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第14話 美少女に頼られるのは大変だ。

 「ふふ〜ん♪」


 「やけに機嫌が良いな。そんなに部屋の掃除が楽しいか?」


 倉瀬は鼻歌を歌いながら、雑巾で窓を拭いていた。


 「それはそうですよ!だって、この部室が貰えるんですよ。やる気だって出ます!」


 「確かにな。でも、部室だけ貰ってもしょうがなくない?まだ、何やるか決めてないだろ?」


 「そんなの後から考えれば良いんですよ。活動場所さえ手に入れればこっちのものです。」


 「意外と姑息なんだな…。」


 白山の話では、元の文芸部は去年に廃部になったという話だ。部員不足による廃部、いくらこの学校が生徒数が多いと言っても限りがある。部活が強制されている訳ではないから、さらに減るだろう。その中であえて文芸部を選ぶコアな人間は恐らく少ない。


 「お前、ちゃんと話を聴いてたのか?」


 「…?ええ、勿論。」


 本当か〜?…まぁ、それは後で良いか。


 「それにしても埃が凄いな。こことか蜘蛛の巣張ってるぞ。」


 「頑張って綺麗にしましょうね。きゃっ!!」


 突如、倉瀬が大声を上げた。


 「どうした?面白そうな物でもあったか?」 


 気にせず掃除を続けようとしたが、あまりに驚いているのが気になり、手を止めて振り返える…が、

突然、ドンと胸に倉瀬が飛び越んで来た。


 「ど、どうしたんだよ。急に!!」


 パニック!こういう時はどうすれば良いんだ!!学校で習っていないぞ!取り敢えず落ち着くんだ。深呼吸深呼吸。…というか前にもこんな事があったような気が…。


 「だ、黙っていても分からないぞ!どうしたんだ?」


 「あ、あそこ!隅に、から、出てくる!」


 「一端落ち付け!何を言っているか分からないぞ。」


 落ち着くのは俺もだ。心臓がバクバクしていて鼓動が自分でも聞き取れるくらいだからな…。


 「ご、ご、ご!」


 倉瀬は口をパクパクさせながら何かを伝えようと涙を浮かべながら訴える。


 「ご?…あっ、ok。皆まで言わなくて宜しい。」


 (このようなシチュエーションではお決まりのヤツの出番か…。)


 正直なところ…俺はあまり虫とかそういう類いの物は得意ではない。小学生の時は平気だったが、年を重ねるに従い、段々と拒否反応が強くなっていった。今だって対峙するのは御免被りたいが…。


 「う〜。何とかして下さい…。」


 必死に俺の腕にしがみついている倉瀬を観たら、そうも言っては要られない。


 「分かったから腕を強く掴むな…。で、何処で見たって?」


 「そこです!ロッカーのとこ!」


 半べそをかきながら指を差したのは、入口からもっとも離れたロッカーの角。窓も閉まっている。つまりはこの部屋から出るにはこちら側に来るしかない。

 逆に言うと、ある意味で俺達はこいつを追い詰めている状態になる。


 「倉瀬、此処で待っていてくれ。そして…俺の勇姿を見届けて、後世まで語り継いでくれ。」


 こくんと頷くの見てから、ゆっくりと件のロッカーに向かう。

 ゆっくりゆっくりと亀の様に歩き、然し確実にロッカーへと近づく。息を殺し、周りの空間に同調する。中学の時、教室でよくやっていた事だ。慣れている。


 敵に動きは無い。倉瀬が見間違えなければ、必ず此処にヤツはいる。

ロッカーを射程に捉える。ロッカーから三歩手前の位置だ。ここからなら相手がどんな行動を取ったとしても一呼吸の内に捉える事が出来るだろう。


 …勿論、理論上の話でだが…。いきなり飛び出してくる虫(しかもG!!)に対して俺が正確に動けるかは保証はしない。


 暫しの間待機。敵の動きを見るのだ…。……中々、動きが無いな…。まさか別の場所に移動したのか?


 「どうですか秋元さん?見つかりました?」

 

 か細く消え入りそうな声で恐る恐る倉瀬が尋ねる。近づけ無い為、背伸びしながら覗き込んでいた。


 「あ、あぁ…今のところは動きは無いな…。ちょっとこちらからアクションを取ってみよう。」


 俺は間合いをさらに縮める。二歩、一歩、いつ、ヤツが飛び出して来るか分からない。常に気を張り、反応速度を最大にする様に脳に働き掛けた。


 (ロッカーの前まで来ても、変わらず反応は無いかぁ…。しょうがない!)


 ガンッ!軽くロッカーを蹴る。流石に動きがあるだろう…。

 ところが、それでも何もない。


 「おい、やっぱり見間違えじゃないか?出てこないぞ。」


 「そんな訳ないです!しっかりこのお目目で確認しました。私、視力2.0あるんですから。」


 「そうは言ってもいないものはしょうがないだろ。…ん?」 


 気付いたのはロッカーの奥。少しスペースがあった。そしてそれは横に続いている様に見えるが、何処まで繋がっているのだろう。


 分かりやすく言うと、ロッカーからぐるっと半周してドアの直ぐ近くまで繋がっているのなら…あるいは…。


 瞬間、俺は振り返った。倉瀬は相変わらず心配そうな眼で見つめている。

 だが、俺の眼に入ったのはその真横。黒い何かが側に居た。


 「倉瀬、そこからゆっくりとこっちに来れるか?」


 「はい?」


 言うのが遅かった。俺の視線の動きを追って倉瀬は振り返える。勿論、そこにはヤツが元気良く挨拶を交わす。


 「きゃー!!!」


 聴いた事無い悲鳴が教室を越えて部室棟全体に木霊した。


 「助けてください!!」  

 

 「落ち着け!うぁ!」


 一心不乱にこちらに飛び越んでくる倉瀬を俺は受け止め切れず倒れ込み、のしかかられる。


  バタバタとこちらに走ってくる足音が床からの振動で良く分かった。非常に不味い!!


 ガラガラと勢い良く開くドア。開けたのは女生徒だ。


 「大丈夫ですか!!……えっ。」



  絶対不味い!!誤解されている!!




 

 

 


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