第85話 森の裁き 〜毒を撒くHoly Word 女王が暴くGod’s Fraud この喧嘩ごとJack〜
「ここからは、私がやる」
シルヴァーナは、鷲の背で、すっと、立ち上がった。
そして──跳んだ。
ソルセリオンに向かって、緑の閃光が糸を引きながら突っ込んだ。
「──っ!?」
ソルセリオンは、身を捻って剣を構えた。
だが、間に合わなかった。
シルヴァーナの、蹴りが、神の胸を捉えていた。
ドオオオンッ──!!
空が、鳴った。
ソルセリオンの鎧が砕け散るように弾けた。
それに呼応するかのように上空に集まりかけた金色の光が霧散した。
降るはずだった矢は、生まれることなく、消えた。
二つの体が、絡み合ったまま、地上へと、落ちていく。
ソルセリオンは、地面に激突する寸前。
純白の翼を、大きく、仰いで、静止した。
シルヴァーナは、落ちるその体を、舞い戻った鷲が翼で掬い上げる。
シルヴァーナは鷲の背から、ふわりと地に降り立った。
戦場が、静まり返る。
シルヴァーナは、ソルセリオンに背を向けセラに歩み寄った。
無言でセラを見下ろすシルヴァーナ。
「……っ、シルヴァーナ、さん、あの、これ……」
セラは、慌てて、握っていた曲刀を、両手で差し出した。
シルヴァーナは、曲刀を受け取った。
刀についた、ソルセリオンの鎧の破片を息で飛ばした。
「勝手に、使って……ごめんなさい……」
シルヴァーナは、膝をついてセラの顔を覗き込んだ。
「小娘が……」
「シルヴァーナさん……私──」
セラの言葉を遮って、シルヴァーナがセラを抱きしめた。
「すまぬ。お前に背負わせた。許せ」
セラの目から、涙があふれた。
こらえていたすべてが、崩れる。
「私……私……でも……森の仲間達がっ……ごめんなさい……」
シルヴァーナは立ち上がって、セラに手を伸ばした。
「立て、セラ。まだ、終わっていない」
「……はい」
セラは、撃ち抜かれた足を押さえて、シルヴァーナの手を握った。
シルヴァーナの手は大きく、暖かかった。
シルヴァーナは、腰に差した二本目の剣を引き抜きセラに渡した。
「これがお前の剣だ。忘れるな」
「はいっ」
獣の牙で出来たあの剣だった。
フラつくセラを、黒獅子が支えた。
シルヴァーナは、黒獅子の額に手を当てた。
黒獅子の記憶がシルヴァーナの手を通して伝わる。
「──なるほど」
そう一言だけ言うと、シルヴァーナは、ソルセリオンを振り返った。
神と、森の女王が、向き合った。
シルヴァーナの目が、再び緑の光を放つ。
「この娘が……セラがこの戦争を引き起こしたと……森を傷つけたのは、セラだと、そう言ったのか?」
ソルセリオンは、何も言わない。
「貴様ら神の言葉は、毒だ」
シルヴァーナは、ゆっくりとソルセリオンに向かって歩み始めた。
「貴様らを呼んだのは、セラだとそう言ったのか?」
止まることなく、歩いて剣の間合いに入ろうとするシルヴァーナ。
ソルセリオンは、そっと剣の柄に手を置いた。
「──もはや、それすら疑わしい」
「シルヴァーナさん、危ないっ……」
ソルセリオンが、剣を抜く。
「くっ」
しかし──抜けなかった。
ソルセリオンの剣には、蔦が絡み付いていた。
否。
すでに全身を森に捉えられていた。
シルヴァーナは、ソルセリオンに顔を寄せ、その瞳を覗き込んだ。
「醜い目だ。嘘と欺瞞に満ち溢れた、醜い目だ」
ソルセリオンの瞳が大きく揺れた。
「くっ、ワイルドブラッド……」
「貴様の毒、私が浄化してやろう」
二人の間に、誰も割って入れなかった。
神も、森も、人も。
戦場すべてが、その対峙に息を呑んでいた。
──その頃。
丘の上。
戦場を見下ろしたウィーニー。
「セラ!!どこだ!!」
血の香り。
横たわる人と獣。
ウィーニーは走り出した。
ドン。
しかし、何かにぶつかって倒れた。
「痛……」
戦場を見下ろす赤い瞳。
爪を噛む──悪魔。
「ジェシー!?」
「やってんねえ!ハハハハッ!」
ジェシーは、ウィーニーを振り返った。
「ところで、てめえ。一人で何しようとしてんだ、ああん?」
その時、背後から後を追って来たシャクールが叫んだ。
「おい、ウィーニー!!ふざけんな、お前!!勝手なことするんじゃねえ!!……あれ、ジェシー?」
「よお、フリークスじゃねえか」
「ジェシー」
「おう、ロベルトまで。こりゃあいいぜぇ」
ロベルトは、ウィーニーの髪を掴むと力づくで立たせた。
「うっ……」
「帰るぞ、ガキィ。オレ達は、お呼びじゃねえ」
「で……でも……助けなきゃ……セラを」
ロベルトは眉を歪めた。
「何言ってんだぁ、ガキィ」
その時、ロベルトの腕をジェシーが掴んで言った。
「ハハハ、いいじゃねえかぁ、ロベルト!やろうぜ!!」
「なんだとぉ?」
シャクールが割って入った。
「いや、ジェシー!流石にまずいぞ!勝手なことしたら、また──」
ジェシーは、ロベルトに顔を寄せた。
「忘れたか? オレはトップ6だ」
ロベルトは、ウィーニーの髪を離してジェシーに向き合った。
「……忘れてねえ」
ロベルトは、大きく息を吐いて言った。
「……お前が責任取るなら、何も言わねえ」
「ハハハハ!そうか!!じゃあ、オレの命令だ、フリークス!!」
ジェシーは、戦場を指差した。
「この喧嘩、デビルズが、かっ攫う!!」




