第2話 Bloody First Love 届かぬ思い
深夜の第4墓地。
月明かりも届かない墓場で、
ヒデは棺桶の上へ足を乗せた。
目の前には、
青白い幽霊たち。
誰も喋らない。
だが全員、
今か今かと待っている。
「……今日は客入りいいな」
ヒデは満足そうに笑った。
最前列には、
昼間に泣いていた少女の霊――イザベラ。
まだ不安そうな顔をしている。
ヒデはギターを肩に掛けたまま、
彼女を指差した。
「おい新顔」
ビクッと少女の肩が震える。
「お前、恋もできずに死んだんだろ?」
イザベラは俯き、小さく頷いた。
「……だったら今その胸にあるモン、なんだと思う?」
「え……?」
「その苦しくて、どうしようもなくて、泣きたくなる感情だよ」
ヒデは鼻で笑う。
「それが恋だろうが」
少女の目が大きく見開かれる。
「綺麗なお茶会して、手ぇ繋いで赤面して、それだけが恋愛だと思ってんのか?」
ヒデはギターのネックを天へ突き上げた。
「違ぇよ!!」
怒声が墓場を揺らす。
「胸が痛くて! 相手のことばっか考えて! 自分の無力さに潰されそうになる!」
「それが恋だ!!」
イザベラの瞳から、
血の涙がこぼれ落ちた。
「あ……あぁ……」
「お前はもう知ってんだよ」
ヒデはニヤリと笑う。
「だったら、その未練――全部吐き出せ」
ジャーン!!
爆音が夜を引き裂いた。
「聴いてくれェ!!」
ヒデが絶叫する。
「『初恋-Bloody First Love』!!」
――ギュイイイイイイイン!!
歪みきったギター。
地面を震わせる重低音。
幽霊たちが一斉に顔を上げた。
『お前の横顔見た瞬間に!!』
『俺の世界は爆散したァァァ!!』
「ウォオオオオオ!!」
墓場が揺れる。
幽霊たちが熱狂し始めた。
ヒデは狂ったようにヘドバンしながら叫ぶ。
『既読ひとつで天国!!』
『未読三日で地獄!!』
この世界の者は意味は分からない。
だが。
“返事を待ち続ける地獄”だけは、
魂に突き刺さった。
「おおおおおおっ!!」
幽霊たちが咆哮する。
イザベラはもう泣いていなかった。
未練を爆音へ変え、
狂ったように頭を振っている。
ヒデはさらに叫ぶ。
『この感情はァ!!』
ズンッ!!
『既読ォ!!』
ジャァァン!!
『未読ォ!!』
ズンッ!!
『一喜一憂ォォォォ!!』
墓地の幽霊たち
「ウォオオオオオ!!」
音の衝撃で墓石が割れた。
イザベラは血の涙を撒き散らしながら、
笑っていた。
未練を叫びへ変え、
拳を突き上げる。
「ああああああっ!!」
そして。
イザベラは満面の笑みを浮かべながら、
光の粒となって夜空へ消えていく。
「……あ」
最後に残ったのは、
救われたような顔だった。
⸻
一方。
崩れた墓石の陰では、
一人の少女が震えていた。
白銀の髪。
純白の法衣。
教会最高位の聖女――セシリア。
(な、なにあれ……!?)
理解できない。
理解してはいけない。
教会の鎮魂歌は、
静かに祈りを捧げる神聖なもの。
なのにあの男は。
墓場で叫び。
爆音を鳴らし。
死者をヘドバンさせている。
完全な異端。
悪魔の儀式。
それなのに。
(どうして……)
セシリアの瞳が揺れる。
死者たちは笑っていた。
教会では一度も見たことがないほど、
楽しそうに。
「アンコール!!」
「もっと叫べ悪魔ァ!!」
幽霊たちの歓声が響く。
セシリアの胸が、
ドクンと高鳴った。
(だ、ダメ……)
こんなの認めてはいけない。
なのに。
目が離せない。
心臓が熱い。
ヒデが汗だくのまま、
ギターを天へ突き上げる。
その姿が――
「……かっこいい……」
気づけば、
言葉が漏れていた。
その瞬間。
異世界初の熱狂的バンギャが誕生した。




