第89話 悪魔の家族 〜神が描いたDestiny 悪魔がくれたIdentity 神のシナリオ破り 俺は俺で歩くStreet〜
ウィーニーは6番街に背を向けて歩き始めた。
「セラ……何でわからねえ。そこにいたって、世界は変わらねえんだよ……」
その時。
「ウィーニーや」
その声に、足が止まった。
ウィーニーは振り返った。
「ワイザー」
ワイザーは、白い髭を撫でて笑みを浮かべていた。
「ほほ」
「あんたもオレに説教かよ……」
ワイザーは、ウィーニーに歩み寄ると、その顔を覗き込んだ。
「強うなったなぁ、ウィーニー。男の顔じゃ」
「……強くならなきゃ……世界は変えられない」
ワイザーは、静かに頷いた。
「その通りじゃ。お主は強くならねばいかん」
「ワイザー……。オレは一体、何者なんだ?」
「少し座りなさい」
そう言うとワイザーは、地べたに座り込んだ。
ウィーニーもその隣に腰を下ろした。
「ほほ。お主、あの時は、メカに追われておったの」
「うん。ワイザーが、助けてくれた」
ワイザーは、遠い目で戦場の後を見つめた。
「なあ、ワイザー。オレは一体──」
言いかけたウィーニーを遮るようにワイザーは、答えた。
「ハーフゴッド。お主は、人と神の間に生まれた特別な子じゃ」
「ハーフゴッド……」
ワイザーは、ウィーニーの手を見て言った。
「その不思議な力。それは神の力じゃ」
「神の、力……」
「お主が、異常に打たれ強いのも、高い治癒力も、爆発的な力も、それは神の力によるものじゃ」
「……セラも」
「そうじゃ」
ワイザーは、戦場に横たわる帝国兵へ静かに目を向けた。
「じゃが、中身は人間じゃ。そこに倒れている兵士と同じ。ただの人間と何も変わらん」
「お主やセラは、神の意図によって作られた。その力によって人々を救い、導き、神への信仰忘れさせぬためにのう」
「神は、どうしてそんなことを?」
ワイザーは、小さく息を吐いた。
「神の命綱。人々が信仰を失い、神々の存在が危うくなった時に、ハーフゴッドがそれを繋ぐ。それを意図して作ったのじゃ」
ウィーニーは、拳を握った。
「命綱……。要は保険みたいなもんか……」
「じゃが、そこには神の誤算がある」
「誤算?」
ワイザーは静かに頷いた。
「そうじゃ。セラにもお主にも、ちゃんと自分の意思がある。故に、神の道具にはなりきれぬ。お主が、悪魔達と行動を共にするなど、予想だにしなかったであろう」
「……デビルズは、悪い奴らじゃねえ……」
「ほほ、そのようじゃの」
ウィーニーは、ワイザーの顔を見た。
「デビルズはオレを助けてくれた。オレを庇って助けるんじゃねえ。オレを強くすることで、生きる力をくれたんだ……」
「ウィーニー……」
ウィーニーは立ち上がった。
「マイクは、便所掃除のガキだったオレを受け入れてくれた。何者でもねえお前にも可能性があるって言ってくれた」
ウィーニーの瞳が揺れる。
「ロベルトは、強いってのがどういうことか背中で教えてくれる。シャクールは、兄貴のように手取り足取り教えてくれる……」
ウィーニーの頬を一筋の涙が伝った。
「誰もオレのことなんか……そんなこと、誰もオレに……でも、悪魔だけが、オレのことを見て、悪魔だけがオレの声を聞いてくれたんだ!……デビルズは、オレの……家族だ」
ワイザーは、立ち上がると、ウィーニーの肩に手を置いた。
「ワシは否定せん。悪魔といるお主も」
「ワイザー」
「行きなさい、ウィーニー。お主が信じる道を歩んでみるのじゃ」
ウィーニーは、頷いた。
「うん。……ありがとう、ワイザー」
ウィーニーは、13番街に向かって歩み始めた。
ウィーニーは、一度だけ振り返った。
ワイザーは、何も言わず笑っていた。
ワイザーは、小さくなるその背をいつまでも見つめていた。
ウィーニーの姿が見えなくなると、ワイザーは、ぽつりと呟いた。
「世界を変える、か。……ウィーニーや、変えられぬモノに立ち向かうのは──辛いことじゃぞ」




