第2話 初登校が美少女となんて、早くも想定と違う!?
「いやぁ…先程は本当にありがとう御座います!!」
「…そんな大層な事はしてないよ。…それよりも……。」
「…なんか近くないですか?」
「そうですか?…満員電車ですからね♪」
満員電車…。確かにそうだな…。あの後、直ぐにやって来た電車に乗り、高校へ向かおうとしたが、当然行き先が同じである為、同じ電車に乗る事になった。
時間的に一本、電車を遅らせる事は出来ないことはないが、あの状況からそんな事をしたら変に思われてしまうだろう。
まして、同じ高校の新入生だ。学校であることないこと言われるのはたまったもんじゃな
い。
それにこのルックスだ。長い黒髪に目鼻立ちがハッキリした顔。何処をどう切り取って、観ても美少女だ。まさに美少女の具現化と言っても差し支えないだろう。……後、何がとは言えないが大きいし…。きっと直ぐに男子達から人気になってアイドルと化す事になる。
いくら俺がボッチ生活をすると言っても、悪目立ちしたくはない。
…まぁ、流石にそんな事にはならないだろうが…。 念には念を入れるに越したことはないだろう。
「それにしても、本当に混んでますね。」
「そうだな、昔はこんな混んではいなかったけど、最近は此処らへんに引っ越す人も多くなった影響だろうな。」
「へぇ〜。私も最近、ここに越して来たので…同じ考えの人が多いんですね。」
そうなのか…。親の仕事の影響かな…。まぁ、俺には関係ないが…。
「この辺にずっと住んでいるですか?…えっと、名前は…。」
「……秋元浩志。生まれも育ちも同じだ。…後、同い年なんだから敬語は辞めて欲しいな。」
「あっ、御免なさい!…つい癖で、私は倉瀬美鈴。皆からみーちゃんと呼ばれたりするんだ♪」
いや、そんな情報要らないよ…。…まさか、呼べと!!…いやいや、落ち着くのだ浩志よ。今そこで会ったばかりの殆ど初対面みたいなものだぞ!!そんな奴が馴れ馴れしく渾名で呼んだらどう思う!!
「うーん、別に貴方に呼んで欲しくて言った訳ではないんだけど…。」
こう言われる事、必至。もはや致命傷すら飛び越えてBADENDだ!!俺には出来ない!!だが……。
じ――――。
み、見られている。こんな美少女に見られたら流石の俺も耐えられない。だが、そんな名前でも呼びたくはない!!
こうなれば――
「それにしても、こんな時期に引っ越して来るなんて珍しいね。」
秘技、話題反らし!!如何なる者でもこの技の前では無力になる!!
「むー。取って付けた様に話題を反らしましたね。」
口を膨らませて、何かを主張する倉瀬。この娘と一緒にいるとこっちのペースが乱されてくる。
「まぁー、取り敢えず今は勘弁してやりましょう。親の仕事の都合というやつです。そんなに珍しくはないでしょう。」
「へー大変だな。進学の時期に被るなんて。」
「別にそんな事もないですよ。中学は女子校でしたから、共学の高校に憧れていたんです。だから、丁度ラッキーみたいな。親は高校も女子校が良かった様ですが……。」
「…もしかしなくても、お嬢様だったりします?」
俺は恐る恐る尋ねる。
「…ふふ、どう思います?お嬢様に見えますか?」
含みを込めた笑みに思わず、心臓が跳ねる。
しっかりしろ俺!!こんな事でドキドキしていたら、この先やっていけないぞ!!
「うーん…そうだな。確かに育ちが良いような気もするけど………うあっ!!」
瞬間、ガタンと大きな音と衝撃で車両が傾いた。
「きゃ!!」
綺麗な叫び声とともに倉瀬が寄りかかってくる。
俺は何とか身体全体を使って、受け止めようと試みた…はいいものの、かなり不味い事になった。
いや、正確には受け止める事には成功したが、体勢が不味い。
倉瀬を身体で支えているので、非常に密着をしてしまった。……密着をしているという事はだ…つまり、当たっている訳で…、非常に不味い。
「うーん。受け止めてありがとう御座います。それにしてもこの区間って凄い揺れるんですね。」
「あ、あー、こっちこそ御免。事前に言って於けば良かったね。」
何とか平静を装うが、頭の中はパンクしそうだ。
「……どうしたんですか?顔が凄く紅いですけど…。…!もしかして熱でもあるんですか!!」
慌てふためく倉瀬を観て、逆に申し訳なくなってきた。
「ちがうちがう、そうじゃないよ。熱は唯…。」
やっぱり言い淀んでしまう。
「……唯?」
不思議そうに顔を覗く倉瀬。こうなったらしょうがない!ままよ!
「…非常に言い難いんだけど、そのさ、胸がね。ちょーと当たっているかなー…なんて。」
「…胸が…当たっている…。私の…。」
向き合っている顔を下にして、自らの胸元を凝視した。
ぎゅーと、高校生らしくないそれをこれでもかというくらい、それはもう押し付けまくっていた。
かぁーと、倉瀬の顔が紅く染まる。見事な迄のその様子は沸かしたお湯で海老や蟹等を茹でた様に見えた。
急いで、上半身を反らす。余程恥ずかしかったのだろう。鮮血に染まった頬は中々元には戻らない。
「…ははは…。なんか御免なさい。失礼な事を…。」
何故か謝る倉瀬。寧ろ、こっちの台詞だ。
「…いや、俺の方こそ…。」
「…………」
「…………」
なに、この空気。めちゃくちゃ気まずいんだけど!!
なんで朝からこんな事になっているんだ!そもそも俺は目立たず、陰キャ生活を愉しむ筈だったのに!!
ふと、気づくと、電光掲示板では、次の駅が
示されていた。
「空峰高校前」
その文字が指し示す通り、これから通う学校の最寄り駅だ。なんだか凄く長かった気がするが、もう降りる駅は近い。
「…そろそろ学校に着くね…。」
俺は沈黙を打ち破ると、もうお別れと言わんかりに、倉瀬に伝えた。
「あ、そうなんですね。これから新しい学校か…。馴染めるかなぁ…。」
倉瀬の顔には、これから始まるであろう新しい環境に対して、楽しみと緊張が半々に折り重なった複雑な様子を覗かせる。
昨今は、入学が決まったさいに登校を待たずしてSNS等で先に知り合いになっておく、なんてことがあるらしい。なんでも、ボッチを回避する為なんて説もあるらしいが、真相は定かではない。それぞれに事情があるのだ。
…ボッチが丸で悪い事のように扱われているのは気の所為ではないだろうが…。
「…駅に着きましたね。いやー楽しみだな!」
そうこうしている内に電車は駅に到着するが、自動ドアの無機質な開閉が妙に目に付いた。
「クラス、一緒だといいですね!!」
反対に感情が体を示さんとするように倉瀬は俺に笑顔を振りまいた。
「そうだといいな…。」
こいつといると、俺の野望が潰えてしまうが…ま、同じクラスになる事は恐らくないだろう…。
……ないよね……?




