第68話 開かれぬ道 〜笑顔で嘘をカット ルートをシャット 悪魔と共に 見つかるキッド〜
壱番街の、司令基地。
入口には純白の鎧を身に纏った神の軍兵。
その横に帝国兵が並んで立っていた。
ラプター大佐は、長机の、末席に、座っていた。
その横にファルコン少佐。
上座には、ソルセリオン。
兜を外したその顔は、相変わらず、人のものとは、思えない。
琥珀色の瞳が、宙を見ている。
その後ろに、神の軍兵が二人立っていた。
その隣には、頭を垂れて神父が座っていた。
「さあ。始めましょうか」
透き通ったソルセリオンの声が、司令室に静かに響いた。
「ソルセリオン殿! ブラックゲートのアンデッドの掃討にお力をお貸しください! 早急に供給ルートを確保し、本営との連絡を──」
慌てたように訴えるラプター大佐を、ソルセリオンは笑顔で制した。
「大佐。まずは、お鎮まりください」
「我々帝国軍は、いつまでも神々のお力に頼っているわけにはいきません! 早急に──」
ソルセリオンは、わずかに語気を強めてもう一度ラプター大佐を遮った。
「その通りです」
「え」
ソルセリオンは、ゆっくりと立ち上がって言った。
「我々は、いつまでもこの地にはいられません。人はいつか自分で立たねばなりません」
ラプター大佐は、身を乗り出した。
「さすれば! 森がいつまた動くとも知れません! アンデッドも……。早急にブラックゲートの開通をせねば!」
ソルセリオンは目を閉じた。
「ソルセリオン殿! あの飛空艇をお貸し頂くことは可能か? まずは本営との連絡を──」
今度は神父が、ラプター大佐を遮った。
「大佐! 座りなされ! 主の前で、無礼であるぞ!」
ラプター大佐は、語気を荒げた。
「なんだと!」
その時、ソルセリオンの背後の神兵二人が一歩前に出た。
ソルセリオンは、片手を伸ばして二人を制した。
「大佐。まずは、お座りください」
ラプター大佐は座らなかった。
ソルセリオンは、それに構わず笑顔で話し始めた。
「まず南の森。監視のため6番街にエターナルの兵を置いています。こちらから森を侵さなければ、彼らから攻撃してくることはないでしょう」
ラプター大佐は、机を叩いた。
「ソルセリオン殿! それは甘いぞ! ワイルドブラッドどもは、我々に先制攻撃を仕掛けて来たんだ! なんの前触れもなく……6番街は、一瞬で落とされたんだ! 油断してはいけない!」
ソルセリオンの目がわずかに光った。
「大佐。嘘はいけませんね」
「嘘、だと!?」
「ワイルドブラッドが前触れもなく先制攻撃と?」
「そうだ!」
「数刻後に森へ侵入しようとしていたのは、大佐。帝国軍の方ではありませんか?」
「な……。た、確かに、そうだが、実際は──」
ソルセリオンは、窓際に置いてあった花瓶の花を指差した。
「ワイルドブラッドは、気を察知します。草木、虫、鳥、獣──ありとあらゆる生物が人の動きを感じています──心の動きすらも」
「なんだって……?」
ソルセリオンは、ファルコン少佐に視線を移した。
「貴方方はまだ、ワイルドブラッドの──自然の本当の怖さを知らない」
「……」
司令室に沈黙が落ちた。
ソルセリオンは、神父を見た。
「それに、かの森には我々を呼んだシスターがいますね?」
「セラ……はい」
「彼女は我々にとっても大切な子です。彼女を危険に晒すような事はなりません」
「セラが……。はい」
ソルセリオンは、ニコリと笑って続けた。
「飛空艇はいずれ用意しましょう。それよりも、大佐の仰る通り、まずはブラックゲートです」
今度はファルコン少佐が口を開いた。
「兵を、お貸し頂けますか?」
ソルセリオンは、頷いた。
「ええ。もちろんです」
ラプター大佐は、ゆっくりと座り直した。
「それでは、早速準備を」
ソルセリオンは続けた。
「ええ。周囲に群がるアンデッドを一掃し、ブラックゲートを封鎖。我々が結界を張ります」
今度は、ファルコン少佐が立ち上がった。
「ふ、封鎖っ!? そ、それでは供給ルートの確保になりません!!」
「封鎖しなければ、アンデッドはゲートから湧き続けます。物資は、我々が引き続きお届けします」
「し、しかし、それでは──」
ソルセリオンは、ラプター大佐に向き直り言った。
「それとも、物資の供給以外にルートを確保したい理由があるのですか──大佐」
再び沈黙が落ちる。
ラプター大佐は、静かに目を閉じて言った。
「……いや。……まずは、ソルセリオン殿の言う通りにしよう」
「安心してください。時がこれば、本営へのルートは開かれるでしょう」
皆が席を立った時、ファルコン少佐がラプター大佐に耳打ちをした。
「今朝、7番街で悪魔の襲撃が」
「何?」
「我々の兵は全滅。住民によると……」
「なんだ?」
「はい。……赤と金色の光が落ち、神の像を破壊。一瞬のうち殲滅されたと」
ソルセリオンの足が止まった。
ラプター大佐の目が鋭くなった。
「それで?」
「一本角、ジャージ姿の悪魔と人間のガキが立っていた、と」
「まさか……あのガキか?」
ソルセリオンが歩み寄った。
「少佐。あのガキ、とは?」
「はい。以前にも度々現れたガキです。いつも悪魔と行動を共にし、追い込まれると……金色に光る……」
ソルセリオンの口元にわずかに笑みが浮かんだ。
「なるほど。もう一人いるということか」
「ソルセリオン殿?……あのガキは一体……?」
ソルセリオンはそれに答えず、背を向けた。
「それにしても、悪魔と行動を共にとは──」
そう言うと、司令室を去っていった。




