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路地裏のウィーニー  作者: みゃーじま
第五章 アウトローのアウトロー
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第82話 森はもっと怖い 〜大地が割れて 森が牙を剥く 狙うは神の首 命を賭ける 聖女が掲げる叛逆の旗〜

「早まってはいかん、セラ。神はお主を欲しておるのじゃ。もしまた捕まれば、今度はお主を生かしてはおかん」


 立ちはだかるワイザーの横で、ファントムは指笛を吹いて部下を呼んだ。


「ワイザー。セラはもう止まらぬ。せめてオレがあの子を守ろう」


 セラを乗せた黒獅子はゆっくりと歩き出した。

 その横に何も言わずに付き従うウッドエルフとウサギ達。


 立ち尽くすワイザーの横を、森の軍隊が通り過ぎていく。


 ワイザーは、大きく息を吐いた。


「セラ。ファントム。お主らは……神の軍隊の強さをまだ知らぬ……」


 ワイザーは、白みかけてきた森の空を見上げて小さく言った。


「本当の怖さを……」


 南の森と六番街。

 その境界に一直線に並んだセラ率いる森の軍隊。


 誰も声を発しない。

 ただ、真っ直ぐにその地平線を見つめていた。


 朝焼けの時。


 その地平線が、揺れた。


 ファントムが、思わず口を開いた。


「千、どころじゃない……」


 両翼。

 見渡す限り、地平線を埋め尽くした神の軍隊。


 その先頭に、ラプター大佐率いる帝国軍。


 地面が、揺れていた。


 鎧と鎧が擦れる音が、地鳴りのように重なった。


 黒獅子の立髪を掴むセラの手に力が入った。


 静かに目を閉じたセラ。


 黒獅子は、ゆっくりとセラの顔を見上げた。


「怖いか?」


 セラは、目を閉じたまま答えた。


「……怖いよ」


 指先は冷たく震え、胸の鼓動だけが、やけに大きく耳へ響いていた。


 セラは、自分自身と戦っていた。


 目の前の人々への救済だけが、自分に出来ることだと思って生きてきた。


 神々への信仰だけが、世界を救うと信じてきた。


 その神へ刃を向ける。それは、己に対する全否定。


「でも私は間違ってた。何もかも神様がこの世界を変えてくれるって思ってた。神様が必ずこの世界を守ってくれるって。だけど──」


 自分のことよりも、守りたいものを見つけた。


「私……ぜーんぶ間違ってた」


 セラはゆっくりと目を開けた。

 金色に輝く瞳が、馬に乗ったソルセリオンを捉えた。


「私が、森を守る──この命に代えても!」


 ソルセリオンは、表情を変えず、静かに手を上げた。


 エターナルのアーチャーが、前に出た。

 一斉に弦が張られる音が、朝の静寂を切り裂いた。


 ラプター大佐が、唾を飲み込んだ。


「本当に……やるのか……」


 黒獅子は、前を見据えたまま静かに言った。


「案ずるな、セラ。森が、そなたを死なせはしない」


 セラは、曲刀を握り直した。


「それでも……私が、やらなきゃ」


 エターナルのアーチャーが、矢をつがえた。


 それを見たファントムが、小さく言った。


「アンデッドの軍勢を一瞬で消滅させた神の弓兵……。このまま突っ込めば我々も……」


 ファントムの頬を汗が伝った。


「どうする……?」


 その時。


「おい、人間」


 一羽のウサギが、ファントムを見上げていた。


「なんだ?」


「ワイザーが言ってたぞ。お前たちは、神の軍勢の怖さを知らないって」


 ファントムは、視線を落とした。


「確かに……そうかもしれん」


 ウサギは、鼻で笑った。


「フン。お前たちは神の軍勢の怖さを知らない。だが──森は、もっと怖いぞ」


「え」


 引き絞られるエターナルの金の弓。

 朝日を反射し、地平線が金色に輝いた。


ゴゴッ。


 地面がわずかに震えた。


 ソルセリオンだけが、それに気付いて下を見た。


「……地中だ」


ゴゴゴッ!


「アーチャー! 下がれ!!」


 ソルセリオンが叫んだ瞬間、大地が裂けた。


 瓦礫が弾け飛び、土砂が空へ噴き上がった。


ギシャアアアァァァ!!


 ヒビ割れた地面から、大きな影がいくつも舞い上がった。


「な、なんだ!?」

「ヘビ!? トカゲ!?」


 なめらかな鱗が、朝日を反射し虹色に輝く。

 蛇のように長い胴体に、短い手足。

 鋭い刃を向いたトカゲが、エターナルのアーチャー達に襲いかかった。


 ファントムの横にいたウサギは、ニヤリと笑った。


「地潜蜥蜴、グラウンドスキンクだ」


 ソルセリオンの目が、初めて小さく揺れた。


「森はいつも──食う側だ」


 セラが、叫んだ。


「行こう!!」


 黒獅子が咆哮した。

 その咆哮に応えるように、獣たちが一斉に吠えた。


 黒獅子が、地面を蹴った。

 森の軍勢が、一斉に動いた。


「狙うはソルセリオン!!神を──討つ!!」


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