第28話 俺氏、妹達との甘いデートを楽しむが、近づく修羅場には気付かない模様。
「それで?何処に行くの?」
美波は不満そうに呟く。よく考えれば、友達のお願いだからといって、年頃の女の子が兄と遊びに行くのは気持ち的に穏やかでは無いだろう。
「2人が行きたいところで構わないよ。」
俺が出来る事といったら、2人の希望を叶えるよう努力する事くらいか…。
「それって…お兄ちゃんの奢りって事だよね!ラッキー、栞ちゃんどうする?」
(現金な奴だ。まぁー機嫌が治ったなら良かったが…。)
「そうだねー、あっ、そういえば…あそこは?この前オープンした駅の近くの…。」
はしゃぐ2人を観ていると小説を書くためとはいえ連れ出した罪悪感が洗い流されていくように感じる。
「どうしました?お兄さん?」
「ん…、大丈夫。何でもないよ。ところで行き先は決まった?」
「はい!先ずは……。」
「ご注文のデラックスパンケーキです。」
店員が持ってきたのは、何人前はあろうかという巨大なパンケーキ。その名もデラックスパンケーキと言うらしい…。…因みに値段もデラックスである。
この場所は駅前に新しく出来たパンケーキ屋でそのメニューの豊富さからか近隣だけで無く、広域の女子中高生の話題になっている。
とは言っても俺も美鈴が話しているのを聞き齧んだだけだが…。その中でもひときは話題になっているのがこのパンケーキだ。
全体に生クリームが大量に乗っているのを観ると食べる前から胸焼けがしてくる。
「君達、昼飯食べた後なのに、食い切れるのか〜?」
「甘い物は別腹だから…ね。」
美波は確かに甘い物が大好物だ。イチゴにも練乳をたらふく掛けているし、なんならチョコとかにも掛けている。
「そうですよ、お兄さん。女の子にとってはデザートが寧ろ食事なんですから。」
栞ちゃんも同調しているが、何を言っているのか分からない。どう考えたって、普通の飯の方が良いだろう。
(…そりゃ、俺だって甘いのが嫌いでは無いが…。)
「それじゃ、頂きます!!…う〜ん♪甘くて美味しい。」
「本当だ。何だろ、このクリーム?普通の生クリームじゃ無いのかな?」
「そんな大袈裟な……、…マジだ、想像していた以上に美味い!」
口当たりがべったりしておらず、むしろ爽やかすらある。パンケーキとの相性も抜群だ。噂になっているのはメニューの豊富さだけでは無いって事か。
「これならいくらでも食べれちゃうよ〜。」
美波はこの世の幸せの様に食しているが、口元にクリームを付けていた。
「ほら美波、顔をこっちに向けろ。クリーム取ってやるから。」
「恥ずかしからいいよ…、自分で拭くから…。」
そう言うと、俺からナプキンを取り、おもむろに拭き出す。
「いつまでも子供じゃ無いんだから…。」
「そんな事を言うな。俺にとっては可愛い妹だよ。」
「そういうの良いから…。」
恥ずかしかったのか、顔を紅くして俯く。いつまでも変わらないなと思う。
「……。」
気づくと栞ちゃんがじーっと無言でこの状況を見つめていた。
そして、何かを思い付いたのかパンケーキのクリームを一匙掬うと、口元にくっつけ始めた。
「ね〜♪私も口にクリーム、付いちゃいました!取ってくれませんか〜?」
おもむろに顔をこちらに寄せる。銀髪美少女の顔面が俺の視界いっぱいに映し出された。
「ちょっと!栞ちゃん、何してるの!」
「だっと口にクリームが…。」
「さっき自分でわざと付けてたでしょ!」
「そんな事は無いですよ〜。」
あくまで白を切るつもりらしい。流石に妹ならまだしも、その女友達となると些か如何なものだろう。
「もう、誂わないの栞ちゃん。お兄ちゃんはただでさえ女子に耐性が無いんだから…。ほら、こっちに顔向ける。」
助け舟を出した美波が、さっき使ったナプキンで口元を拭う。
「ごめんごめん。お兄さんの反応が面白くて…つい。」
ペコリと頭を下げる。まったく心臓に悪い。
「つい…じゃないよ、気を付けなさいよ。そういう態度が男の子達を勘違いさせてしまうんだから。」
「はーい。…じゃあ、お兄さんだけにやりますね!」
また、…この子は…。本当に美鈴にそっくりだな。あいつとの経験が無かったら、流石の俺も勘違いしてしまうところだ。
「取り敢えず、残りを食べようか。」
俺達はまだまだそびえる巨大なパンケーキに手を付けた。
「ふ〜、食べたね〜。お腹いっぱい。」
「私も〜。2人じゃやっぱり厳しかったね。お兄さんがいて良かった。」
「ああ…。」
こうは言ってはいるが結局、食べた量でいえば俺が一番少ない。
甘い物を前にした女の子達の恐ろしさを改めて認識する事になるとは…。
「でも、美味しかったね。お兄さん、本当にお代良いんですか?」
「いいのいいの。気にしないで〜。」
「流石お兄ちゃん!愛してる!」
「はいはい。それじゃ行こうか。」
それにしてもこんなに甘い物を摂取したのは初めての経験だ。偶には良いかもしれない…、でも…。
「5200円になります。」
財布には辛いんだよな…。
外に出ると、入った時と比べて人通りが多くなっていた。
駅前で夕方に差し替かるというのもあるのだろう、土曜日なら会社からの帰宅か下校帰りかもしれない。
「ちょっと珈琲でも買ってくるけど、2人は?」
「私は大丈夫です。」
「私もいいや〜。」
「じゃあ、ここで少し待ってて。」
そう言い残すと2人を置いて、ちょっと離れた自動販売機まで走る。
「ふ〜、口の中が甘すぎる。2人は平気なんだろうか…。せっかくだし、2人のお茶でも買っていこう。」
その判断が命取りだった。俺は後ろから来た気配にまったく気づかないでいたのだ。突如、視界が暗闇に覆われる。
「だ〜れだ♪」




