第69話 不自然の根絶 〜静かな夜に 黒羽が刺さる 毒の目を嫌い 森が牙剥く 聖女の名で 希望を縛る 自然の怒りが 絶滅を告げる〜
その日の壱番街。
静かな夜だった。
警戒中の帝国兵のブーツの音だけが鳴る。
エターナルの兵は、微動だにせずただ暗闇を見つめていた。
帝国兵の一人が呟いた。
「神の軍隊……なんか、不気味だな」
「ああ、寝ないし、メシも食わねえ。こんな軍隊と戦ったら、勝ち目ねえよ」
二人の兵はゆっくりと、エターナルの兵を振り返った。
「え!?」
仮面の下から覗く口元を、赤い滴が伝った。
「血!?」
エターナルの兵は、ゆっくりと、前のめりに倒れた。
「おい、この矢……」
背中には、黒い羽根がついた矢が突き立っていた。
「て……敵しゅ──」
叫ぼうとした瞬間、視界が半転した。
音もなく、落ちた帝国兵の二つの首。
ザッ。
ドサッ。
暗闇で、兵士が倒れる鈍い音だけが落ちていく。
窓から外を眺めていたソルセリオンは、目を閉じて言った。
「お会いできて光栄です──ワイルドブラッド」
ソルセリオンの背後で赤い髪が揺れた。
「いきなりウッドエルフを引き連れて夜襲とは、いささか答えを急ぎすぎておられるようですね」
窓ガラスに、エルフ達の姿が映った。
月明かりの下、いくつもの影が揺れていた。
木の葉のような、緑の装束。
尖った耳。
切れ長の目が緑に光る。
ソルセリオンが、背後を振り返ろうと顔を動かす。
「振り返る必要はない」
シルヴァーナは、その背に曲刀を当てた。
「貴様らの目は、毒だ」
ソルセリオンは小さく息を吐いた。
「自然が、猛っておられる。それも当然です。帝国軍は力を取り戻した。その刃が、いずれ森に向くのではないかと──」
シルヴァーナは、ソルセリオンの言葉を遮った。
「御託はいい」
「私の言葉がいらないのなら、何故その刃は止まっているのですか?」
シルヴァーナの目が鋭くなった。
「貴様らを呼んだあの娘。何者だ? それを聞いたら貴様の首をはねる」
「フッ。まさにそれが、あの子の正体ですよ」
シルヴァーナの眉がピクッと動いた。
「どういう意味だ?」
「あの子は、我々の希望。現にあの子は、ここにいないままにあなたの刃を止めてるではありませんか」
「なんだと?」
その瞬間、ソルセリオンの体から金色のオーラが滲む。
シルヴァーナの手が、震えた。
「くっ……手が……動かない。何をした、貴様!」
ソルセリオンは、静かに微笑み、窓を開けた。
「今宵は、静かないい夜です。外へ出ましょう」
そう言うと、ソルセリオンは窓の外へ身を投げた。
同時に、金縛りが解かれた。
「待てっ!」
シルヴァーナも後を追い、飛び降りた。
地に降りたソルセリオンをウッドエルフが囲む。
そのさらに外側を、エターナルの兵士たちが取り囲んだ。
神兵と森の守護者達は、互いに弓を引く。
白銀の矢と黒い羽根が付いた矢が向き合った。
後を追ってきたシルヴァーナは、ソルセリオンに再び刃を向けた。
ソルセリオンは空を見上げた。
「本当に今日は、いい夜だ」
「答えろ。あの娘は、何者だ」
ソルセリオンは、壱番街のゲートに目を移した。
「あの子は、神と人を繋ぐ我々の希望。やがて人々を救う──神の血を引く聖女となる存在です」
「聖女、だと?なるほど、貴様らの駒というわけか」
「時に、ワイルドブラッド。そなたの名は?」
「今宵死ぬ貴様に、教える名などない」
その時、司令塔の扉が勢いよく開いた。
「ソルセリオン殿! 何事か!?」
「こっ、こいつらは、一体……」
ラプター大佐とファルコン少佐だった。
遅れて神父が駆け出してきた。
「ワイルドブラッド……。そしてアレは……ウッドエルフか!?」
ソルセリオンは、小さくため息を吐いた。
「我々は、自然と戦う気はない。皆で共に歩む和平と調和の道を話し合いましょう」
シルヴァーナは、曲刀を握り直した。
「フン。笑わせるな。調和は、自然の中にしかない。気付かないのか? 幾千年もの間、壊され、焼かれ、殺されても、何も言わずただ貴様らを見守ってきた自然が、こうして意思を伝えに来た意味を」
シルヴァーナの目が、緑に輝く。
「不自然の根絶──自然は今、貴様らの、絶滅を望んでいる」
その時。
「シルヴァーナさん!! 待って!!」




