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路地裏のウィーニー  作者: みゃーじま
第五章 アウトローのアウトロー
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第79話 ハーフゴッド 〜神の血 隠したまま生きた運命 白き正義 森を裂く 偽りの声明〜

 カタカタと揺れる窓の音。


 その隙間から、わずかに湿った空気が入りこむ。


 セラは、ふと目を覚まし、窓の外をぼんやりと眺めた。


「……」


 いつもなら、ひっきりなしに窓の外を通る巡回兵の影がない。


「静か……」


キィ。


 ゆっくりと窓を開けて外を見渡す。


「誰も……いない」


 セラは、窓に映る自分を見ると、乱れたシルクのローブを脱ぎ捨て、いつもの麻のローブに着替えて部屋を出た。


 冷たい床。

 裸足で歩くその足音すら、廊下に響いていた。


「静かすぎる……」


 セラは管理棟の階段を上ると、司令塔に続く連絡通路の真ん中で立ち止まった。


 人じゃない。

 “何か”が歩いてくる。


「アレは……」


 猫。

 丸々と太った猫だった。


「やれやれ。全く、猫使いが荒いな。まあ、仕方ねえ。森に帰ったら、働かざる猫食うべからずだからな」


 ブツブツと独り言を言いながら二足歩行で、こちらに向かって歩いてくる。


「あなたは……」


 セラは思わず話しかけた。


 猫は、チラリとセラを見上げた。


「お前、教会のシスターか。炊き出しでは世話んなったな。じゃあな」


 それだけ言ってすれ違うと、猫は立ち止まることなく歩いて行った。


「あの猫は、一体……」


 セラが背を向けると、微かに猫の声が廊下に響いた。


────────────────────

Yo 猫使い荒いな森 帰って早々ミッション

でももう街は無理 白に染まるビジョン

Yo 便所掃除 今頃何してる──ウィーニー

────────────────────


 セラの胸が跳ねた。


「え!? 今、あなたウィーニーって──」


 セラは慌てて振り返った。

 だが、猫の姿はもうなかった。


────────────────────

懐かしいぜ お前をディスってた日々

もうディスじゃ済まねえ 世界には大きなヒビ

いずれ終わる 森も 街も 危機──

────────────────────


「ラップ……ウィーニー……」


 その時、司令塔の向こう側で音がした。

 セラは、息を潜めて向かった。


 司令塔の中も静かだった。

 自分の足音が、嫌なほど廊下に響いた。


 セラは、壁にかかっていた帝国軍の古い軍旗の一部を破ると、自分の足に巻きつけた。


 その時。


ガチャ!


 前方の部屋の扉が突然、開いた。

 セラは咄嗟に、立て掛けてあった大きな盾の影に身を隠した。


「神父……」


バタンッ。


 神父は、自分の部屋を出て、隣の司令室に入って行った。


 神父の部屋の窓から、基地の正面が見渡せる。

 セラは、身を屈めたまま、そっと神父の部屋に入った。


 部屋の中には何もなかった。

 殺風景な部屋。

 窓際に丸テーブル。

 その上に手帳が一つ置かれていた。


 セラはパラパラと捲った。


「……日記」


  主が、神々の軍隊がセントラに降り立った。

  我が祈りが、人々の願いが、ようやく天に通じた。

  これで、平和が訪れる。


「人々の願い……」


 その時、バルコニーの方から話し声が聞こえた。


 神父の声。

 そしてソルセリオンだった。


 セラは、無意識にその場にしゃがみ込んだ。


「ソルセリオン様。セラをどうするおつもりか、お聞かせください」


「どうもせぬ。彼女は、特別な子だ」


「特別……その意味を、もう少しお教え願えませんか?」


 ソルセリオンは、バルコニーの手すりに手をつくと、地上をゆっくりと見渡しながら言った。


「彼女はいずれ聖女となる──神の血を継ぐ子だ」


「聖女……」


「神の声を聞き、理を説き、この世界に秩序と平和を敷く。神々と人々を繋ぎ、信仰を失わせない聖女。信仰が消えない限り、神々は永遠である」


「神の血を継ぐとは?……」


「彼女は、ハーフゴッド。神と人間の間に作られた子だ」


 セラは、自分の手のひらを、見た。


「ハーフ……ゴッド。では、セラの両親は……」


「ハーフゴッドは、神々への信仰を忘れさせぬための器。神の子を生んだ人間は長く生きられぬ。そして人間に子を産ませた男神は、極刑に処される。だが、それも神の意向」


「だから、修道院に預けられ、うちに……」


 顔も知らない。名前も知らない。

 ただ、いない、とだけ聞かされてきた。

 

 その理由が、今、わかった。


 「だが、それも神の意向」


 神の声には、何の感情もなかった。


 ソルセリオンは、ゆっくりと天を見上げた。


「そしてこのセントラには、もう一人ハーフゴッドがいるようだ」


 セラは思わず、呟いた。


「……ウィーニー……」


 その時。


ガシャッ!


 窓の外、地上で大きな音が一度響いた。


 セラは、恐る恐る窓から下を覗いた。


「!? ……これは」


 月明かりの下、整然と並ぶ純白の鎧を着た神の軍隊。

 騎兵、長槍、弓、剣、そして盾。

 どれも純白に金の装飾がなされ、光を放っている。


 その間に帝国軍の兵士達。

 メカの残骸を加工した白い装甲。

 大砲、チャリオット。


 その先頭に、馬に跨ったラプター大佐とファルコン少佐。


 千人。

 いや、それ以上。


 セラは口を押さえて座り込んだ。


 神父は、バルコニーの下を見下ろした。


「しかし……ソルセリオン様。これで、本当に良いのでしょうか……?」


 ソルセリオンは、横目で神父の顔を見下ろした。


「神の選択に、疑問を?」


「い、いえっ! 滅相もありません……ただ、また森が襲いかかって──」


「だから先に手を打つのだ。野獣のようなワイルドブラッドとは和解は出来ぬ。人々の生活、安寧を脅かす存在、魔族と変わりない」


「……はい。仰る通りかと……」


「陽が昇る前に出る。セラを監視しておくのだ」


 セラは、肩を震わせた。

 いや、足も。

 体に力が入らない。


「し、知らせなきゃ……。森に……シルヴァーナに……」


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