第84話 森の女王 〜Peaceの名で降るGolden Lie 神が描いたPerfect Line 女王が壊すそのDesign〜
「ありゃ、なんだぁ?」
初めに気付いたのは、シャクールだった。
「砂煙? ……六番街の方か」
フリークス達が一斉に顔を上げた。
「そういやぁ、今日は人間どもの姿も見ねえなぁ」
ロベルトは、ビルの上から、砂煙を見つめていた。
「声。剣。こりゃあ──戦だぁ」
シャクールにもその声が聞こえた。
「神、帝国軍……こりゃ、森の奴らか!?」
その時、ウィーニーが、地下道から顔を出した。
シャクールは慌ててその前へ立った。
「お、おい! 地下はどうだった!?」
「何見てるの、シャクール?」
シャクールは、ビクッと肩を振るわせた。
「地下にもメカの残骸はないみたいだよ。次行こうよ」
シャクールは慌てて、ウィーニーの視界を隠すように手を振った。
「お、おう! そうだな!! じゃあ、ロベルトにきいてみるから、お前はもう一回地下を見てこいよ、なっ!」
不自然なシャクールの反応に、ウィーニーは目を細めた。
「なんだよ、シャクール。何隠してるんだよ」
「なんでもねえって! 早く地下に戻れ! それともなにか? エースヒッターのオレ様の言うことが聞けねえってのか!」
「わ、わかったよ」
ウィーニーは、背を向けた。
一歩踏み出したその時、足が止まった。
「ん? ……シャクール、今、何か聞こえなかった?」
シャクールは嘯いた。
「いいや、何も……」
ウィーニーはゆっくりと振り返った。
ドン。
微かに響いた衝撃音。
シャクールの背後に揺れる砂煙。
「あれは……」
シャクールが、頭を掻きながらバツが悪そうに言った。
「気付いたか……。森の奴らと神が戦ってる」
シャクールはウィーニーを振り返りながら言った。
「でも、ダメだぞ、ウィーニー! 勝手に首突っ込んだら、今度こそオレ達は──」
もう、そこにウィーニーは、いなかった。
その頃、戦場では。
「森の力が、これほどとは……」
ラプター大佐は、戦場のど真ん中で立ち尽くしていた。
「ラプター!!」
「ファントム……将軍」
ラプター大佐の前に立ったファントムが叫んだ。
「帝国兵を引け! 森は人間を狙ってはいない!」
ファントムの言う通り、森の勢力は帝国兵を躱すように退けながら、神の軍勢だけを攻撃していた。
「な……なぜ?」
ファントムは、セラの方を見て言った。
「おそらく、森の軍勢はセラの意図に呼応している。セラは人を傷付けるつもりはない」
「そんなことが……」
ラプターは、神の軍勢だけを狙う森の獣達を見渡した。
「本当に……帝国兵を襲っていない……」
「大佐! 退け! これは帝国軍の戦いではない! 神と自然の戦いだ! 退け!」
ラプター大佐は、動けなかった。
「し……しかし」
ソルセリオンは、刃を向けるセラを見て笑みを浮かべた。
「アンセムボーンエターナル──讃美歌により我らを呼び、その我らに刃を向けるとは。おかしいと思わんか、セラ」
「私が……呼んだ……」
「そうだ。救いを求め、この世界に平和を望み我らをこの地に呼んだのではないのか?」
そう言うと、ソルセリオンは戦場に向かって手を伸ばした。
「見よ。森の毒に当てられたそなたに扇動され、傷付いていく哀れな動物達を。この戦争は──そなたが引き起こしたことだ」
「違う……。私がやらなければ、あなた達は森を焼いた!」
「この戦争を引き起こし、命を奪ったのはセラ、そなただ」
セラの瞳が一瞬揺れた。
シルヴァーナの言葉が、セラの頭を駆け巡った。
──神の言葉は、毒だ。
「それも全部許してあげよう、セラ」
ソルセリオンは、セラに向かって手を差し出した。
「これが最後だ。私と行こう」
セラは、曲刀を握り直し、ソルセリオンの目を睨みつけた。
「許しを乞うのは、私じゃない。自然に許しを乞うべきは」
セラの瞳が再び金色に輝く。
「──あなたよ、ソルセリオン!!」
セラが地面を蹴った。
その瞬間、ソルセリオンは、空高く飛び上がった。
「え?」
ソルセリオンの背中に、純白の翼が現れる。
「そなたは──失敗作だ」
森の境界から、戦場を見ていたワイザーは、唇を震わせて呟いた。
「まずい……」
ソルセリオンは、天に向かって手を掲げた。
「そなたらのような低俗な血では、正しい秩序を敷けぬ」
ソルセリオンは目を閉じた。
「ならば、降らせよう。混沌を終わらせる──平和の雨を」
空が、金色に光る。
雨が落ちた。
──矢の雨が。
金色の、無数の矢が、朝焼けの空を埋め尽くし、森の軍勢へ降り注いだ。
ドドドドドドッ──!
大地が揺れ、悲鳴を上げた。
ウッドエルフを貫く、ウサギを抉る、グラウンドスキンクの鱗が弾け飛ぶ。
ファントムは、剣で、矢を払いながら、叫んだ。
「散れ! 固まるな!」
だが、その声も、矢の雨の轟音に、掻き消される。
セラの目の前で、森の仲間達が倒れていく。
呆然と立ち尽くすセラを、黒獅子が庇う。
何本もの矢が、その漆黒の背中に突き立った。
「やっ……やめてっ……やめてえぇ!!」
戦場に沈黙が落ちた。
一瞬で、戦場は変わり果てた。
倒れ伏す獣たち。
うめき声と血の匂いで満たされた。
「みんな……ごめんなさい……私が……私がこんなこと……」
その、震える背に、ソルセリオンの声が、降ってくる。
「セラ。そなたが、これを望んだのだ。これはそなたが出した答え」
「うっ、ううっ……」
セラに、反論する力は残っていなかった。
矢に貫かれた足から流れた血が、地面に染み込んでいく。
ソルセリオンは、もう一度手を天に掲げた。
「立ち上がる意味を、まだ、見出せるか」
ワイザーが、森の際で、拳を、握りしめた。
「セラ……逃げよ……命だけでも……」
セラは、動けなかった。
曲刀を、杖のように、地面に突き立て、それでも、立とうとした。
だが、足に、力が入らない。
「安心しなさい。これで平和が訪れる」
空が、再び金色に輝く。
降ってくる。
二度目の、死の雨が──
誰もが死を覚悟した。
その時。
ピイイイイイィィィィッ!!
巨大な、一羽の鷲が、翼を広げていた。
否。それは、鷲の形をした、森だった。
幾万もの木の葉が、羽根となって、重なり合う。
こぼれ落ちた若葉が、光の尾を引いて、戦場に、降り注いだ。
まるで命の雨のように──
「な……何だ、あれは……」
鷲の、背の上。
赤い長髪が靡いた。
セラの、震える唇が、その名を、呼んだ。
「……シルヴァーナ、さん」
シルヴァーナは、倒れ伏す、森の仲間たちを、見渡し、静かに言った。
「よくぞ、繋いだ」
その視線が、ソルセリオンを、捉える。
「──ここからは、私がやる」
森の女王、シルヴァーナ。
最後にして史上最強のワイルドブラッドが、森そのものを、翼に変えて、戦場に舞い降りた。




