第15話 風紀委員には逆らわない方が身の為だ。
「ち、違うんです!誤解です!!」
入ってきた女子生徒は冷ややかな眼で俺達を見つめている。丸で汚物でも観るかの様だ。
「誤解?何がですか?私は間違っていないとおもいますが。」
威風堂々たる佇まいは恐らくだが、上級生であろう。その言葉には軽蔑の二文字が浮かんでいた。
「絶対勘違いしてます!話を聴いて下さい!」
それでも俺は無罪を突き通す。それしか出来ない。
「…はー。では、弁明をどうぞ。」
「まず、これは不可抗力だと言う事を先に断わって置きます。」
「不可抗力ねー。」
「そうです。Gが出たんです。それも大きい奴が。今、貴方が考えている奴よりも二周りはデカイのが。」
勿論、そんなに大きくはない。家庭でよく観るサイズだ。だが、話を盛っておいて損は無いだろう。
「それで?」
「こいつ…この娘がですね。それに驚いてしまって。こっちに突っ込んできたんですよ。それで縺れてこうなったって訳です。」
全く嘘は言っていない。全て事実に則っている。
だが、その瞳は数分前と一切の違いを感じさせない。
「都合良く、ご…虫が出て、都合良く、その体勢になった、そう言いたい訳ですねあなたは。」
「そうです!」
「嘘も休み休み言いなさい。誰がそんな言い訳を信じると。この空き教室でいかがわしい事をしていたんでしょう。はしたない!」
「だからしてませんよ!入学したまだ二日目ですよ。それでそんな事してたら頭がおかしいでしょう。倉瀬も何か言ってやれよ!」
「う〜ん。それもやぶさかじゃないですけどね。」
「お、おい!こんな時に冗談を言うんじゃない!マジだと思われるじゃないか!」
先輩の眼がさらに冷たくなっていくのを肌で感じた。最早、この人の中の俺の心象は最低レベル、道草の犬の糞程度のものになっていることだろう。
「そもそも、何時までその体勢でいるんですか?いい加減男女がそんな密着するのは辞めなさい!」
「そ、そうだ、先輩の言う通りだ。早く俺から離れるんだ。そうすれば…、きっと…。」
「そ、それがですね。あまりに驚き過ぎたもので、こ、腰が抜けてしまって動けないんですよ。どうしましょう…。」
「な、なに!…分かった。ちょっとずつでも良い少しだけ動けるか?」
取り敢えず、この体勢だけ変えれば先輩の溜飲も少しは下がる筈だ。
「ちょっと待って下さい。うんしょ、よし、こうやって、少しずつズレていけば…。」
「ストップだ、倉瀬。ステイ。」
「…?大丈夫ですよ秋元さん。この動きなら…。」
「いや、俺が大丈夫じゃない。」
「何変な事を言ってるんですか。」
「頼む!一生のお願い!そのまま動かないでくれ。」
「…そんなにこのままが良いんですか?しょうがないですね。」
紳士としての俺の願いが届いたのか、倉瀬は頼みを譲歩してくれる。一安心だ。
「………。」
まぁ、その代わり、さらに先輩が冷たくなっていくがな。
「私が居るのに弁えもせずにそのいちゃつき様…。あっぱれですよ最早。」
「いちゃついて無いわ!」
「取り敢えず、この件は私の預かりとさせて頂けます。二人共、学年は一年生でしたね。クラスと名前を名乗りなさい。」
淡々とした口調で俺達の個人情報を聞き出すこの女に段々とむかつきが湧いてくる。仮に、仮にだ、俺が倉瀬とその、空き教室でイチャついていたとしてだ。この人に何の関係があるっていうんだ。
(下手に出ていれば!)
あまり大事にすれば、この事が噂にでもなればどうなる。入学二日目にしてBADEND確定。発情野郎として学年、いや、学校の笑いものになるだろう。
しかも、相手が倉瀬なら尚更だ。こいつは面だけは良いからな。男子達から恨まれ、女子達からはこの人の様な眼で見下される。それは俺も本望では無い。
しかし!俺にもプライドがある。これ程の仕打ちを受け、黙って引き下がる程、俺は頭の良い人間ではないのだ!
(黙って聴いていれば好き勝手言いやがって!言い返してやるよ!)
「大体さ、仮に俺達がいかがわしい事をしていたとしよう。でもそれ教員でも無い貴方に関係があるの?」
散々言い放題にされたストレスからか、喧嘩腰に物申してしまう。これでは唯の口喧嘩だ。
「倉瀬の事も好き勝手に言いやがってよ?コイツを悪く言うのは辞めてくれないです?」
「秋元さん…!」
先輩はじっと俺達を観ると深く溜息をし、ポケットから何かを取り出して、袖に通した。
「まずは自分から自己紹介するべきでしたね。私の名前は平泉清香。クラスは二年三組で風紀委員に所属しています。」
腕に掲げられているのは風紀委員の二文字。それが意味するのは…ふっ、言うまでもないないだろう。
「調子に乗ってすいませんでした!!」
俺は深々と頭を下げた。人様の前で頭を下げるなんて小学校の夏休みの宿題を忘れた時以来の経験だ。
「えっ!!カッコ悪!」
あまりの変わり身の早さに倉瀬は声を張り上げた。
「五月蝿い!まさか風紀委員が出張るなんて思わないだろう!この人は権力を持っている側の人間だ。逆らう事はするな。」
「ときめいた私が馬鹿でしたよ!」
「二人共、静粛に。」
「はい」
その後、俺達は平泉先輩にクラスと名前を言い、何とか誤解を解いたのだった。
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