第83話 聖女の反逆 〜God said “Follow” でも No way 運命ごと斬る My Blade 救いじゃねぇ 支配はいらねぇ 守る答えは My Way〜
「起きろ、ウィーニー」
「なんだよ、シャクール。まだ朝じゃないか……」
「仕事だ」
ウィーニーは眠そうな目を擦りながらコンテナを出た。
港にはすでに、フリークス達の姿があった。
ロベルトがジロリとウィーニーを睨んだ。
「ガキィ、遅えぞぉ」
「す、すみません!」
ウィーニーは慌てて円陣の後ろに座った。
ロベルトは、ランナーの一人を指差して言った。
「で、なんだぁ?」
ランナーは、慌てて立ち上がった。
「は、はい! メカの残骸が異様に少ないと報告を上げたところ、上層部から早急に調べろとのことでした!」
「そうらしい。って、ことで調査に行くぞぉ」
ウィーニーは、首を傾げた。
「もう陽が昇りかけてる。こんな時間から?」
ロベルトは、ウィーニーを見下ろして言った。
「オスカーの野郎からの指令だぁ。なんか最近焦ってやがるなぁ」
ロベルトは、そう言うとクラブの方を振り返った。
「まあいい。とりあえず街に行くぞぉ」
コンテナの上には、街に出かけるフリークスを見送る一つの影があった。
カチカチと爪を噛む音。
「デヴィンよぉ、ダイスを振ってくれやぁ……暇だぜぇ……」
──南の森と、6番街の、境界。
セラの号令と共に、森の軍勢が、神の軍勢へと、雪崩れ込んでいた。
ファントムがセラに向かって叫んだ。
「セラ! 早まるな! 両翼のアーチャーがまだいる!!」
ビュウウウゥゥンッ!!
その両翼から放たれた神の矢は、先頭を走るセラと黒獅子へ向かった。
「セラー!!」
その瞬間、セラの体が金色に光った。
その光が、黒獅子ごと包み込む。
「あの光……」
セラに届いた矢は、光に当たると同時に弾け飛んだ。
ファントムは息を呑んだ。
「あの少年を守った時の……」
ソルセリオンはそれを見て目を細めた。
「ハーフゴッドの力、か」
ソルセリオンは、再び手を前に伸ばして叫んだ。
「ファランクス! 前に出よ!」
その声と共に、エターナルのスピアマンが前に出る。
突き出された黄金の槍の壁。
一部の隙も無い陣形だった。
それでも黒獅子は、止まらない。
むしろ加速して神の軍に突っ込む。
さらにセラから放たれる光が強くなる。
走る黒獅子とセラは輪郭をなくし、一筋の光に変わった。
迎え撃つエターナルのファランクス。
誰かが呟いた。
「この光は、我々と同じ……」
ファランクスの槍先が、揺れた。
ソルセリオンが叫んだ。
「退くでない!! 躊躇うな!!」
光の中、セラが叫んだ。
「退けえええぇぇぇ!!」
その瞬間、ファランクスの隊列が真っ二つに割れた。
「神の軍隊が……避けた」
割れた隊列の、その先。
まっすぐに伸びた道の先に、ソルセリオンがいた。
「──ここまで来たか」
ソルセリオンは、静かに、手をかざした。
その手のひらから、黄金の光が、壁となって、広がる。
一筋の光となったセラと黒獅子が、その壁に、突っ込んだ。
ドオオオオンッ!!
光と、光が、ぶつかる。
視界が、白く、染まった。
弾ける、黄金の光。
砕ける、光の粒子。
やがて、光が、収まっていく。
ソルセリオンが、ゆっくりと、目を開けた。
その目の前にいたのは──黒獅子だけだった。
「……!?」
背後で、空気が、鳴った。
「──っ!?」
振り向きざま、ソルセリオンの体が、傾く。
紙一重。
だが。
ザンッ!
純白の鎧が、肩から胸にかけて、深く、斬り裂かれた。
宙を舞う、白い鎧の破片。
ファントムが、息を止めた。
ウサギ達の緑の瞳が、一斉に見開かれる。
その下の、皮膚には──届いていない。
ソルセリオンは、斬られた自らの鎧を、見下ろした。
「……ほう」
初めて、その口元から、笑みが、消えていた。
着地したセラが、返す刀で、二撃目を、振り抜く。
キィィンッ!!
甲高い音。
いつの間にか抜かれていたソルセリオンの剣が、セラの曲刀を、受け止めていた。
黄金の剣と、森の曲刀。
刃が、交わったまま、止まる。
至近距離で、二人の目が、合った。
セラの、金色の瞳。
ソルセリオンの、琥珀の瞳。
「……よく、斬った」
「……」
「だが、ここまでだ」
セラは、曲刀を握り直した。
「……セラ。森の声に、呑まれたか」
刃を交えたまま、ソルセリオンが、静かに、言った。
「だがまだ、間に合う」
「……」
「その刀を、収めなさい。そなたは、こんなところで、獣どもと朽ちる存在ではない」
神の声は、どこまでも、優しかった。あの、食卓の時と、同じ。
「そなたは、選ばれた子だ。世界を、導く光になれる。私の、隣で」
セラの、腕が、震えた。
「帰ろう。過ちは、問わぬ。すべて、忘れよう」
「……私は、戻らない」
セラは、奥歯を、噛んだ。
「……過ちなんて犯してない。過ちというなら──今まで、馬鹿みたいにあなた達を信じてきたのが過ちよ」
その足元に、倒れた木々が、浮かび上がった。
傷ついたウサギたち、森を覆い尽くす炎が──
「セラ」
「何が選ばれた子よ。何が世界を導く、よ。私は──あなた達の道具じゃない!!」
セラは、渾身の力で、神の剣を、押し返した。
「私が守りたいものは──私が決める!!」




