第67話 オレみたいに 〜師匠から継承 落ちるんじゃねえ 向かってるだけ 怒りの火種が拳を焚け 弱さも優しさも 言い訳じゃ守れねえ 金の本能が神像を砕く〜
「うわああぁぁぁぁ!!」
ビルから放り投げられたウィーニーは、咄嗟に目を閉じた。
「おい、ガキィ。目ぇ開けろやぁ」
「え」
ウィーニーの横で、落下しながらロベルトが言った。
「思い出せ、ガキィ。その怒りの着火点」
「着火?……そんなことより……死ぬ……」
その時、ウィーニーの脳裏に老人が蹴られたシーンが浮かんだ。
「くっ」
「それだぁ。どうすんだぁ? もう逃げられねえぞぉ」
迫る地面。
「怒りを簡単に捨てるんじゃねえ。てめえの本能は、なんて言ってるんだぁ?」
「オレの……本能……」
ウィーニーの目が、わずかに金色に光った。
ロベルトは、赤いオーラを身に纏った。
視界に入った、帝国軍の兵士。
「ク……クソ……」
ウィーニーが拳を握ると、体が金色に光り始めた。
ロベルトが目を見開いた。
「それでいい。その拳が、てめえの本能だ」
そう言うとロベルトは、体を丸めて回転し始めた。
赤いオーラが、炎に変わる。
その炎が、ウィーニーの目に焼きついた。
ウィーニーも、ロベルトの動きを真似する。
広場の誰かが、叫んだ。
「な、なんだありゃぁ!!」
「いっ、隕石!? 二つ!?」
赤と金の光が、空気を裂く。
「ぶつけろ、ガキィ。弱さもいらねえ。優しさもいらねえ。それは、もう屋上に置いてきた」
世界が遅くなった。
怖くなかった。
落ちてる感覚もない。
地面は迫って来てない。
むしろ──
「オレから向かってるんだ!」
金色のオーラが、膨張する。
ロベルトが叫んだ。
「てめえの怒り! この世界に──ぶち込んでやれやぁぁ!!」
「うおおおおおぉぉぉぉ!!」
ドゴオオオオオオォォォォンッ!!
赤と金の隕石が、巨大な神の像に激突した。
立っていた帝国軍の兵士達は、爆風で吹き飛ばされる。
砂埃の中に、赤と金の光がゆらりと浮かんだ。
「きゃあああぁぁぁ!!」
「あ……悪魔だぁ!!」
悲鳴と共に住民達は逃げ出した。
大きく抉れた神の像。
純白の塗装の下から、鈍い金属の地肌が覗いた。
その像は、ゆっくりと倒れた。
帝国兵達はヨロヨロと立ち上がり、銃を構えた。
「悪魔め……」
「悪魔と……ガキ?」
「か、構わん! 撃ち殺せ!!」
帝国兵達は一斉にトリガーに指をかけた。
「いてて……」
ロベルトは、膝を擦るウィーニーを見下ろして言った。
「出来たじゃねぇか、ガキィ」
「う、うん……出来た」
ウィーニーは、埃を払い立ち上がった。
その時。
パァンッ!
一発の銃弾が、ウィーニーの頬を掠めた。
「ひっ」
ウィーニーは、咄嗟に顔を伏せた。
「バァカ、目を背けるなぁ」
「え」
「見えるはずだぁ。今のてめえならなぁ」
「見える?」
震える帝国兵の銃口。
パァン!
銃口が火を吹いた。
撃ち出される銃弾。
見えないはずのその軌道が──
「見……見える!」
ウィーニーは、顔を逸らし、通過する銃弾を目で追った。
遅い。
帝国兵は目を見開いた。
「あのガキ……いま……避けた?」
「撃て!! 撃てぇー!」
再び銃口を向けた先。
そこには、もう、二人の姿はなかった。
「消えた……?」
ドゴォッ!! ボコッ!!
打撃音と共に、倒れていく兵士達。
やがて、広場に立っている帝国兵は一人もいなくなった。
ウィーニーは、膝を押さえてあたりを見渡した。
「ハア、ハア……終わった……」
その頭に、ロベルトの大きな手が置かれた。
「いいか、ガキィ。てめえを強くするも、弱くするも、てめえ次第だぁ」
「ロベルト……」
「てめえの中で叫ぶ小せえ声。それがてめえの中で生まれる本能の声だぁ」
「……本能の声」
ロベルトは、ウィーニーに背を向け歩き出した。
「言い訳作って、その声を簡単に捨てるんじゃねえ。それが大事に出来ねえやつには、何も守れねえ」
「言い訳……」
「てめえは、まだ弱え。クソほど弱え」
ウィーニーは、一瞬下を向いた。
「……」
ロベルトは、足を止めた。
「だから、誰よりも強くなれる。ならなきゃいけねえんだぁ──」
「強く……」
ロベルトは、わずかに振り向いて言った。
「──オレみたいに、なぁ」
そう言い残して、ロベルトは雑踏へ消えていった。
ウィーニーは、その背中を、見送った。
ワンホーンの背中は、途方もなく大きかった。
だけど──
「オレ、みたいに……?」
胸の奥が、なぜか、少しだけ、ざわついた。




