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墓地ロック 〜異世界の鎮魂歌がクソだったので、底辺墓守の俺は爆音ライブで魂を救う〜  作者: Kururi


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第10話 聖剣は低音で哭く


夜。

第4墓地。

ジャスティスは、ふらつく足で墓地へ入ってきた。

鎧は泥だらけ。

マントは裂けている。

それでも聖剣だけは、眩しいほど美しかった。

棺桶の上には、墓守ヒデ。

最前列には、黒ローブの聖女セシリア。

そして奥には。

白いドラムの前で、優雅に紅茶を飲む王子レオン。

ジャスティスは固まった。

「……王子殿下?」

レオンは微笑んだ。

「こんばんは、勇者殿」

「なぜ墓地でドラムを?」

「趣味だ」

「趣味で王族が墓地でドラムを?」

「問題あるか?」

レオンは微笑んだまま、バチを構えた。

ドコドコドコドコドコドコッ!!

白いドラムが雷のように鳴る。

ジャスティスは一歩下がった。

「問題しかない!!」

セシリアが静かに言う。

「慣れるわ」

「慣れたくありません!」

ヒデが笑った。

「で、勇者様。何しに来た」

その瞬間。

ジャスティスは聖剣を抜いた。

シャキィン!!

「出たな、魔王!! 成敗してやる!!」

ヒデは無表情で、墓地を指差した。

「よく見ろよ」

「何?」

「俺たち、誰も殺してねーぞ」

ジャスティスは固まった。

ヒデの後ろでは、霊たちが拳を上げていた。

「ヒデー!」

「今日も頼むぞー!」

「浄化待ち一番乗りだー!」

セシリアは最前列で体育座り。

レオンは白いドラムの前で紅茶。

どう見ても怪しい。

だが、誰も苦しんでいない。

むしろ楽しそうだった。

ジャスティスは聖剣を構えたまま眉をひそめる。

「では、この異様な爆音と、墓地に集まる霊たちは何だ」

ヒデは鼻で笑った。

「ライブだ」

「魔王の儀式ではなく?」

「ライブだ」

セシリアが真顔で頷く。

「神回よ」

「説明する気が誰にもない!!」

レオンが優雅にカップを置いた。

「勇者殿、落ち着け。見た目はかなり魔王側だが、彼は墓守だ」

ヒデがレオンを睨む。

「王子。お前もあとで叩く」

レオンは静かにバチを持ち上げる。

「叩くのは私の仕事だ」

「そういう意味じゃねぇ」

ジャスティスは、ますます混乱した。

「……なんなんだ、この墓地は」

ヒデはギターを肩にかけ直す。

「で、本当は何しに来た」

ジャスティスは笑おうとした。

だが、うまく笑えなかった。

「……少し、静かな場所に来たかっただけだ」

ヒデは墓地を見回した。

アンプ。

ドラム。

最前列の聖女。

拳を上げる霊たち。

「静かな場所を選ぶセンスは終わってんな」

「うるさい」


ヒデは、ジャスティスの顔を見た。

そして、すぐに言った。

「お前、勇者やめたいんだろ」

ジャスティスの肩が跳ねた。

「なっ……!」

「図星か」

「違う! 私は聖剣に選ばれた勇者だ!」

「だから?」

「だから、やらなければならない!」

「誰がそう言った」

「皆がそう言う!」

ヒデは腰の聖剣を指差した。

「剣は?」

ジャスティスは黙った。

ヒデは畳みかける。

「その剣は、お前に命令したのか」

「……」

「魔獣を倒せって言ったのか」

「……」

「全部ひとりで背負えって言ったのか」

ジャスティスは、答えられなかった。

聖剣は、何も言わない。

いつも、ただそばにあっただけだった。

ヒデは鼻で笑った。

「お前を縛ってんのは聖剣じゃねぇ」

ギターを構える。

「勇者様って呼ぶ声だ」

ジャスティスの胸が、痛んだ。


ジジジジ……。

アンプが唸る。

ヒデはマイクを掴んだ。

「今夜は勇者様の葬式だ」

「私は死んでいない!」

「知ってる」

ヒデは笑った。

「勇者様って名前だけ燃やす」

ギュイイイイイイン!!

爆音が墓地を裂いた。

レオンがスティックを構える。

その姿は、優雅だった。

だが目だけが違う。

鬼だった。

ヒデが叫ぶ。

『Braveman Walking!!』

『選ばれたから歩くのか!?』

『頼まれたから斬るのか!?』

『勇者様ならできますよねって!!』

『それは呪いの言葉だろうが!!』

レオンのドラムが入る。

ドドドドドドドドッ!!

上品な王子が消えた。

金髪を乱し、青い瞳を燃やし、白いバチで夜を殴る。

ジャスティスは震えた。

「王子殿下が……鬼に……」

セシリアが拳を上げる。

「通常運転」

「通常なのか!?」

ヒデはジャスティスを指差した。

『お前が目指す勇者とは何だ!?』

『全部背負って笑う人形か!?』

『聖剣に選ばれたら!!』

『弱音も吐けねぇのか!?』

ジャスティスの手が震えた。

勇者様ならできる。

勇者様しかいない。

勇者様お願いします。

勇者様なのに。

声が重なる。

息が苦しい。

それでも笑ってきた。

勇者だから。

聖剣に選ばれたから。

でも。

「私は……」

ジャスティスの膝が崩れた。

「私は、怖い」

墓地が静まり返る。

「助けてくれと言われるたび、怖くなる」

「期待されるたび、息ができなくなる」

「でも断れない」

「私は……勇者だから」

その時。

聖剣が震えた。

キィィィィン……。

ヒデが目を細める。

「……鳴ってんな」

「鳴っている?」

「剣じゃねぇ」

ヒデは笑った。

「そいつ、音出したがってる」


聖剣アークブレイバーが、光に包まれた。

白銀の刀身がほどける。

刃は黒い弦へ。

鍔は重いボディへ。

柄は銀のネックへ。

聖なる光が、低く深い音に変わる。

ズゥゥゥン……。

そこにあったのは、剣ではなかった。

白銀のベースだった。

ジャスティスは目を見開いた。

「アークブレイバー……?」

低音が、声のように震える。

『私は、お前を縛りたかったんじゃない』

ジャスティスの瞳が揺れた。

『私は、ずっと隣で鳴りたかった』

「……お前」

『お前が一人で立てないなら』

弦が震える。

『私が、お前の低音になる』

ジャスティスは、涙をこぼした。

「お前は……何も命令していなかったんだな」

白銀のベースは、静かに光っていた。

ただ、そばにいるように。


ヒデはギターを下ろした。

「決まりだな」

ジャスティスは顔を上げる。

「何がだ」

「勇者」

ヒデはニヤリと笑った。

「お前、ベースな」

「なぜそうなる!?」

「ギターは叫ぶ」

ヒデがギターを鳴らす。

「ドラムは心臓を叩く」

レオンが優雅に微笑む。

「客は魂で受ける」

セシリアが頷く。

ヒデは白銀のベースを指差した。

「ベースは、全部を支える」

ジャスティスは息を呑んだ。

「支える……」

「お前はもう、ひとりで主役をやらなくていい」

ヒデは言った。

「剣で世界を背負うな」

そして叫ぶ。

「音で仲間を支えろォォォ!!」

ジャスティスは、白銀のベースを握った。

重い。

でも、剣だった時より軽かった。

誰かを斬るためではなく。

誰かと鳴るための重さだった。

恐る恐る、弦を弾く。

ズンッ!!

墓地が震えた。

レオンが目を細める。

「悪くない」

ジャスティスは驚く。

「今のでか?」

「低音は正直だ」

レオンは美しく微笑んだ。

「怯えているが、逃げてはいない」

「……王子殿下、ドラムの前だと怖いです」

「私は冷静だ」

直後。

ドコドコドコドコドコドコッ!!

「どこが冷静なんだ!!」

セシリアが真顔で頷く。

「採用」

「聖女様まで!?」

ヒデがギターを掲げた。

「行くぞ、低音勇者ァァァ!!」

「その呼び方はやめろ!!」

ジャスティスは、もう一度弦を弾いた。

ズゥン!!

ヒデのギターが吠える。

レオンのドラムが爆ぜる。

セシリアが最前列で叫ぶ。

ジャスティスは、初めて笑った。

完璧な勇者の笑顔ではなく。

不器用で、少し泣きそうな。

ただの人間の笑顔だった。

「私は、勇者ジャスティス!」

白銀のベースを握りしめる。

「そして、このバンドのベーシストだ!!」

その夜。

聖剣は剣であることをやめた。

勇者は、ひとりで主役であることをやめた。

墓地ロックに。

低音が生まれた。


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