第18話 美少女との名前を呼び合うのは少し恥ずかしい。
「反応無しか…。」
ベッドの上で携帯のメッセージを観てうなだれる。結局、あの後、平泉先輩と別れ、倉瀬を追ったは良いものの、見失ってしまった。
「既読スルーしているって事は観てはいるんだよな…。」
まったく…面倒をかけやがって…。いったい、どうして急に帰ったんだあいつ。
「平泉先輩にも微妙な顔をされるし…踏んだり蹴ったりだな。」
考えても仕方なし。明日にでも本人に直接聴いてみるか…。
「お兄ちゃん!晩御飯出来たよ!」
「ああ、今行くよ…。」
「やぁ、倉瀬、お早う。」
登校して早々、爽やかに倉瀬に挨拶を交わす。
「…ナンパ野郎さん…お早う御座います。」
(良かった…。機嫌が直ったようだ。一安心一安心…。ん?ナンパ野郎?)
「もしかして、そのナンパ野郎というのは俺の事か?」
「それ意外に誰がいますか?」
「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ。俺程誠実な人間は居ないと自負していたんだかな。」
「では、それは勘違いだったみたいですね。会ったばかりの先輩の事を下の名前で呼ぶくらいですもんね。女性なら誰でも良いんでしょ、この獣!」
教室がざわざわとし始める。これは…まずい!このまま暴走させると、俺の心象が非常に良くない事に…!
「まぁ、落ち着けよ倉瀬…。何か勘違いをしているぞお前。確かに馴れ馴れしいとは思ったけど、断じてお前の想像しているものではなくてだな…。弾みと言うか何と言うか…。そもそも、お前ともそんなに会ったの変わらないし…。」
「……私の事は苗字で呼ぶ癖に…。」
倉瀬の潤んだ瞳に自分が映し出されると、罪悪感が湧き出てしまう。
「…あの時はお前に一矢報いたくてな…。ほら、お前って、ことある事に名前で呼べって言ってただろ?それでつい…。」
挑発するつもりとはいえ、ここまで深刻な事だったなんて、…反省。
「ふん!…別に良いですよーだ!秋元さんにとって私はその程度の存在だったってだけですから。ぜーんぜん気にしてなんていませんよ。ええ、これっぽちも。」
倉瀬はそっぽを向いてしまった。
(いやいや、めちゃめちゃ気にしてるじゃん…。)
どうしたもんか…。流石にこのままにしておくのも忍びない…。
「分かったよ、謝るから…。別にお前と仲良くなりたくない訳じゃないからさ。機嫌直してくれないか?」
構わず、そっぽを向く倉瀬。
「お願い!何でも言う事を聴くからさ。この通り。」
手を合わせ、赦しを請う。
(これじゃあまるで俺が浮気して謝っている様に見えないか……?)
頭に浮かぶ疑問も恥も、今は邪魔になるだけだ。
「…赦すも何も…秋元さんは悪い事してませんし…。そもそも私の方が勝手に拗ねただけですし…。」
俺の態度が罪悪感にフィットしたのか、さっきまでと違い、たじたじになる倉瀬。
(押すならここだろう…。)
「いや、お前の気持ちを考えなかった俺にも責任がある。赦される為なら何だってするさ。」
「う〜、胸が痛いです。…少し誂おうとしただけなのに…。」
何かぶつぶつ言っているが、声が小さくて聞き取れない。
「もう!分かりました!お互い悪かったと言う事で手打ちにしましょう。それで良いですね!」
「俺はそれで構わないが…。意外だな、お願いと称して無理難題を言われるとばかり……。」
「私を何だと思ってるんですか!!そんな恥知らずじゃありませんよ!」
…これはツッコミ待ちなのかな?
「面だけは良い女だと思ってるよ。」
「何ですって!さっき言った事は撤回します。もう知りません!」
「はは、ごめんごめん。ちゃんと反省してるよ。」
うまく仲直り出来たようだな。
「なら良いですけど……。いや、待って下さい…。」
一転、倉瀬は神妙な顔付きに変わる。
「すいません。やっぱり一つお願いがあります。」
「お、なんだなんだ?言ってみろ。」
「そ、そのですね…。」
急にもじもじし出す倉瀬。
(なんだ、なんかとんでもない事でも言うつもりか?)
「わ、私の事も下の名前で呼んでくれませんか?」
「え、それだけ?」
つい、口から漏れる。
「だってだって、清香先輩の事は名前で呼んでるんですよね。だったら私だって呼ばれる権利はあるはずですよね。」
グイグイと迫ってくる。驚いたのはそこじゃないんだけどな…。
「いや、それは別に構わないんだけどさ。何でそんなに恥ずかしがってるのかなって。」
「そもそもいつも呼ぶ呼ぶ五月蝿いのはそっちじゃないか。」
俺は率直に疑問を投げかけた。
「あれは冗談と言うか。秋元さんの事だから、どうせ言わないだろうと踏んでの事です…。だから、今のは本当のお願いです。」
恥ずかしながらも眼差しは真剣そのもの。まぁ、正直今更ではあるが…。
「分かったよ。これからは名前で呼んでやるよ。…美鈴。」
「……!うん、宜しくね、浩志くん。へへ、呼んじゃった。」
嬉しそうに顔をほころばせる美鈴。こういうところ、シンプルにズルイと思う。可愛過ぎて辛い。
一段と輝く笑顔に俺はどこまで耐えられるだろうか…。
「何か改まるとこそばゆいな。」
「ふふ、そうですね。でも変更は効きませんよ!」
読んでくださりありがとうございます。二人の距離が少しだけ近づいた(?)回でした。次回更新は明日の18時です。少しでも「いいな」と思ったら、評価やブクマで応援していただけると本当に嬉しいです!




