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路地裏のウィーニー  作者: みゃーじま
第五章 アウトローのアウトロー
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第84話 森の女王 〜Peaceの名で降るGolden Lie 神が描いたPerfect Line 女王が壊すそのDesign〜

「ありゃ、なんだぁ?」


 初めに気付いたのは、シャクールだった。


「砂煙? ……六番街の方か」


 フリークス達が一斉に顔を上げた。


「そういやぁ、今日は人間どもの姿も見ねえなぁ」


 ロベルトは、ビルの上から、砂煙を見つめていた。


「声。剣。こりゃあ──戦だぁ」


 シャクールにもその声が聞こえた。


「神、帝国軍……こりゃ、森の奴らか!?」


 その時、ウィーニーが、地下道から顔を出した。


 シャクールは慌ててその前へ立った。


「お、おい! 地下はどうだった!?」


「何見てるの、シャクール?」


 シャクールは、ビクッと肩を振るわせた。


「地下にもメカの残骸はないみたいだよ。次行こうよ」


 シャクールは慌てて、ウィーニーの視界を隠すように手を振った。


「お、おう! そうだな!! じゃあ、ロベルトにきいてみるから、お前はもう一回地下を見てこいよ、なっ!」


 不自然なシャクールの反応に、ウィーニーは目を細めた。


「なんだよ、シャクール。何隠してるんだよ」


「なんでもねえって! 早く地下に戻れ! それともなにか? エースヒッターのオレ様の言うことが聞けねえってのか!」


「わ、わかったよ」


 ウィーニーは、背を向けた。

 一歩踏み出したその時、足が止まった。


「ん? ……シャクール、今、何か聞こえなかった?」


 シャクールは嘯いた。


「いいや、何も……」


 ウィーニーはゆっくりと振り返った。


ドン。


 微かに響いた衝撃音。


 シャクールの背後に揺れる砂煙。


「あれは……」


 シャクールが、頭を掻きながらバツが悪そうに言った。


「気付いたか……。森の奴らと神が戦ってる」


 シャクールはウィーニーを振り返りながら言った。


「でも、ダメだぞ、ウィーニー! 勝手に首突っ込んだら、今度こそオレ達は──」


 もう、そこにウィーニーは、いなかった。



 その頃、戦場では。


「森の力が、これほどとは……」


 ラプター大佐は、戦場のど真ん中で立ち尽くしていた。


「ラプター!!」


「ファントム……将軍」


 ラプター大佐の前に立ったファントムが叫んだ。


「帝国兵を引け! 森は人間を狙ってはいない!」


 ファントムの言う通り、森の勢力は帝国兵を躱すように退けながら、神の軍勢だけを攻撃していた。


「な……なぜ?」


 ファントムは、セラの方を見て言った。


「おそらく、森の軍勢はセラの意図に呼応している。セラは人を傷付けるつもりはない」


「そんなことが……」


 ラプターは、神の軍勢だけを狙う森の獣達を見渡した。


「本当に……帝国兵を襲っていない……」


「大佐! 退け! これは帝国軍の戦いではない! 神と自然の戦いだ! 退け!」


 ラプター大佐は、動けなかった。


「し……しかし」


 ソルセリオンは、刃を向けるセラを見て笑みを浮かべた。


「アンセムボーンエターナル──讃美歌により我らを呼び、その我らに刃を向けるとは。おかしいと思わんか、セラ」


「私が……呼んだ……」


「そうだ。救いを求め、この世界に平和を望み我らをこの地に呼んだのではないのか?」


 そう言うと、ソルセリオンは戦場に向かって手を伸ばした。


「見よ。森の毒に当てられたそなたに扇動され、傷付いていく哀れな動物達を。この戦争は──そなたが引き起こしたことだ」


「違う……。私がやらなければ、あなた達は森を焼いた!」


「この戦争を引き起こし、命を奪ったのはセラ、そなただ」


 セラの瞳が一瞬揺れた。


 シルヴァーナの言葉が、セラの頭を駆け巡った。


 ──神の言葉は、毒だ。


「それも全部許してあげよう、セラ」


 ソルセリオンは、セラに向かって手を差し出した。


「これが最後だ。私と行こう」


 セラは、曲刀を握り直し、ソルセリオンの目を睨みつけた。


「許しを乞うのは、私じゃない。自然に許しを乞うべきは」


 セラの瞳が再び金色に輝く。


「──あなたよ、ソルセリオン!!」


 セラが地面を蹴った。


 その瞬間、ソルセリオンは、空高く飛び上がった。


「え?」


 ソルセリオンの背中に、純白の翼が現れる。


「そなたは──失敗作だ」


 森の境界から、戦場を見ていたワイザーは、唇を震わせて呟いた。


「まずい……」


 ソルセリオンは、天に向かって手を掲げた。


「そなたらのような低俗な血では、正しい秩序を敷けぬ」


 ソルセリオンは目を閉じた。


「ならば、降らせよう。混沌を終わらせる──平和の雨を」


 空が、金色に光る。


 雨が落ちた。


 ──矢の雨が。


 金色の、無数の矢が、朝焼けの空を埋め尽くし、森の軍勢へ降り注いだ。


ドドドドドドッ──!


 大地が揺れ、悲鳴を上げた。


 ウッドエルフを貫く、ウサギを抉る、グラウンドスキンクの鱗が弾け飛ぶ。


 ファントムは、剣で、矢を払いながら、叫んだ。


「散れ! 固まるな!」


 だが、その声も、矢の雨の轟音に、掻き消される。


 セラの目の前で、森の仲間達が倒れていく。


 呆然と立ち尽くすセラを、黒獅子が庇う。


 何本もの矢が、その漆黒の背中に突き立った。


「やっ……やめてっ……やめてえぇ!!」


 戦場に沈黙が落ちた。


 一瞬で、戦場は変わり果てた。


 倒れ伏す獣たち。

 うめき声と血の匂いで満たされた。


「みんな……ごめんなさい……私が……私がこんなこと……」


 その、震える背に、ソルセリオンの声が、降ってくる。


「セラ。そなたが、これを望んだのだ。これはそなたが出した答え」


「うっ、ううっ……」


 セラに、反論する力は残っていなかった。

 矢に貫かれた足から流れた血が、地面に染み込んでいく。


 ソルセリオンは、もう一度手を天に掲げた。


「立ち上がる意味を、まだ、見出せるか」


 ワイザーが、森の際で、拳を、握りしめた。


「セラ……逃げよ……命だけでも……」


 セラは、動けなかった。

 曲刀を、杖のように、地面に突き立て、それでも、立とうとした。

 だが、足に、力が入らない。


「安心しなさい。これで平和が訪れる」


 空が、再び金色に輝く。


 降ってくる。


 二度目の、死の雨が──


 誰もが死を覚悟した。


 その時。


ピイイイイイィィィィッ!!


 巨大な、一羽の鷲が、翼を広げていた。


 否。それは、鷲の形をした、森だった。


 幾万もの木の葉が、羽根となって、重なり合う。


 こぼれ落ちた若葉が、光の尾を引いて、戦場に、降り注いだ。


 まるで命の雨のように──


「な……何だ、あれは……」


 鷲の、背の上。

 赤い長髪が靡いた。


 セラの、震える唇が、その名を、呼んだ。


「……シルヴァーナ、さん」


 シルヴァーナは、倒れ伏す、森の仲間たちを、見渡し、静かに言った。


「よくぞ、繋いだ」


 その視線が、ソルセリオンを、捉える。


「──ここからは、私がやる」


 森の女王、シルヴァーナ。


 最後にして史上最強のワイルドブラッドが、森そのものを、翼に変えて、戦場に舞い降りた。

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