第3話 美少女の連絡先を入手。終わりの始まりである。
「それじゃ、友達が待っていますので失礼します!!」
そう言うと、倉瀬は軽快なステップで学校へと向かって行った。
嵐のような時間が過ぎさり、その中で俺はポツンと一人残された。
「あ、いけない!俺も学校に行かないかと遅刻してしまう!」
意識を元に戻し、ホームの喧騒の中、自らも新生活へと歩み出した。
私立空峰高校
俺が住んでいる県では、有名な学校だろう。そこそこの進学校で部活も多種多様で盛ん、地域のイベントや課外学習にも力を入れており、まさに理想的な高校とも言える学校である。
その証拠に生徒数も多く、一学年500人以上はいるマンモス校だ。青春の具現化。ここに入学を志す生徒は皆、それを求めて門を叩く。
一見すると、俺の理想の真反対に位置するような学校だが、これにも理由がある。
俺が在籍していた中学は生徒数が少なかったのだ。一学年100人にも満たない。そのレベルになると他者との関わりが強固になりやすい。
全生徒と顔見知りの様なものだし、何かあった時に特定されやすい。
逆にこの学校のように生徒がかなり多ければ関わっても希薄になりやすく、結果、一人でいる事が悪目立ちし難い側面がある。
こうした理由からここを志願した訳なのだが、どうにも落ち着かない。
学校へと向かう道。同じ制服を着用している者は一様に同じ顔をしている。…皆の顔が明るい。希望に満ちている。こいつらにとっと俺の様な存在は考えもしないんだろうな…。
それは別に構わないのだが、何だ、この空気の重さは?
「ふ、早くも野望への洗礼と言った所か…。」
独り言を呟いてたつもりだったが、後ろの二人組にひそひそとされてしまった…。
「おお…、やっぱりデカイ…。」
学校に着くと早々に、校舎の大きさに圧倒された。それだけではない。敷地もとんでもなく広い。内の中学の何倍の大きさだ…?
見学や受験で何回かは来ているものの、未だこのスケールに追いつく事は出来そうにないな。
広い中庭を少しばかり歩くと、昇降口に人が密集しているのが分かった。皆が思い思いの表情をしている。友人と一緒になれて嬉しかったり、逆に離れてショックを受けたり等。はたまた、好きな人と…なんかもあるかも。
本来の俺には無用の長物ではあるが、少し気掛かりがあった。
そう、倉瀬の事である。彼女の容姿や性格は測らずともこの学校のアイドルへと押し上げてしまうだろう。そして、俺は彼女と知り合いになってしまったのだ。
もし、彼女と一緒のクラスになってしまえば、俺の夢は初日の段階で潰えてしまうかも知れない。
流石にそれは看過できない。だからといってクラス分けを変更する事も出来ない。全ては神のみぞ知る。
覚悟を決めた俺は群衆を押しのけて、クラス表に目を向けた。
(…秋元だから、こういう時は確認するのが楽だなぁ…。)
一組…違う、…二組も違う…、三組…あったぞ俺の名前。
そして念の為、下の名前もチェックしておこう。えーと、く、く、くと……あっ、あった。
同じ三組に倉瀬美鈴の名前が書き出されていた。
「…なんてこった!…俺の陰鬱ながらも輝かしい学生生活は終わりなのか…!?」
あまりの衝撃で口に出てしまっていたが、今はそんな事は気にしていられない!!嘆くのも程々に現状の問題を何とかしなくては…!!
足早に昇降口から校舎の中に入っていく。この学校は一年の教室が一番上になる様になっている。
そこから学年が上がると同時に下の階の教室になる。
(一番上だから、4階か…面倒くさいな…。)
一歩ずつ進む階段の足がいつもよりやけに重く感じる。
それは階を上がる程に、段差が上がる程に増していく。
途中、ある考えが頭を過った。座席の事である。教室の事ばかりだったが、座席はどうだろうか?
中学の時は、確か名前順に決まっていた様な気がする。…うん、多分そうだ。だって何時も廊下側の一番前だったし、あそこの席って嫌なんだよなぁ〜。人の出入りが多いし、先生とよく目が合うし、唯一の利点が冬の時にストーブが前にあって暖かいというくらいだ。
高校はどうなんだろう。変わらずに名前順だったなら、今は逆に良いかもしれない。倉瀬とは席が少し離れるからだ。きっと…そうに違いない…!
そもそも杞憂に決まっている…!通学路で会って少し気遣いをした俺に価値を見出す訳がないんだ…!
気づくと教室が目の前に立ち塞がっていた。
くだらない事を考えていたらいつもの間にか目的地にたどり着いていたのか。一年三組…。この教室で間違いがない。
「…ふ〜、よし入るか。」
溜息混じりの息を整えて、向かうは新世界。いざ、参る!!
俺は教室のドアを意気よいよく開いた。
「あっ!秋元さん、お早う御座います!!…ってさっき別れたばかりなのに挨拶は変ですよね…?驚きましたよ、一緒のクラスなんて!!私凄く嬉しくその場で飛び跳ねちゃいましたよ♪し・か・もですね!座席も隣同士なんですよ!いやー運命なんですかね。これから宜しくお願いしますね♪」
…なんか言っている。何だろう?あんまり聴こえないな…。
クラスにいる生徒が一斉にこっちを向く。視線が全身に突き刺さって痛い。針の筵のようだだった。
黒板に貼ってある座席表を見ると確かに、窓際の一番後ろの席に俺の名前が書いてある。その隣も……。
「…は〜、ここまでか…。」
ポツリと呟く。ゆっくりと自らの席に歩みを進める。丸で死刑執行が始まるように、ゆっくりと…。
椅子を引き、腰を降ろす。階段を登った時の疲労が、じんわりと抜けてゆく。
「…?どうしたんですか。」
右側に少しだけ、顔を向けた。そこには元気が無いように視える俺を心配しているのか、倉瀬が不思議そうに覗き込んでいた。
「何でもない、倉瀬と同じクラスになれたのを噛み締めていたんだ。」
流石の俺もお前と席が隣なのは最悪と言う事はない。それは人として最低な行為だからだ。
「それは嬉しい事を言ってくれますね!」
余程嬉しかったのか、随分機嫌が良いようだ。
「そんな事を言ってくれる秋元さんには、じゃーじゃん!私とのLineを交換する権利をあげましょう。」
倉瀬はポケットからスマホを取り出し、印籠のつもりなのか天高くかざした。
「…いや、遠慮しておくよ。」
「…ふふ、照れなくても良いんですよ!貴方には男子として初めて私の連絡先に登録出来るんですよ?」
これは引き下がりそうもないな…。長引けば、他の男子も群がるだろう。…しょうがない、背に腹は代えられない。
「それじゃ、はい。」
観念した俺はポケットから渋々スマホを取り出す。まさかの初日にして、美少女との連絡先をゲットしてしまった…。
周りの男子達が何かを察知したのか…俺の事を遠巻きに恨めしそうに睨んでいる。
どうやら、俺の青春は終わりを告げたようだ。
最後までお読みいただきありがとうございました。平穏なボッチ生活を望んでいた浩志でしたが、まさかの同じクラス、そして隣の席という運命的なスタートとなってしまいましたが、彼の新生活はどうなってしまうのでしょうか。
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