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路地裏のウィーニー  作者: みゃーじま
第五章 アウトローのアウトロー
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第73話 ヘルカ・オルカ 〜シャチの咆哮 片道切符か初めて渡る海 後ろで動くトップの思考〜

「よっしゃあ! フリークス! 今日も気合い入れて行くぜ!」


 久しぶりにエースヒッター、シャクールの号令で始まった一日。


 夕陽が、13番街の港を赤く染めていた。


「と、その前に、新しくヒッターになったウィーニーに部下をつける!」


「部下?」


「おい! そこのトラッシュども! こっちに来い!」


 シャクールが指を差すと、三匹の小悪魔がウィーニーの前に並んだ。


 五歳児ぐらいの大きさ。

 小さな棘のような角が生えている。


「お前ら三匹は、ウィーニーの部下だ! いいか、ウィーニーの言うことを聞くんだぞ!」


「うぃす」

「うす」

「……」


 ウィーニーは、三匹の小悪魔の顔を覗き込んだ。


「よ、よろしく」


「うぃす」

「うす」

「……」


「ノッポの小悪魔に、デブの小悪魔に、中ぐらいの……なんかお前、生意気そうな小悪魔だな……」


「フンッ!」


 中ぐらいの小悪魔は、そっぽを向いた。


 シャクールが叫んだ。


「よーし、お前ら、船に乗れいっ!」


「え、船?」


 シャクールは、ウィーニーを振り返った。


「おう! あそこに離島が見えるだろ? 今日は、あそこに行く!」


 シャクールが指を差した先。


「何も……見えないけど?」


 シャクールは頭を抱えた。


「そうか! お前の視力じゃ見えねえか。この先に島がある。ロックンロールアイランドだ!」


「ロックン……ロール……何、ソレ?」


「まあ、行きゃ分かる! 帰って来れるかどうかは知らんがな、ハハハッ!」


「え」


「そうだよな、ボス!」


「ああ。帰ってきた悪魔は、いねえわなぁ」


「ロベルト! え、いや、帰ってきた悪魔はいないって……そんな危険なところにわざわざ何しに?」


 ロベルトは長髪を掻き上げ、ニタリと笑った。


「喧嘩に決まってんだろうがぁ」


「さぁ、フリークスども、乗れ!!」


 ウィーニーは、首を傾げた。


「乗れって……何に? 船らしきものは、ないけど……」


 すると、トラッシュ達が、一斉に海に何かを撒き始めた。


「それは、何?」


「アンデッドの骨だ。あいつらのエサだ」


「あいつらって……。ねえ、シャクール。島にはどうやって行くの?」


「あん? そんなの、ヘルカ・オルカに、決まってんだろ」


「ヘルカ……オルカ?」


 その瞬間、海面が割れた。


バシャアアアァァァンッ!!


「ひっ! な、なんだあれ!?」


 ウィーニーは、その場で尻もちをついた。


 凶悪な牙を天に向けている。

 溶岩が固まったかのような体表。

 その裂け目から、マグマのような光を放っている。

 触れた海水は、そのまま蒸発し水蒸気をあげていた。


 頭には大きな槍がブッ刺さり、チェーンで繋がれている。


「……操縦桿?」


 シャクールは笑った。


「ハハハ! ビビりすぎだ、ウィーニー! 地獄のシャチ。これがオレ達の“舟”ヘルカ・オルカだ!」


「ヘルエナに、ヘルパニッシャー、そしてヘルカ・オルカ……デビルズって……たくさんペットがいるんだね」


「そうだ! さあ、乗れよ、ウィーニー! ロックンロールアイランドに向かうぜぇ!」


 フリークス達を乗せたヘルカ・オルカは、その巨体を翻し、水平線に向かって泳ぎ始めた。


 みるみる小さくなる13番街の港。


 そこには、二つの影が立っていた。


「準備がいいな、オスカー」


「マイク」


「魔族との戦争が起きると?」


 オスカーは、頭を掻いた。


「いやぁ、念の為さ」


 マイクは、小さくなっていくヘルカ・オルカの背中とフリークス達を見つめた。


「念のため、の割にはリスクが大きい」


「ハハ。デヴィンに、怒られちまうかな?」


 マイクは腕を組んで小さなため息を漏らした。


「万が一、魔族全部を敵に回すような事態になりゃぁ……。ふう……まあ、仕方ねえだろ」


「だよな……」


 そう呟くと、オスカーは、マイクに背を向けて歩き始めた。


「ちなみに、“ナーズ”の奴らにも声かけといたから」


 マイクは、ニヤリと笑ってオスカーを振り返った。


「なーにが“念のため”だ、オスカー。本気で、やる気じゃねえか」


 一方、ヘルカ・オルカの背中の上では。


 シャクールが、呟いた。


「それにしても、毎回オレ達フリークスは、とてつもねえミッションが降りてくるな……」


 ウィーニーは、シャクールの背中に話しかけた。


「ねえ、シャクール。デビルズには、オレ達フリークスとシュガーのドールズ以外にも、チームがあるの?」


 シャクールはわずかに振り返った。


「ああ、あるぜ。全部で6チームだ」


「6チーム!? そ、そんなにあるの!?」


「ハハ! そうだ! デビルズの強さは底なしだぜ!」


 その時、ウィーニーの視界に黙って座る三匹のトラッシュが映った。


「そういえば……お前達、名前は?」


「うぃす。無いっす」

「うす。無い」

「……トラッシュだぞ、オレ達」


 ウィーニーは、目を丸くして言った。


「え!? 名前、無いの? ……よぉし、じゃあ、オレが──」


 その時、今まで黙っていたロベルトが、ウィーニーを制して言った。


「ガキィ。そいつらに名前をつけるんじゃねえぞぉ」


「え」


 すかさずシャクールが言った。


「そいつらはトラッシュ。消耗品に名前はいらねえ」


「消耗品……」


 シャクールは続けた。


「そこから、上がってこそストリートデビルズになれるんだ。それがデビルズの強さだ」


「名前がないところから……」


 ウィーニーは、拳を握ってトラッシュ達の顔を覗き込んだ。


 シャクールが、小さく笑った。


「フン。気付いたかウィーニー。どんな名前だろうが、あるだけマシなんだよ、デビルズではな」


「……」


 ウィーニーは、静かに下を向いた。


 ロベルトが、ゆっくり立ち上がって言った。


「見えたぞ。踏み入れたら、二度と出られねえ島──ロックンロールアイランドだ」


 ロックンロールアイランドと呼ばれた孤島。


 巨大な岩山が中央に聳え立ち、真っ黒な雲がその頂上を隠していた。


 岩山の奥から、響く地鳴りのような低音がフリークス達を迎えていた。


ズンッ。ズンッ。ズンッ。


 ウィーニーは、山を見上げて唇を震わせた。


「ここが……ロックンロールアイランド……」


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