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墓地ロック 〜異世界の鎮魂歌がクソだったので、底辺墓守の俺は爆音ライブで魂を救う〜  作者: Kururi


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第6話:神は残業代を払わない。だから俺は、社畜と聖女に定時退社(エスケープ)を宣言する

夜の墓場。

今夜の第4墓地には、異様な光景が広がっていた。


「す、すみません……ポーションの納品、明日の朝までには必ず……」

「見積書の再提出、急ぎます……どうか、お許しを……」


死んでいるのに。青白い半透明の体になっているのに。

彼らは何もない虚空に向かって、ペコペコと頭を下げ続けていた。


王都の悪徳ギルドで、過労の末に倒れた職人や商人たちの霊だ。

死してなお「納期」と「上司への恐怖」に縛られ、墓場でも架空の書類をめくり続けている。


その光景を、崩れた墓石の陰から見つめる者がいた。

全身を黒いローブで隠した、教会のトップである『聖女』セシリアだ。


(……哀れな魂。死してなお、自らを縛る鎖から逃れられないのね)


セシリアは胸を痛めると同時に、強烈な同族嫌悪を感じていた。


毎日、朝から晩まで信者のために祈り、笑顔を振りまき、教会の広告塔として自由を奪われる日々。

少しでも休めば「聖女としての自覚が足りない」と上層部に責められる。


あの死者たちは、私だ。

生きているか、死んでいるかの違いしかない。


「――おい!! なんで死んでまでペコペコ頭下げてんだ!!」


闇を切り裂く、怒声。


棺桶の上に立ち、ギターを構えたヒデが、社畜の霊たちを真っ直ぐに睨みつけていた。


「て、定時までに終わらせないと……ギルドマスターに怒られる……」

「うるせぇ!! てめぇらの命の納期デッドラインはもう終わってんだよ!!」


ヒデが喉を裂かんばかりの勢いで叫ぶ。


「お前らが血反吐吐いて作った利益で、上司は美味い飯食ってんだろ! 命削って尽くしたのに、そいつらは今、お前らの墓の前で泣いてくれてんのか!?」


社畜の霊たちの手が、ピタリと止まる。


「違うだろ! 代わりはいくらでもいるって、別の奴をこき使ってるだけだろうが!! だったらもう、誰かのために頭下げるのはやめろォ!!」


そのヒデの言葉は、霊たちだけでなく――

物陰に隠れていたセシリアの心臓をも、鋭く貫いた。



(そうだわ……私が過労で倒れても、教会は『次の聖女』を立てるだけ……誰も、私自身を見てなんかくれない……!)


忘れたはずの記憶が蘇る。


「セシリア」

昔はみんな、そう呼んでくれていた。

好きな本。好きな花。好きな歌。


「――そこの黒服!! お前もだ!!」


ヒデが、客席の端で震えているセシリアを指差した。

セシリアの肩がビクッと跳ねる。


でも、聖女になってから。

「聖女様」「聖女様」「聖女様」

誰も、私の名前を呼ばなくなった。

私が何を好きなのか。何が嫌いなのか。


「生きてるくせに、死んだような息してんじゃねえ!」


ヒデの怒声が、夜風を切り裂く。

セシリアは息を呑んだ。


求められるのは、完璧な聖女だけ。

失敗しない聖女。疲れない聖女。泣かない聖女。

気づけば、私自身がどんな人間だったのか、わからなくなっていたのに。


「その窮屈な常識! お前を縛り付けるクソみたいな上司システム! 全部、俺の爆音でぶち壊してやる!!」


「あ……ああ……ッ」


セシリアの目から、せき止めていた涙が溢れ出した。

ずっと「完璧な聖女」でいるために殺してきた自分自身の感情が、見ず知らずの悪魔の言葉で、激しく脈打ち始めていた。


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