第1話:この世界の音楽、終わってる
「うるせぇぇぇぇ!!」
深夜の第4墓地に、絶叫が響いた。
棺桶の上でヘドバンしていた黒服の男――ヒデは、マイクスタンド代わりの木の枝を墓石へ叩きつける。
「そんな湿っぽい歌で成仏できるかァ!!」
すると。
さっきまで「うらめしやぁ……」と呻いていた幽霊たちが、一斉にペンライト代わりの青白い火を振り始めた。
「ウォオオオオオ!!」
「アンコール!!」
「もっと叫べ悪魔ァ!!」
墓場とは思えない熱狂。
地鳴りみたいな歓声。
ヒデは口元をニヤリと歪め、ギターをかき鳴らす。
――ギュイイイイイイン!!
爆音が夜を引き裂いた。
⸻
数時間前。
「おい底辺! こっち寄るな、死臭がうつる!」
「……はいはい」
王都外れの共同墓地。
昼間のヒデは、薄汚れた作業服で土を掘るだけの下級墓守だった。
給料は銅貨数枚。
風呂なし。
友達なし。
ついでに職場環境は最悪。
「ったく、陰気な野郎だ」
先輩墓守が吐き捨てる。
「ほら見ろ。聖歌隊の皆様がお通りだぞ」
遠くから、白装束の聖職者たちが現れる。
厳かな鎮魂歌。
……だが。
(遅ぇ)
ヒデはうんざりした顔で空を見上げた。
(暗ぇ)
(眠くなる)
(サビどこだよ)
この世界の音楽は終わっていた。
みんな、葬式みたいなテンポの曲をありがたがって聴いている。
感情を爆発させる奴が誰もいない。
「……ロックが足りねぇんだよ」
前世。
ヒデは売れないヴィジュアル系バンドマンだった。
ライブハウスはいつもガラガラ。
最後はボロアパートで孤独死。
だが――
「まあ、今の方が客入りはいいか」
ヒデは掘り終えた墓の前にしゃがみ込む。
墓石にはこう刻まれていた。
『イザベラ 享年16』
そして。
その墓石の前で、青白い少女の幽霊が泣いていた。
「……恋もできずに死んだのか」
ヒデには見えていた。
未練を残した死者たちの姿が。
何を後悔し、
何を叫びたかったのか。
全部。
少女の霊は、自分の胸を押さえながら、静かに涙を流している。
「……くだらねぇ」
ヒデは立ち上がる。
「そんな顔して成仏できるわけねぇだろ」
その夜。
誰もいなくなった第4墓地で。
ヒデは昼間の作業服を脱ぎ捨てた。
黒いレザー。
逆立つ赤髪。
耳には銀色のピアス。
棺桶の上へアンプを置き、ゆっくりとギターケースを開く。
すると。
墓石の陰から。
地面の下から。
青白い幽霊たちが、ぞろぞろと集まり始めた。
全員、
期待に満ちた目でヒデを見ている。
昼間の少女――イザベラもいた。
ヒデはギターを肩へ掛け、
口元を吊り上げる。
「……今日は新顔がいるな」
少女の霊が、不安そうにこちらを見る。
ヒデはニヤリと笑った。
「じゃあ始めるか」
――墓場ライブを。




