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路地裏のウィーニー  作者: みゃーじま
第五章 アウトローのアウトロー
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第70話 もう誰も死ななくていい 〜自然の代弁者  背負った自然のアンガー 最後のワイルドブラッド 助くるは神を呼んだシンガー〜

 数刻前。

 セラは、森の中を歩いていた。


パリッ。

パリッ。


 枯葉を踏んだ音だけが、響く。


 セラは、大木の前で足を止めた。

 見上げた大木は、夜空のほとんどを隠していた。


「シルヴァーナさんは、ここで何を……?」


 セラは大木にゆっくりと手を当て目を閉じた。


ドクンッ。


「え」


 森の鼓動。

 心音のような音が、セラの頭に響いた。


 その時。


──神の匂いがする。


「え!?」


 セラの頭に言葉が流れ込んできた。

 低く、重厚な声。


「今、誰かの声が……」


──そなたは、誰だ?


「やっぱり聞こえる! ……わ、私は……セラといいます」


──セラ、か。


「あ、あなたは!? 誰!?」


──……慌てるな、セラ。言葉を思い出すのに、時間がかかる。


「思い出す?」


──誰かと問われた……言うなれば、自然の意識、とでも言おう。


「自然の意識……。もしかして、さっきシルヴァーナさんは、あなたと話をしていたの?」


──シルヴァーナ。愛しい自然の子。そして……哀れな子じゃ。


「哀れ?」


──お主にも、シルヴァーナと同じものを感じるのう。


「同じ、もの? 私が、シルヴァーナさんと同じ?」


──意思ある者に、意図を持って作られた存在。背負っておるのじゃ──何者かの意思を。


「意図を持って……作られた……。シルヴァーナさんは、何を……?」


──怒り、じゃ。


「怒り?」


──自然は怒りを、彼女に託してしまった。踏み躙られた自然の調和。シルヴァーナは、声無き自然の怒りそのものじゃ。


「声無き自然の怒り……ワイルドブラッドって、一体……」


──自然の代弁者。それが、ワイルドブラッドじゃ。


「自然の代弁者……」


──自然との完全なる調和の中で生きる古代の種族。シルヴァーナは、その唯一の生き残り……


「ゆ、唯一っ……? じゃ、じゃあ、シルヴァーナさんがいなくなってしまったら……」


──我々、自然は声を失う。もう自然を気にするものはいなくなるであろう。


「そんな……」


──シルヴァーナは飛び抜けたその才覚のせいで両親の手に負えず、森の精霊に育てられた。最後にして最強のワイルドブラッド。……だが背負った怒りが強過ぎる。このままでは……。


「そう……」


──止めてくれ。あの子を、死なせてはならぬ。


 セラは、ゆっくりと手を離した。


「そんなこと、私に……出来るかな……」


 シルヴァーナの言葉が、セラに突き刺さる。


──貴様が呼んだ神のせいで、帝国軍は力を取り戻し、森を焼く。


「……」


 独り森の中へ消えて行ったシルヴァーナの、後ろ姿が浮かんだ。


「……やってみる」


 セラは、拳を握った。

 木々がザワリと揺れた。


 セラが去った後、自然の声が静かに森にこだました。


──ところで……セラ。お主は何を託されて生まれて来たのかのぉ?


 一人、森を駆け出したセラ。

 

 その後ろに、蹄の音が迫った。


「どこへ行くつもりだ、セラ?」


 セラは、ファントムの方を見ずに言った。


「ハア、ハア……シルヴァーナさんを……止めなきゃ」


 ファントムは、呆れたように息を吐いた。


「お前独りで、か?」


 セラは答えなかった。

 

 ファントムは、セラに静かに手を伸ばした。


「乗れ」


「……はい!」


 ──壱番街の入り口。

 帝国兵、エターナルの兵が重なるように倒れていた。


「間に合わなかった……」


 セラは視線を落とした。

 ファントムは、セラの肩に手を置いた。


「まだだ。行くぞ」


 二人は、人気の無い壱番街を駆けた。

 司令塔の明かりが近づく。


「人影?」


「いっ、いた!! シルヴァーナさん!! 待って!!」


 シルヴァーナの視線が、セラを捉えた。

 その瞳が僅かに揺れた。


「ちっ、小娘。何をしに来た」


 その瞬間、シルヴァーナの足元に光の輪が浮かんだ。


「くっ!」


 ソルセリオンの手から放たれた金色の光が、シルヴァーナを拘束した。


 ウッドエルフ達は、一斉にソルセリオンに向かって矢を放つ。


 ソルセリオンは、もう一方の手で、光の壁を作り出した。


 光に弾かれ、砕けるウッドエルフの矢。


 今度は、エターナルの兵が、エルフ達を押さえつけた。


「ラプター……」


「ファントム将軍……」


 二人の軍人が、その横で向き合った。


 ソルセリオンは、笑みを浮かべ、セラを見つめた。


「待っていましたよ、セラ。やはり今夜は、いい夜だ」


「もうやめて! 誰も、誰かのために死ななくていい!!」


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