部といった輩だった。
「…私ですか?何でしょう…。」
面識の無い人間に話し掛けられて、頸を傾ける。何か嫌な予感が背筋に走った。
「良かったら、僕と友達になってくれませんか?」
おー、やるね。積極的なアプローチだこと。まぁ、もう少しだけ下心を隠す努力をするべきだ。その理由だけだと相手は警戒すると思うが…。
「…私と?構いませんが…。えーと、お名前は…。」
「須藤です!下の名前は晶です!」
「あまりこういう事を聞くのは失礼かと存じますが、何故私と?」
おいおい…、みなまで言わせるなよ…。倉瀬、実はドSか?
「つっ、…それは…、クラスの皆と仲良くなりたいからさ!」
少し言い淀んだが、須藤は倉瀬にそう伝えてみせた。
(悪手じゃないか〜。自分の頸を締める事になるぞ。)
「そうですか…。ありがとう御座います。言い難い事を聞いて申し訳ありません。」
倉瀬は何かに納得すると、自らの非礼を詫びた。
「そ、そう…、納得してくれて良かった。それじゃあさ、連絡先でも……。」
「えぇ、秋元くんとも友達になって貰いましょう。」
「はい…?」
…はぁぁぁ?…何を言っているんだこの娘は!! なんで俺に振るんだ。
「おい、勝手に…。」
「すみません、須藤くんは私達と仲良くなりたいそうなので、秋元くんにも協力してくれればと…。」
何か言っているが、俺は見逃さなかったぞ…。一瞬、倉瀬の口元がニヤリと緩んだのを。…こいつ…、俺を巻き込む気だな…!
「えーと、二人はどういう仲なのかなぁ。ひょっとして、付き合っているとか、なんて。」
「ち、違う…! そういう関係じゃ断じてないぞ。勘違いをするんじゃない…!!」
俺は椅子から勢い良く立ち上がり、精一杯の弁明を須藤に唱えた。
「それはもう…一言では言い表せない特別な仲です。」
「と、とくべつな関係!?」
須藤が一歩後ろにたじろぐ。絶対いかがわしい事を考えているだろう。
「お前、少し黙ってくれ…!余計に勘違いされるだろう…!?」
「ごめん、俺、用事を思い出したからさぁ。また後で…。」
「待って、誤解なんだ…!話を聞いてくれ…!」
須藤は振り返えらず、行ってしまう。その背中には失恋の二文字が刻まれていたのを俺は見た。
「どうしよう…終わりだ。絶対勘違いをされた気がする…。」
噂が広まり、俺の平穏が脅かされる事が無いのを祈るばかりだ。
「ええー、特別な関係なんだから良いじゃないですか。」
「はいはい、そうでござんすね。」
投げ槍の返事も虚しくなるだけだ。俺はこの娘にあしらわれる運命にあるのかもしれない…。




