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墓地ロック 〜異世界の鎮魂歌がクソだったので、底辺墓守の俺は爆音ライブで魂を救う〜  作者: Kururi


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13/15

第13話:天使の聖歌隊VS魔王ロック・前編 灰色の空にダイブしろ! 夏フェス開幕


「ええい、おのれ悪魔め……!」

教会の最上階。

教皇は机を叩き、顔を真っ赤にしていた。

「墓地で爆音を鳴らし、死者を惑わせ、聖女様まで赤い衣装で叫ばせるとは!」

側近の神官が、おそるおそる口を開く。

「ですが、報告によれば死者の魂は次々と浄化されております」

「黙れ!」

教皇は叫んだ。

「聖女が『浄化上等』などと叫ぶ浄化があってたまるか!」

神官は何も言えなかった。

それはそうだった。

教皇は立ち上がる。

「こうなれば、教会が誇るトップアイドルを送れ!」

「トップアイドル……まさか」

「そうだ」

教皇はにやりと笑った。

「大天使の聖歌隊だ」

同じ頃。

第4墓地。

ヒデは棺桶の上でギターをいじっていた。

その横で、セシリアが教会から届いた通達を読んでいる。

赤いドレス。

黒いマイク。

そしてなぜか、手にはそろばん。

「教会が大天使の聖歌隊を派遣するそうよ」

ヒデが顔をしかめる。

「ああ? 潰しに来るってことか」

「表向きは合同浄化イベントね」

「どう聞いても潰しに来てんだろ」

セシリアはしばらく考えた。

そして、ぱっと顔を上げる。

「これは音楽のフェスティバルね」

「違ぇよ」

「客を入れましょう」

「なんでだよ」

セシリアはにっこり笑った。

「バンド活動費を稼がなくっちゃ♡」

ヒデは固まった。

「聖女が一番俗っぽいんだよ」

「機材は祈っても買えないわ」

そこへレオンがやって来た。

白いドラムスティックを優雅に回している。

「フェスなら、演奏順を決めねばならないな」

ジャスティスも白銀のベースを背負って現れた。

「私は客席の安全管理をしよう。人も霊も、倒れた者を踏んではいけない」

ヒデは全員を見た。

「お前ら、やる気だな?」

セシリアは即答した。

「当然よ」

レオンは微笑む。

「王家としても、野外演奏の経験は貴重だ」

ジャスティスは真顔で言う。

「フェスは戦場だ。だが、守るべき命がある」

ヒデは頭を抱えた。

「勝手にフェスにすんな」

だが、その夜。

第4墓地は完全にフェス会場になっていた。

墓石の間には屋台。

霊廟の前には急造ステージ。

生者と死者が入り混じり、観客たちが拳を上げている。

「焼き鳥いかがっすかー!」

「成仏前の一杯、冷えてますよー!」

「ヒデ様反逆Tシャツ、残りわずかよ!」

物販ブースでは、赤いドレスの上に黒いスタッフTシャツを重ねたセシリアが、札束を数えていた。

「サイズは?」

「Mで!」

「甘いわ。墓地ライブは汗をかく。Lにしなさい」

「聖女様が商売してる……」

「物販よ」

少し離れた場所では、ジャスティスが客列を整えていた。

「押さない! 走らない! 霊体の方は浮きすぎない!」

「勇者様、運営もしてる!」

「安全は大事だ!」

レオンは白いドラムの前に座り、静かにチューニングしている。

見た目は上品だった。

だが目はもう、ほとんど鬼だった。

ヒデは棺桶の上でギターを抱え、低く呟いた。

「勝手にフェスにすんな」

その時、近くの霊が古びたリュートを抱えて近づいてきた。

「あの……開演まで、一曲だけ……」

ヒデは眉をひそめる。

「俺は前座じゃねぇ」

「ですよね……」

霊がしょんぼり下がろうとした瞬間。

ヒデはギターの弦を軽く弾いた。

ギャリン。

霊が振り返る。

ヒデはそっぽを向いたまま言った。

「キー合わせろ。遅れんなよ」

霊の顔がぱっと明るくなる。

「はい!」

次の瞬間。

墓地に軽いセッションが始まった。

ヒデの黒いギター。

霊の古びたリュート。

どこからか骨だけのドラマーが空き缶を叩き、商人の霊が手拍子を入れる。

「おおおお!」

「開演前セッションだ!」

「ヒデが機嫌いいぞ!」

「違ぇ。勝手に始まっただけだ」

ヒデはそう言いながら、誰よりも楽しそうにギターを鳴らしていた。

セシリアは物販ブースからそれを見て、呆れたように笑う。

「口では文句ばかりね」

ジャスティスは客列を整えながら頷いた。

「だが、場を温めている」

レオンはスティックを回す。

「王者とは、開演前から空気を支配するものだ」

ヒデはギターを鳴らしながら叫んだ。

「聞こえてんぞ王子!」

墓地は笑い声と拍手に包まれた。

まだ対バンは始まっていない。

それでも第4墓地は、もう完全にフェスだった。

その時。

夜空から、白い光が降りた。

まるで五人の天使が舞い降りたように。

「さあ、王都の迷える子羊たちよ!」

澄んだ声が墓地に響く。

「僕たちの歌で、その心を洗い流してあげる!」

巨大な霊廟の前に作られたステージへ、純白の衣装をまとった五人組が現れた。

教会が誇るトップアイドル。

大天使の聖歌隊。

「きゃあああああ!!」

観客が沸いた。

生者も死者も関係ない。

顔がいい。

とにかく顔がいい。

セシリアも、物販ブースの奥からペンライトを握りしめていた。

「……顔がいいわ」

ジャスティスが目を丸くする。

「聖女様?」

セシリアは赤いドレスの上にスタッフTシャツを着たまま、真顔でペンライトを振った。

「顔がいいものは、顔がいいのよ」

「理屈が雑です!」

レオンが白いドラムの前で静かに頷く。

「分かる。造形美は罪ではない」

ヒデがギターを抱えたまま吐き捨てる。

「お前ら、敵だって分かってんのか」

「敵でも顔はいいわ」

「そこは認めるのかよ」

ステージ上では、聖歌隊が完璧なフォーメーションで歌い踊り始めた。

『ああ〜♪ 祈りなさい〜 働きなさい〜♪』

『苦しみは〜♪ 喜びへの試練〜♪』

『キミの笑顔は神様のもの〜♪』

軽やかなダンス。

揃ったターン。

キラキラとした笑顔。

圧倒的なアイドルオーラ。

何せ、顔がいい。

観客たちが、ぽわぁ……と陶酔していく。

「ああ……やっぱり働くって素晴らしい……」

「労働こそが、僕らの生きがい……」

「本音なんて、いらないのかもしれない……」

死んだ魚のように、観客の目から光が消え始めた。

ペンライトを振っていたセシリアの手が、ぴたりと止まる。

「……違う」

ジャスティスの白銀ベースが低く鳴った。

「これは、浄化ではない」

レオンの目が細くなる。

「笑顔の形をした檻だな」

聖歌隊のリーダーが、勝ち誇ったように笑った。

「ふふっ、これで終わりだ」

純白の衣装が、月明かりに輝く。

「さあ、魔王ロック。次はあなたたちの番です」

セシリアはペンライトを握りしめたまま、低く呟いた。

「顔はいい」

ヒデが眉を上げる。

「まだ言うか」

セシリアはペンライトを置き、マイクを掴んだ。

「でも、魂が鳴ってないわ」

ヒデはニヤリと笑った。

「だろうな」

棺桶の上に立つ。

黒いギターを構える。

墓地の王のように、ヒデは聖歌隊を見下ろした。

「人のハコで、ずいぶん退屈な歌を歌うじゃねぇか」

聖歌隊の笑顔が凍る。

ヒデは夜空へ向かって叫んだ。

「生者も死者も、天使も悪魔も関係ねぇ」

ジャスティスのベースが低く震える。

レオンがスティックを構える。

セシリアが赤いドレスを翻す。

ヒデは笑った。

「ここで鳴った魂が正義だ」

そして、ギターを振り上げた。

「No Music, No Border!!」

ギュイイイイイイン!!

墓地の夜が、黒い音で切り裂かれた。

――後編へ続く。


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