第75話 伝説のアウトロー 〜地下から響く 地獄のEngine 炎の輪で囲む 太古のLegend 名前なき部下が 震えて伏せる 路地裏の声が 伝説を止める〜
ロベルトは、足を止めた。
「ここかぁ」
島の中心。
頂上が見えない黒い岩山が、フリークス達を見下ろした。
ズン!
ズン!
絶え間なく響く重低音が、フリークス達の腹を突き上げる。
ウィーニーは、下を見たままだった。
トラッシュには、名前がない。
消耗品。
生き残った奴だけがデビルズになる。
──デビルズのやり方に文句言ってんのかぁ。
シャクールの言葉が、頭の中で駆け巡る。
「デビルズの……やり方……か」
その横でシャクールが岩山を見上げながら呟いた。
「こんな山の上に……」
ゴゴゴ……。
地面が揺れた。
トラッシュ達が一歩後退る。
ロベルトは、ニヤリと笑った。
「上じゃねえ。──下だぁ」
その時、地面が大きく揺れた。
「なんだ!?」
扉が開くかのように、地面がゆっくりと、真っ二つに割れる。
「地下トンネル? ……これが、入口?」
フリークス達の目の前に、現れた真っ暗な穴。
シャクールは、恐る恐る中を覗き込んだ。
微かな月明かりがその闇に差し込む。
「これは……道路?」
孤島には似つかわしくない舗装された道が、闇の奥に向かって真っ直ぐに伸びていた。
「こんな孤島に、道路……。ここは、一体……」
「でも……なんで、開いた?」
ロベルトがシャクールの肩を叩いた。
「シャクール、下がってろぉ」
「ん?」
その時、暗闇の奥で何かが光った。
ズンッ。
そして、地響き。
シャクールの耳がピクッと動いた。
「この音……エンジン音?」
「フロイドが、飛び跳ねて喜びそうだなぁ」
シャクールは、ロベルトを振り返った。
「フロイド? ってことは……ヘルズロッカーってもしかして──」
「ああ、バイカーだ」
ブオオオオンォォォンッ!
その瞬間、暗闇から巨大な影が飛び出した。
ブババババ、ブオンッ! ブオンッ!!
けたたましい轟音と炎をぶっ放しながら無数のバイクが、砂埃と炎を巻き上げフリークス達を一瞬で取り囲む。
漆黒の孤島のど真ん中に、炎の輪が浮かび上がる。
「コイツらが……太古の悪魔」
「アウトロー魔族の元祖……ヘルズロッカー……」
巨大なバイクにまたがる悪魔。
巨体。真っ赤な顔に長い無精髭。
曲がりくねった巨大な角は、その大きな背中に向かって弧を描いている。
革ジャンの裾から覗く太い腕は、毛に覆われていた。
「ロベルト……。コイツらって……」
「アークデーモン。最上位魔族だ」
その手には黒鉄の金棒。
三又の槍。
大砲のようなショットガン。
ズンッ! ズンッ! ズンッ!
巨大なラジカセやスピーカーを掲げている悪魔もいた。
ウィーニーは、トラッシュ達を振り返った。
トラッシュ達は瞳を大きく揺らし、足を震わせて小さくなっている。
やがてヘルズロッカー達は、バイクを止め、そのギラつく大きな赤い目で、フリークス達を見た。
そのバイカー達を掻き分けるように、さらに大きな悪魔が前に出た。
白い髭。
顔中に彫られた禍々しいタトゥー。
人の大きさほどの葉巻を咥え、フリークスを見下ろした。
「小悪魔のガキどもがぁ、この聖地になんのようだぁ!」
その声が落ちた瞬間、フリークス達の膝が勝手に沈んだ。
空気が重い。
まるで、キング・デヴィンの前に立たされた時のように。
トラッシュ達は震え上がり、思わず地面に突っ伏した。
ロベルトが、ゆっくりと一歩前に出た。
「噂以上だぁ。伝説のアウトロー、ジャックさんよぉ」
ジャックと呼ばれた悪魔は、ロベルトを見下ろした。
「ほう。小悪魔が、オレ様の名前を知っているか」
「ああ。知ってるぜぇ。自由と暴力のロックンロールミュージック。魔族に逆らった最初の悪魔──オレ達ストリートデビルズのお手本のような伝説だ」
ジャックは、ロベルトにゆっくりと煙を吹きかけた。
「フン。ストリートデビルズだとぉ? なんだ、そりゃぁ?」
ロベルトは、言った。
「あんたらと同じ──何にも縛られねえ悪魔だぁ」
「ほう」
ジャックは、ロベルトに顔を近づけた。
「ガキが。てめえらもロックンローラーとでも言いてえのかぁ?」
ロベルトはニヤリと笑うと、自分の胸をトントンと叩いて言った。
「ラッパーだぁ」
ヘルズロッカー達は、顔を見合わせた。
沈黙。
そして。
「ブワハハハハッ!! ラッパーだとぉ!! ガキの言葉遊びのことかぁ!! それで、オレ達と同じだと!? とんだ冗談だぜ、ガキどもぉ!! ブワハハハハッ!!」
ロベルトは、ジャックの顔を下から覗き込むと、ため息を吐いて言った。
「ふう、そうか。残念だぜぇ」
「あ?」
「伝説のアウトロー。元祖アウトローって聞いてたが……。結局、てめえらは、力に屈してアウトローを貫けず、こんな孤島にしけ込んでるだけのクソジジイどもの集まりだって事が分かって、残念だって言ってんだよぉ」
ジャックの体から、ふわりと赤黒いオーラが漏れ出す。
「なんだと、クソガキ。もういっぺん言ってみろ」
ロベルトは、ジャックの顔に額を押しつけた。
「ああ、何度でも言ってやるぜぇ。そして世界中にいいふらしてやる。てめえらはアウトローでもなんでもねえ。てめえらの伝説は──ただの腰抜けクソ雑魚妄想ボケ老人の戯言だったてなぁ!!」
シャクールが小さく言った。
「ロベルト……流石に……言い過ぎ──」
ジャックの目が赤く光った。
「相分かった」
その瞬間、ジャックのオーラが弾けた。
「くっ!」
「ぐあっ!」
爆風に吹き飛ばされるフリークス達。
ロベルトの口から血が滴る。
ロベルトは、口を拭って小さく言った。
「チッ。パワーは、本物かぁ」
ヘルズロッカー達はゆっくりとバイクを降りると、フリークスの方へ向かって歩き出した。
シャクールが、ウィーニーを振り返った。
「くるぞ、ウィーニー。今度は躊躇ったら冗談じゃ済まねえぞ」
「う……うん」
ウィーニーは、トラッシュを振り返った。
三匹のトラッシュは、ガクガクと震え身を寄せ合っていた。
「お前達……」
ウィーニーは、目を見開いてポンと手を叩いた。
「そうか!」
ヘルズロッカー達が歩む度に地面が揺れる。
ロベルトは身を屈め、シャクールは、手に炎を纏った。
シャクールの瞳が揺れた。
「死ぬかもな……これ」
ヘルズロッカー達が、身を低くして構える。
三度、沈黙が落ちた。
その時──ウィーニーが叫んだ。
「トラッシュ!! ビートだ!!」
「……」
トラッシュ達は、目を丸くして立ち尽くしていた。
「何してる! ビートだよ! 叩け!!」
「……うぃす」
「……うす」
「……」
トラッシュ達は、胸を叩き始めた。
ドン。ドン。ドン。
「もっと強く! 叩け! お、お前らも手伝ってくれ!」
ウィーニーは、他のトラッシュ達を見た。
「お……おう」
ドンッ。ドンッ。
沈黙の中、トラッシュ達のビートが鳴った。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
「よっしゃ! 行くぜ! ──YO! 待てよ、おっさん!」
シャクールは、目を丸くしてウィーニーを振り返った。
「ウィーニー、お前……何を?」
「あん?」
「なんだぁ?」
ヘルズロッカー達の足が止まった。
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Yo オレ達はストリートデビルズ オレはウィーニーだ
お前らがディスったラップ 聞いてからでも遅くねえだろ そうだろロック?
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ロベルトもウィーニーを振り返った。
ジャックは、無言でウィーニーを見下ろした。




