第74話 地獄の番犬と名前のない部下 〜吠える番犬 振り下ろされる炎 躊躇った拳に シャクールの檄 ヒッター・ウィーニー 初めて知る責〜
フリークスは、ロックンロールアイランドに上陸した。
ズンッ。
ズンッ。
夜の島に、重低音が絶え間なく響いていた。
辺りを見渡すフリークス達を、見下ろす頂上の見えない岩山。
ウィーニーは、たまらずシャクールに話しかけた。
「この、腹に響くような音は何? 一体ここには、何が……」
「いや……オレも噂に聞いた程度だからなぁ」
すると、ロベルトが身を屈め、目の前に広がる、黒い森に向かって構えた。
「おい。喋ってる暇ねえぞぉ」
「え?」
その時。
ズウゥンッ!
ズゥン!
重低音に混ざる大きな足音。
地面がわずかに揺れる。
ズゥンッ!
ズウゥゥン!
「近づいてきてる!」
「な、何が!?」
グシャアァァァッ!
森の木々が割れた。
「ガウゥゥゥッ!!」
唸り声。
目の前に現れたのは──
シャクールは、思わず一歩下がった。
「いっ、犬!? デケェ!!」
ウィーニーは、その場に立ち尽くした。
「な……何これ……。犬が……革ジャン着て……立ってる」
巨大な闘犬の顔。
黒い革ジャン。銀のスタッズ。
手には、巨大な斧。
その斧から、マグマのような炎が漏れ落ちる。
燃えるように赤く光る目が、フリークス達を見下ろした。
ロベルトが舌打ちした。
「チッ。ガルムルだぁ」
「ガルムル?」
シャクールも身を屈めて構えた。
「コイツが……ガルムル」
ガルムルの斧から溢れる炎の熱が、ウィーニーの髪を焦がした。
ウィーニーは、一歩下がった。
「ガルムルって……何?」
シャクールは、ウィーニーを振り返って言った。
「地獄の番犬ガルムル。オレも初めて見た」
「地獄の……番犬?」
シャクールは、ロベルトの方を見た。
「ってことは……嘘だろ、ロベルト!? まさかオレ達が喧嘩しに来た相手って!?」
ロベルトは、ニヤリと笑った。
「ああ、そうだぁ。──太古の魔族アークデーモン。魔族の元祖アウトロー集団、ヘルズロッカーだ」
「ヘルズロッカー?」
ガルムルと呼ばれた犬は、燃え盛る巨大な斧を振り上げた。
「おしゃべりは後だ! 避けろ!」
ブンッ!!
「うわああぁぁぁ!」
フリークス達は、左右に割れるように飛んだ。
ドゴオオォォォン!!
ガルムルの一撃で地面が割れ、火柱が上がる。
漆黒の闇に包まれていた島が炎で照らされた。
ロベルトは、口を拭った。
「こんなもん食らったら、ひとたまりもねえなぁ、おい」
シャクールが叫んだ。
「見てる場合じゃねえ! トラッシュども、行け! 目ぇ潰せ!!」
シャクールの号令で、トラッシュ達が一斉にガルムルの体を駆け上がる。
「トラッシュ……。ん?」
ウィーニーは後ろを振り返った。
「お前達……」
「うぃす」
「うす」
「……」
「そうか……オレが指示しないからそこにいるのか」
「うぃす」
「うす」
「……」
ウィーニーは、頭を掻いた。
「いや、だって……お前ら……あんなのに向かっていったら……」
ガルムルは、体に纏わりつくトラッシュを振り払った。
「ガオオオオオォォォ!!」
「ぐわぁっ!」
弾き飛ばされるフリークスのトラッシュ達。
シャクールが、ウィーニーを振り返った。
「ウィーニー! 何してやがる!! そいつらにも指示だせや!」
「いや、指示って言われても……」
その時、ロベルトが地面を蹴った。
「どいてろぉ」
トラッシュ達は、ガルムルから飛び降りた。
赤い閃光が、ガルムルの懐に向かって走る。
ガルムルは、ロベルトに向かって斧を振った。
ブンッ!
「いくぜぇ」
ロベルトが地面を蹴って飛び上がる。
空振りしたガルムルが、飛んだロベルトを見上げる。
「躾だぁ、ワン公」
ロベルトの体が赤く燃え上がる。
振り上げた拳が頂点で止まった。
落下。
「ほらよぉ」
次の瞬間、ガルムルの頭に、隕石が落ちる。
ドゴオオォォォンッ!!
「ギャウンッ!!」
ガルムルは、大きく仰け反り、フラフラと後退する。
そして、ゆっくりと倒れた。
ドシィィィィンッ!
「やったかぁ?」
シャクールとウィーニーは目を見開いて、立ち尽くしていた。
「強すぎる……ロベルトが」
「う……うん」
しかし、ロベルトの目が再び鋭くなる。
「いや」
「ガルルルゥ……」
「お、おい。嘘だろ……ロベルトの一撃をまともに食らって……」
ガルムルは、首を鳴らしながらゆっくり立ち上がった。
ロベルトが再び構えた時──
ズシンッ!
ガルムルは背を向け、森の中へ帰って行った。
「え」
ロベルトが、静かに呟いた。
「報告に、帰ったかぁ」
シャクールは、ウィーニーに歩み寄った。
「おい、ウィーニー! せっかくトラッシュをつけてやったのに、なんで指示出さねえ! てめえ、やる気あんのか!」
「いや、だって……こいつらが行ったって殺されるだけじゃん。オレの指示でコイツらを殺すなんて……」
ガツンッ!
シャクールの拳が飛んだ。
「痛っ!!」
「何言ってんだ、てめえ! コイツらは、消耗品だって言ってんだろうが! そこで生き残った奴がデビルズになるんだ!」
「……でも……」
「でもじゃねえ! てめえが指示を躊躇ったせいでロベルトが死んだらどうする? 全滅したらどうする?」
「だけど……」
シャクールは、ウィーニーの胸ぐらを掴んだ。
「まさか、お前、デビルズのやり方に文句言ってんのか?」
ウィーニーは、首を振った。
「違うよ。でもなんか、トラッシュを育てる方法は他にもあるんじゃないかって……」
「なんだそれ?」
シャクールは、手を離してロベルトを振り返った。
「なあ、ロベルトも、なんか言ってやってくれよ」
ロベルトは、何も言わず、ガルムルが消えた森に向かって歩いて行った。
ウィーニーは、名前のない三匹のトラッシュを見た。
三匹は、何も言わずにウィーニーを見上げていた。




