第71話 神の毒 〜救いの言葉で差し出すチェイン 解放の条件 セラへのペイン 毒を見抜いた緑のフレイム 自然が示した世界のフレーム〜
「大佐、お気をつけください。どこかにゴーストが潜んでいるやもしれません」
ファルコン少佐は警戒するように辺りを見渡すと、ラプター大佐に言った。
「わかっている……」
「怖いか、ラプター?」
ファントムは、ラプターに歩み寄った。
「……怖いに決まってる。あなたは、伝説だ。いまだに私の上官であり……師。それが今、敵側にいる──」
「敵側、か」
ファルコン少佐が銃を握りしめた。
「大佐、油断してはいけません!」
「安心しろ。私は戦いに来てはいない。シルヴァーナを……止めに来た」
「将軍……なぜ。なぜワイルドブラッドと……。かつては、帝国軍の繁栄を、人間の繁栄を目指していたはず」
「今でも変わらんさ」
「では、なぜ!? 私は……私は軍人として、将軍の後ろを歩んでいたにすぎない! 私は──」
「お前は悪くない。私はもう、帝国軍を恨んでなどいない」
「……」
「軍人としてではなく、武力ではなく、他の方法で平和の道を探しているだけだ」
「私の背中を見て来たお前なら、いずれわかる日が来るさ」
そう言うと、ファントムは、光に拘束されたシルヴァーナを見た。
その視線の先で、ソルセリオンが、ゆっくりと、シルヴァーナに、歩み寄っていた。
「さて──ワイルドブラッド」
拘束されたシルヴァーナは、ソルセリオンを、睨みつけた。
「どう収めましょうか?」
セラはソルセリオンに歩み寄った。
「もうやめて! シルヴァーナさんを、離してください!」
その時、ファントムが叫んだ。
「セラ! そいつに寄るな!」
セラに向かって駆け出した瞬間、エターナルの兵がファントムを取り押さえた。
「ぐっ! 離せ!」
「ファントムさん! もう、みんな、やめて! どうして……どうしてこんなこと……」
ソルセリオンは、セラを見つめて言った。
「その通りだ。そして、セラ。これは君が終わらせられる」
「え」
「ワイルドブラッド、反乱軍、あなた達を解放しよう。今日のことは無かったことに。時間はかかるかもしれませんが、共に平和と調和の道を探しましょう」
セラは、平伏した。
「主よ……ありがとうございます! 帰ろう、シルヴァーナさん、ファントムさん!」
ソルセリオンは、セラに手を伸ばした。
「君はここに残りなさい。それが、解放の条件です」
「なっ……私が……残る?」
「セラ。主の言う通りだ」
聞き慣れた声に、セラは振り返った。
「神父……」
「お前はシスターだ。神に仕え、神のお声を聞いて人々を救済する。それがお前の務めだ。この街で、今まで通りにな」
沈黙が落ちる。
セラは、静かに頷いた。
「分かりました……」
「さあ、私の手を。二人を解放しよう」
そう言うと、ソルセリオンは、静かに手を差し出した。
セラはソルセリオンの前に立つと、ゆっくりと手を伸ばした。
その手が触れる寸前──
「フッフッフッ……。争いはなくならぬ。貴様らのような狡猾な神と愚かな人間がいる限り」
「シルヴァーナさん……」
「小娘、まだ気付かぬか。神の毒に」
「神の……毒?」
「それに、私は拘束などされていない」
シルヴァーナの足元で、細い草が芽吹いた。
「え」
「自然は、貴様ら神如きに拘束などされない」
シルヴァーナの目が緑に光り出した。
「解放だと? 笑わせるな、毒め」
ソルセリオンは、首を傾げた。
「ワイルドブラッド。何をするつもりだ」
シルヴァーナの体の中から、緑の光が漏れ出した。
ソルセリオンの顔が歪んだ。
「くっ……」
バチンッ!!
その瞬間、シルヴァーナを拘束していた金色の光が弾け飛んだ。
「何だと!?」
「私が正してやろう。貴様らのその歪んだ思想を──」
シルヴァーナは、両手をゆっくりと掲げた。
「貴様らの世界の中に自然があるのではない──」
ズンッ!
その手を地面に突き刺した。
「貴様らが、自然の中にいるのだあああぁぁぁ!!」
その瞬間、緑の光が──弾けた。
ソルセリオンは、セラを庇い光の壁を展開した。
木々が地面を割り、天に向かって伸びる。
蔦が刃となってエターナル兵に突き刺さる。
司令塔は一瞬で苔むし、蔦が無機質なコンクリートを覆った。
全員が、目を開けた時、そこにシルヴァーナの姿はなかった。
残されたのは、苔むした司令塔と、濃い森の匂いだけだった。




