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第10話 かくして、美少女との青春は幕を開けた。

 「お前なそんな事、素面でよく言えるよな…。」


 「お、褒めてますか?嬉しいなぁ。」


 別に褒めてはいないが…こいつがその気になったのならいいか…。


 「そんなに言うなら考えてやってもいい…。但し、こちらからも条件がある。」


 「ほうほう、してその条件とは?」


 勝機ありと判断したのか、さらに前のめりになる倉瀬。

  

 「いいか良く聞けよ。今後お前は必要以上に俺に関わるのを辞める事。いいな、これが条件だ。これを飲んでくれるなら、部活の件を考えてやる。」


 いい機械だと思ったのは事実だ。この条件を提示すれば、引き下がるか…よしんば飲んだとしても今、俺が置かれている状況を看破できる。


 (ふふ…我ながら完璧な作戦だな…。)


 自画自賛して悦に浸っていると、倉瀬がやけに不思議そうな表情をしているのに気がついた。


 「どうした?何か不服なところでもあったのか。悪いがこれ以上は譲歩は出来ないぞ。これを飲めないんなら、この話は無しだ。」


 だが、美鈴の顔は変わらない。どうやら俺が思っている事とは別の事を考えているようだった。

 そして、その疑問を直球に投げかけてきた。


 「一つ質問良いですか?誘っている私が言うのも変な事なんですが…、何故、断わらないんですか?」


 「本当に変な事を言うな…。強引に勧誘したのはお前だろ…。不思議がる意味が分からない。」


 「いや、てっきりもっと反発されるとばかり…昨日出会って間もないので、詳しい事は言えませんが…秋元さんって、わざと一人になろうとしてませんか?」


 (…見透かされていたのだ。初めから。昨日あったばかりの人間に…。)


 ショックだった…。見透かされた事ではない…。いや、それもだが…。それよりもそをんなに簡単に見透かされる程だという事にだ。

 自分はその程度の人間なのだと…。喉元にナイフを…倉瀬に突き付けられたのだ。


 息が苦しい。心臓がバクバクしている…。体温が高くなるのが身体全体で認識できた。呼吸をするタイミングすらも…測るのが難しい。


 「どうしました?秋元さん?」


 倉瀬の声で意識を戻す。


 (あれ、今何してるんだっけ…?そうだ、登校中だ…。それで、倉瀬と一緒?にで、言われただ。俺の心を…。)


 軽い意識の混濁を経て、再び、この世界に戻る。状況は何一つ変わってはいない。


 「…すいません。不味い事を聞いてしまいましたね。…忘れて下さい。」


 倉瀬の申し訳無さそうな顔が目に焼き付く。暗く静かに沈んでいくのが…。


(違うんだよ。お前は悪くないんだ…。悪いのは俺なんだ…。俺の心が弱いから…。)


 否定しようにも、言葉が出ない。空気が口の中に無い感覚だ。なんて情けないやつなんだ。


 ガタン、と大きさな音が鳴る。どうやら車両が急カーブを曲がったらしい。不意打ちだったもので、倉瀬も俺も少し声が出た。お互いに顔を見合わした。


 「……ふふ、変な声。」

 

 先に笑ったのは倉瀬だ。先程が嘘の様な自然で綺麗な笑い声。


 「……はは、お前だって同じだろ?変だったぞだいぶ。」


 後に俺も続く。今はもう心も落ちついている。お互いに笑い合う。それだけだ。ただ、それだけなのだ。


 「は〜、何だかどうでも良くなってきたわ…。」


 俺は大きく息を吐き出す。今は気分が良い。丸で風呂上がりの様だ。


 「さっきの話さ、俺からの条件の事、忘れていいよ。」

 

 「えっ、いいんですか?」


 倉瀬は素っ頓狂な声を上げる。少し間抜けだ。


 「ああ、大丈夫だ。お前の勧誘に全面的に乗ってやるよ。」


 「本当ですか?やったー!!これで夢に一歩近づきました。有難うございます秋元さん。」


 手を万歳して喜びを身体全体で表す。こいつは電車の中だという事を忘れているらしい。


 (礼を言うのは、こっちの方…と言っても分からないか…。)


 醜く汚れた自分の心の中から、微かに残っていた光を掬い上げられた気分だ。こんな事を言っても、きっとこいつには理解出来ないだろう…。


 「それで、部活っていうのはどんなのを考えているんだ。」


 「……はい?…え〜と、ですね。それは、その…」

 

 …?、何だか歯切れが悪いな。そんなに言い難い事なのか…。それとも口で説明するのが難しい系だとか…。


 「勿体ぶるなよ。お前の肝いりの企画な訳だろ。俺だって参加するんだから、概要くらい頭に入れておく義務がある筈だ。」


 「…怒らないですか?」


 「怒られる事を言うつもりなのか…。大丈夫だよ。怒らないから言ってみな。文化部なのか、それとも運動部か?」


 俺は優しく倉瀬を諭す。そもそも、どんな部活だってちゃんとした活動だ。否定する要素なんてある訳ない。

 

 「本当に本当に怒らないですね。…実は、その部活をやろうと決めたものの…。考えが纏まらなかったんです。つまり、具体的には…何も…。」


 訂正。それ以下だった。頭が真っ白になり、呆れてものもいえない。


 「お前!!…良くそれで勧誘出来たな。びっくりするわ。数分前のやり取りを思い出してみろ!!それでなんであんな自信満々に出来るんだ!!」


 場所も弁えず、俺は声を張り上げた。そんな物気にしてなんていられない。


 「怒らないって言ったじゃないですか!!私だって考えようとしたけど思い付かなかったんですよ。最終的に友達と一緒に決めようって!!」


 「え〜い、口答えをするな。このあんぽんたんめ。決めた!!さっきのは破棄させて貰う。貴方とはもうやっていけません。他の人とどうぞ、私は実家に帰らせて頂きます。」


 「あ〜待って下さい!!考えますから。行かないで!私を捨てないで下さい!」


 「こら、誤解されるだろ!!」


 皆の視線が俺達に注がれる。今、分かった。こいつ、ポンコツちゃんだ。真面目に話を聞いた俺が馬鹿だったのだ。


 「う〜、秋元さんに捨てられる〜。」


 「は〜、もう分かったよ。怒って悪かった。二人で決めよう。何かやりたい事はないか?」


 こうなれば、潔く腹を括ろう。これからこいつとやっていくにはこんな事で一々躓いてはいられない!!


 「う〜ん…何か青春っぽい事。」


 「すげ〜、アバウトな解答ありがとう…。それに免じて俺からアドバイスを少々。一応聴いておこうと思うんだけど、新しく部活を設立するにあたっての手続きとかは…。」


 「当然、分からないです♪」


 まったく、俺はこいつとやって行けるのだろうか…。

 青春ね〜。無縁だと思っていたが…もう少しだけ…、後少しだけ…、頑張ってみても良いかもしれない…。



 

 


一先ず、キリの良い10話までこれました。ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございます。

明日以降も毎日、18時更新を続けていきますので、続きが気になる方、面白いと思った方は、

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